第17話 刑事の推理ショー

 ディアナは現場にいた二課の刑事達に命じて、この店の店員達、インカさん、ロゼミ、そして俺達をこの場に残して他の客は帰らせた。

 これで役者は揃った。


「姐さん、慈愛の涙を盗んだ犯人がわかったってどういうことですか?」

「そのままの意味よ」

「ですが、モンド警部。犯人はヴァールハイトさんで決まりじゃないですか。証拠もたくさん出てきましたし、先ほど慈愛の涙からヴァールハイトさんの指紋だって出てきたんですよ!」


 周囲の刑事達はディアナの言葉に困惑している。

 無理もない。何せ、インカさんを犯人だと裏付ける証拠がいくつも出てきているのだ。

 そんな周囲の刑事達を目で黙らせると、ディアナは力強い口調で告げる。


「インカ・ヴァールハイトさんは真犯人に嵌められたのよ」


 ディアナは俺に視線を向けてきたので、彼女の目を見てしっかりと頷く。

 実はさっきディアナをこっそり呼び出して事件の真相を全て伝えてあるのだ。

 俺が探偵ということを明かしたくない事情も察してか、ディアナは探偵役を快く引き受けてくれた。


「は、嵌められたってどういうことですの!?」

「それはこれから説明させてもらうわ」


 後ろで腕を組み、ディアナはミステリー小説の探偵よろしくゆっくりと歩きながら語り出す。


「まず、この事件にはおかしな点が二つあるわ。一つはベオウルフの犯行に見せかけるには偽装がお粗末すぎたこと」


 ディアナは指を二つ立てると、一つ目のおかしな点について話し始めた。


「ロゼミ。仮にベオウルフの犯行に見せかけようとした場合、動機は何だと思う?」

「それは……宝石店が宝石にかけた保険金を目的に自作自演の事件を起こした、などかしら?」


 ロゼミの言葉に店員達がギョッとした表情になるが、ディアナは「仮の話よ」と言って店員達を安心させる。


「普通はそう思うわよね。でも、ベオウルフの犯行じゃなくて自作自演だと判明すれば保険金は手に入らないわ」

「でしたら、宝石店側に犯人がいるというわけではなさそうですわね。動機と犯行が噛み合いませんもの」


 犯人は宝石店の店員達は安堵のため息をついた。

 店内に静寂が戻ったことで、ディアナは話を続ける。


「二つ目のおかしな点は指紋よ」

「何がおかしいんですか? だって、慈愛の涙を盗んだのがヴァールハイトさんなら指紋が検出されてもおかしくないじゃないですか」

「ジル、考えてもみなさい。インカさんはずっと手袋をしていたのよ? それが宝石を盗むときだけ手袋を外したなんて考えられないわ」

「た、確かに……」


 ディアナが言い聞かせるように言うと、ジル刑事は納得したように黙り込んだ。


「それに指紋がついてちゃおかしい理由は他にもあるわ」


 ディアナはここぞとばかりに、絶対にインカさんが慈愛の涙を盗んだ犯人ではない根拠を挙げる。


「インカさん、あなたは金属アレルギーですよね?」

「えっ、どうしてそれを?」

「あなたの所持品に木製の食器があったことと、あなたが身に着けているものに金属製のものがなかったことが気になって、あなたが通っている病院に連絡して裏を取らせていただいたんです」


 本当は俺が尾行していたときのことを伝えたときにアイが気づいていたのだが、そこは俺のことを伏せてもらうために理由は適当にでっちあげてもらった。


「装飾で金属があちこちについている慈愛の涙を触るのならば、手袋は必須よ」

「どうして彼女の指紋が慈愛の涙についたんですか?」

「簡単なことよ。犯人が彼女に宝石を素手で触らせたのよ」


 ジル刑事の疑問に答えると、ディアナは一拍置いてから告げる。


「そう、犯人の目的はインカさんを宝石を盗んだ犯人に仕立て上げることだったの」


 ベオウルフという世間的にも有名な怪盗の名前を使うことによって、誰もが勘違いを起こす。

 この犯行はベオウルフに罪を着せるために行われたものだ、と。


 しかし、その裏に隠されていた犯人の真の目的はインカさんに罪を着せることだったのだ。

 ディアナは堂々とした佇まいでこの事件の犯人を指差して告げる。


「そして、慈愛の涙を盗み出した真犯人――それはこの店の店長であるセレーヌ・キルギヌさん、あなたよ!」


 その指の先にいたのはこの宝石店の店長であるセレーヌ・キルギヌだった。


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