第5話 依頼内容
「正体を探るっていうのはどういうことだ?」
「彼は根っからの悪人じゃないとあたしは思うの。だから、正体を暴いて自首を勧めたい」
ディアナの言葉を聞いた俺は驚きを隠せなかった。
彼女は今まで怪盗ベオウルフを追ってきた刑事なのだ。
その彼女がベオウルフの人間性を信じて捕まえずに自首を勧めるなど、あまりにも予想外だった。
ディアナは真剣な眼差しをしており、嘘をついている様子はない。
俺は思わず笑ってしまった。
まさか、ここまで真っ直ぐな人間が警察にいるとは思わなかったのだ。
「何よ、何がおかしいの?」
ディアナはムッとした様子で口を開く。
「いや、悪い。あんたがあまりに真っ直ぐなことを言うからさ」
「当然でしょ。私は刑事よ。人を見る目だけはあるつもり」
ディアナは自信満々に答える。
「しかし、ベオウルフの正体を突き止めると来たか……」
俺は腕を組んで考え込む。
正直、俺はこの依頼に対してあまり乗り気になれない。
「まあいいか。報酬次第だが引き受けよう」
「助かるわ」
ディアナはほっとしたように胸を撫で下ろす。安心するのはまだ早い。
「ベオウルフは犯行を予告して厳重な警備網を搔い潜ぐって長年窃盗を繰り返してきた人間だ。その正体は男性とも女性とも言われていて、一切の素性は不明。そんな奴の正体を暴くとなれば一筋縄じゃいかない」
「わかってるわ」
「まず、ベオウルフが盗むものは毎回異なる。宝石、絵画、美術品、骨董品、どれも世界的に価値のあるものだ」
俺はそう言ってから紅茶を一口飲む。
ディアナも同じように紅茶を飲んでから、ゆっくりとした口調で呟いた。
そのまま俺は続ける。
「そして、必ず盗まれる前に予告状が届く」
「そうね。『今夜、〇〇をいただきに参上します』なんてキザでふざけた文章が銀の文字でカードに書かれて送られてくるのよね。まったく腹立たしい限りだわ」
ディアナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ベオウルフは必ず犯行の前に予告状を送ってくる。今時、予告状を送るようなステレオタイプの怪盗などベオウルフくらいだろう。
「そんなキザで目立ちたがりの怪盗でも普段は世間に溶け込んで身を隠している。警察ですら何年も尻尾を掴めていないくらいにな」
「でも、あなたは尻尾掴んだ」
だから自分はここにいると言わんばかりにディアナは俺の目を見つめる。
俺は大きく息を吐いてから答えた。
「……尻尾なんて掴めちゃいないさ。その証拠にベオウルフは捕まっていないだろ」
「じゃあ、どうしてあの場所にいたの?」
「職業柄な。怪盗の考えてることはよく理解しているからな」
「答えになってないわ。どうやってベオウルフがあの場所に現れることを突き止めたのか、どうしてその後逃がしてしまったのか、あたしが知りたいのはそれよ」
ディアナは少しイラついたように声を上げる。
どうやら彼女はかなり焦っているようだ。
俺は小さく笑ってから告げた。
「企業秘密だよ。俺だってこれで食ってるんだ。おいそれと手の内を明かすわけにはいかない」
俺はディアナの顔を見て、はっきりとそう言い放つ。
すると、ディアナは眉間にシワを寄せながら黙った。
「……わかったわ。この件に関して追及はしない」
「ご理解いただけたようで助かるよ。さて、依頼料の話をしようか」
アイが無言のままノートパソコンを操作している姿が視界に入る。
俺はそんなアイをチラリと見てからディアナに視線を戻した。
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