第36話 組織に追われている怪盗
アイが親父を指すのと同時に、親父はわざわざ用意していたバッテリー式のスポットライトを自分に当て、満足そうな表情を浮かべて立っている。
それに対して、アイは光の当たらない舞台で淡々と言葉を紡いでいた。
「おかしいと思ったのは、チケットの枚数だよ」
アイは腕を組んでゆっくりと歩き始めた。その姿を見ていると、改めて血の繋がりを感じる。
「パパの分を用意しているのはわかるよ。でも、私とママの分があるのはおかしい」
「何故かね?」
「だって、私もママも初対面だもの。ママに至っては一緒に暮らし出したのはここ数日だよ」
アイの言葉を聞いてはっとする。
そういえば、マジックショーをやる度に俺に送られてきたチケットはいつも一枚だったというのに、今回は三枚もあった。
これは俺の動向を詳しく追っていなければできないことだった。
「それなのに、あなたはパパに三枚もチケットを送った」
「私だって息子の動向が心配だったのだよ。ヤジマに調べさせるくらいわけはない」
「でも、あなたは私が組織について知っていること、ママが刑事であることも知っていた。家出息子の調査にしては詳しすぎる」
アイの言うことは最もだ。
親父は何らかの思惑があって俺達をこのマジックショーに呼んだのだ。ディアナがマジック好きであることを知っているのならば、俺を無理矢理にでも引っ張り出せることも計算済みだろう。
おそらく、エリィの家のポストにチケットを入れたのも親父の仕業だ。
ただそこまでする目的がわからない。
「これ、パパの最終試験なんでしょ」
「ほう」
「マジックショーのトラブルも自作自演。トラブルがあっても燃え盛る箱から脱出してみせた自分以上の大脱出をパパにやらせるための演出だったんだよ」
そういえば、俺は親父のマジシャン修行の最終試験を前に家を飛び出した。
まさか、この爆破事件の原因は俺にあるのか?
「パパ、大丈夫だよ。きっとパパがいなくても、この人はこのビルを爆破してたから」
俺の存在に気づいていたのか、アイは笑顔を浮かべて俺の方を振り返った。
「何も大丈夫じゃねぇだろ」
「パパのせいじゃないってことだよ。元々爆破する予定だったところに、ちょうどパパの最終試験もできるって思っただけだろうから」
「ついででとんでもないことしてんじゃねぇよクソ親父!」
「ほっほっほ」
笑い事じゃねぇよ、ぶち殺すぞ。
いつも腹の立つ笑い方だが、今日は何倍にも憎たらしく見える。
「でも、アイちゃん。最終試験じゃなかったらどうしてMr.ネロは爆破事件を?」
「真の目的は自分が死んだ風に装うこと。そうでしょ、組織から命を狙われている怪盗さん?」
アイは親父を睨みつけて辿り着いた回答を口にする。
「じゃあ、やっぱりこの人が……」
ディアナはショックのあまり呆然と立ち尽くす。
そんな彼女のことなどお構いなしに、親父はアイの方へと向き直る。
「ほっほっほ、見事だ! まるで幼い頃のプライを見ている気分だ。ショーが終わる度にマジックの種を言い当てられて困ったものだったよ」
親父は満足げに微笑むと惜しみない拍手を送った。
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