Colorful

嶋田覚蔵

第1話 おんなの意味

「おんななんかに生まれなきゃ、良かった」

 もの心ついた頃から、わたしはずっと思っていた。

母によく言われたセリフ。「女の子はおしとやかにしていないと」

 で? 「おしとやか」ってナニ?

 わたしにはいまだによく分からない。

「女の子は何事でも控えめに、目立たないくらいがちょうどいいのよ」

 これもよく母に言われた言葉。おんなは出しゃばらず、感情を表に出さず、ひっそりと生きていくのが、しあわせの近道。母はしつこく何度もわたしに言い聞かせた。

「そんなの嫌だ!」と、わたしの心は叫ぶけれども、母が言っている言葉が結局、正解。

 そう思う気持ちもある。どちらにせよ、おんなとして生きていくことは、わたしには、

とても辛いことだった。

 そんな思いを追い討ちするように、小学5年生の時に突然体調を崩し、

これからほぼ一生、この体調不良と闘わなければならないと知った。

 私は絶望した。おんなで生まれるのって単なる罰ゲームなんじゃないか。

 本気でそう思った。なぜおんなばかりが、一方的に苦しまなきゃいけないのだろう。

 わたしにとって世界は灰色。死んじゃうわけにもいかないから、

ただ親や学校が、求めるままに生きていた。

 ねぇ、本気で思うんだけどさ、ニッポンの母親ってさ娘にプレッシャー

かけ過ぎなんじゃない。「子供に圧をかけるのは正義」

 そんな考え方、絶対おかしいのにね。

 それで、こんな私も高校生になって、ちょっとだけ親の束縛から解放されるようになったの。それで友だちに誘われて、生まれて初めて、新宿のライブハウスに行ったんだ。今考えると、とても地味ですごくダサい服着てさ。

 そこでわたし、シンペイ君っていうアイドルの卵と出会ったの。それでね、そのシンペイ君が好きになっちゃって。それでね。わたしその時初めて思ったのよ。

「わたしはシンペイ君を好きになるために、おんなで生まれてきたのに違いない」って。

 おんなとして生まれたことに初めて意味が見いだせたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Colorful 嶋田覚蔵 @pukutarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る