第3話 一緒に格ゲー

『ファイターアクション6!』


 ゲームを起動し、コントローラーを霧切に手渡すと、キョトンとした表情で俺を見た。


「これがコントローラーってやつ?」

「そう、それでキャラを操作するんだよ」


 ゲーム未経験の霧切のために、コントローラーの持ち方から、操作方法やコンボの仕方など細かくレクチャーする。


「ゲームしたことないって言ってたけど、小学生とか中学生の頃とか、何してたんだ?」

「う~ん。友達と買い物とかかな? あとはカフェで話したりとか」


 ゲームが生活の一部になっている俺からしたら考えられないが、経験がない人がいても不思議ではない。


「ウチ、この子にする」


 霧切が選んだのは、『シャオメイ』というチャイナ服に身を包んだ可愛らしいお団子頭が特徴的なキャラだ。


「それじゃあ俺は、こいつかな」


 俺が選んだのはシャオメイとは対照的な、屈強な身体を持つ『やなぎ』というキャラ。

 このゲームの中では一番使用歴が長く得意なキャラだ。

 とりあえず、ジャンプと蹴り、パンチ、ガードなど基本的な操作を軽く教え終え、早速実践へ――。


『Ready Fight!』


 試合が開始するのと同時に俺との距離を取ろうとする霧切。慣れていないのか様子を窺っているらしい。

 俺は、つかさず間合いを詰め、パンチ技を繰り出す。


「ちょっと、木下、女の子に対して酷すぎじゃない?」

「おいおい、これはゲームだぞ」


 まだ操作に慣れていないためコントローラーのボタンを適当に押し出す霧切。

 ゲーム初心者らしい言い訳にクスリと笑みが零れる。でも残念ながら俺は女性が相手だろうと手は抜かない。

 それがゲーマーとしてのポリシーだ!


「今だ!」


 まぐれで繰り出したであろうシャオメイの足技をなんなく躱し、柳のアッパーがさく裂。

 それを何度も繰り返し、あっけなくラウンドを勝ち取った。


『K.O.』


「もー全然攻撃が当たんないんだけど……」


 俺が使っているキャラは技のリーチが長く、このゲームの中では一番強キャラだったりする。ちなみに霧切が使ってるキャラはこのゲームの中では最弱キャラなので、こてんぱんにしているのを見ていると申し訳ない気持ちになってくる。


「別のキャラにしたほうがいいんじゃないか? ほら、こいつとか強いぞ」

「嫌だ、この子で勝つまで変えたくない」

「まぁ、無理にとは言わないけど……それなら同じキャラでもう一戦行くか」

「望むところ」


 どうやら霧切は負けず嫌いな性格のようだ。真剣な眼差しでテレビ画面を見つめる。


『Ready Fight!』


「ん~、このこの!」


 まだ操作に慣れていないのか、足技ばかりくりだしてくる。俺はそれをなんなく躱し、必殺技をくりだす。


峨狼天翔波がろうてんしょうはァアアアアアア!!』


 雄たけびと共に必殺技が命中。シャオメイのHPを一気にゼロまで減らしていった。


「木下やっぱり強いね」

「まぁ、家ではほとんどゲームしてるからな」

「いや、ドヤ顔するところじゃないから……」


 俺は得意げな顔をしながら言うが、霧切に呆れながらツッコまれる。

 よく考えたら、ゲームを今までしたことがない人にとっては格ゲーはかなり敷居が高い気がする。今更だが、もっと別のゲームにした方が良かったかもしれない。


「どうすれば木下みたいに強くなれるの?」


 そう、心の中で後悔していると、霧切が訊いてきた。

 俺はそれに素直に答える。


「特別俺が上手いわけじゃないからなぁ。上手い人がプレイしてる動画とか見て勉強するとかかな? コンボとか参考になるよ」

「えっ、木下より強い人がいるの?」

「めちゃくちゃいる。俺なんて中の下ぐらいかな……ムカつくけど羽賀の方が上手い」

「羽賀って誰?」


 聞きなれない苗字にはてなマークを浮かべる霧切。

 羽賀は中学時代からの旧友なので、学内の中では一番会話を交わすことが多い。ほとんど、彼女とのイチャイチャ話しかしないが、悪い奴じゃない。


「あぁ、一応俺の友達。ほら、俺の隣の席の――」

「知らない」


 俺が言葉を結ぶ前に霧切が食い気味にそう言った。

 一応同じクラスメイトだが、どうやらあいつも俺と同じく認識すらされていなかったようだ。なんて悲しい奴。


「っていうか、木下って友達いたんだね」


 ストレートに言われるととても胸が苦しい。

 実際、友達と呼べるのは、旧友の羽賀と、その彼女の千夏ぐらいなものなので、ほとんどいないようなものではある。

 言い返せない俺は小さく「うん」とだけ頷くことにした。


「なるほどね。動画か……分かった。ちょっと見てみる」


 その後、俺なりの間合いの詰め方やシャオメイのコンボの仕方など、俺が持っている知識すべてを霧切に伝授した。

 その甲斐もあってか、先ほどよりかは動きがよくなり、俺のHPを半分まで持っていけるようになっていった。


「危なかった。いまの動き良かったな」

「う~ん、でも悔しいなぁ」


 試合の内容に納得がいかないようだが、こればっかりは仕方がない。

 失礼ながら、何をしても器用にこなしてしまう霧切が、ゲームに苦戦している姿を見ると、人それぞれ苦手な分野も存在するのだなと安心する。


「もうそろそろ終わりにするか?」

「はっ? 勝ち逃げする気? 勝つまでやるから」

「マジかよ……」


 霧切のご要望により何回か対戦したが、結局俺の全勝で幕を閉じた。

 さすがに負け続きの霧切を見て、少し手加減しようと思ったが、「手加減したら許さないから」と、いつもの鋭い目で訴えかけてきたので、本気でやらせてもらった。

 それにしても、何度コテンパンにされても諦めないその姿勢は、カッコいいとすら思った。

 何をしても器用にこなしてしまうその裏には負けず嫌いの性格があるからだろう。と一人で納得した。

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