第2話 予想外の出会い

リースグリードに着いた私はお礼を言って真っ先に冒険者ギルドへと向かった。冒険者ギルドには人が沢山いた。まぁ、当然かと考えながら受付嬢のところまで歩いていく。



「冒険者ギルドへようこそ! 見かけない顔ですね」

「はい。冒険者になりたくてここまで来ました! これからお世話になります!」



そう言ってふかぶかとお辞儀をすると受付嬢はクスリと笑った。



「では、早速試験の前にお名前を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」

「ドローレスです。ロイジーサーカス団で曲芸師をしていた者です!」



私がそう言うと、突然周りがざわめき始めた。


……あ、思い出した。そういえばリースグリードに来たのは初めてじゃなかったっけ。曲芸師としてこの街に来たことがあったんだ。

本当に色んな所でサーカスをお披露目してたから記憶が曖昧だったよ。

私の居たロイジーサーカス団は4ヶ月滞在した後はまた別の場所に移動する。

その移動の際には護衛として冒険者を雇ったりしていたこともあったっけ。



「おい、本物のドローレスだぞ。サイン貰っといた方良いんじゃね?」

「わぁ……本物……! 可愛い……!」

「間近でドローレスを見れる日が来るとは思わなかった」



そんな声が聞こえてくる。

いやぁ、人気者は辛いねぇ……でも今は冒険者としてここにいる。あまり浮かれていてはいけないね。

私は受付嬢から差し出された書類にサインをした。



「ドローレス・エーメリーさんですね! それでは冒険者になる上での注意点や説明をさせていただきます!」

「はい!」



冒険者にとってのあれこれや初歩的なことを詳しく教えてもらった。どれもこれも初心者の私には大切なことばかりで、タメになる。



「―――と、ここまででなにか質問は?」

「大丈夫です! あ、それと……これはどこで換金すればいいですかね?」



そう言って昨夜手に入れた魔石を見せると、受付嬢は酷く驚いたような顔をした。



「エーメリーさん、これは一体どこで……」

「えと、ここに向かう途中ヘルベアと遭遇して、それを倒して手に入れました」



と言うと受付嬢は目を丸くする。

まるで信じられないとでも言うように。

まぁ、そうだよね。冒険者にすらなっていないたった一人の女の子がDランクとはいえモンスターを1人で倒してるんだから。

倒した時は私自身も驚いたからね。



「ハッ……! 魔石はここで換金することが出来ます。が! 危険な真似はしないようにお願いしますね!」

「は、はい……以後気をつけます……」



怒られてしまった。

まぁ、でも怒られても仕方ないか。これからは無茶なことはせず地道にランクを上げていこう。

と、その前に冒険者試験を受けなくてはならない。

冒険者に年齢は関係ないけれど、それなりに実力がなければやっていけない。だから実力を試すために試験が存在する。


冒険者試験の内容はアルミラージ15匹の討伐。アルミラージはFランクのモンスターで正直に言うとかなり弱い部類のモンスターだ。

私はヘルベアと戦ったあとだから余計弱く感じてしまう。


平原に生息しているアルミラージに向かってナイフを投げる。殺傷能力を上げたナイフはアルミラージに突き刺さり、倒れたアルミラージは魔石へと姿を変えた。



「せいっ、よいしょ!」



1ミリのブレもなく吸い込まれるように突き刺さるナイフ達。

私は順調にアルミラージを一体、また一体と倒して魔石を拾い集めていった。



「1……2……3……うん、15個。これで試験には合格できそうだね」



魔石を15個集めきった私は真っ直ぐギルドへと戻った。




*




魔石を受付嬢に見せると、満面の笑みを浮かべる。



「はい! 冒険者試験合格です!」



おめでとうございます! と受付嬢は言う。

これで私も晴れて冒険者の仲間入りだ。

これからどんな冒険が待っているのか楽しみだなぁ……と思ったけれど、私はFランク冒険者。受けられるクエストは薬草採取等の簡単なクエストばかり。

でもこれも大切な経験になる。

こういったクエストを受けていって、いずれは大物を倒せるようにまで成長していきたいな。



「頑張るぞー」



そう意気込んで薬草採取をしていたのだが―――

あ、待ってこれ薬草じゃなくてただの雑草だった。


手に持っていたそれが薬草ではなく雑草だったことに気づいた時にはもう遅かった。私が取っていたのは全て薬草ではなく雑草。

薬草と雑草を見分けられない冒険者って……


そんなことを思いながらいそいそと雑草を捨て、薬草探しを始めた。


これだから基礎って大事なんだろうなぁ……薬草は冒険者にとって大切なアイテムのひとつ。だからちゃんと見分けられるようになっておかなければ。


しばらくウロウロしてやっと見つけた薬草を採取していると、グルル……という唸り声が聞こえてきた。

何事かと後ろを振り返るとそこには巨大な牙を持った獣のモンスターがいた。確か……キラーウルフ。Cランクのモンスターだ。

受付嬢に危険なことはするなと言われたばかりなのにこんな目にあってしまうとは……キラーウルフはとても素早いモンスターで、おまけに凶暴と来た。こんな所にキラーウルフがいたら今後ここに来る初心者冒険者が危険な目にあうかもしれない。


それは避けないと。


【マジックポケット】からナイフを10本手に取り構える。そしてすかさず【能力上昇バフ付与】で殺傷能力と攻撃力を上げ、自身に防御力上昇と回避率上昇効果を付与する。



「ガルッ!!」



飛びかかってきたキラーウルフを間一髪のところで避ける。回避率を上げていなければ思いっきり噛まれていただろう。危なかった……


軽い身のこなしでキラーウルフの攻撃を避けつつ隙を伺う。そして一瞬の隙をついて私はナイフを一気に10本投げつけた。


勢いよく飛んで行ったナイフはキラーウルフの体に突き刺さり、キラーウルフはドサリとその場に崩れ落ちた。そしてサラサラと塵となり消えていき、後に残ったのは6つの大きめの魔石。


ヘルベアより2つ多く魔石が手に入った。しかも大きめだ。モンスターのランクが上がると魔石の質も上がるって言ってたっけ。


ということはだ―――



「これはまた怒られちゃうかなぁ」



思わず苦笑いを浮かべる。

でも倒せたし結果オーライということにして貰えないだろうか。

とりあえず薬草の採取は終わったし、ギルドに戻ろう。

私は【マジックポケット】に魔石と薬草を入れてギルドへと戻った。


そして薬草、とキラーウルフから取った魔石を受付嬢に見せると、受付嬢は真っ黒い笑みを浮かべた。

おっとこれはお説教の予感……



「無事だったからよかったものの、貴女はまだ冒険者になりたてほやほやなんですよ! 分かっていますか!? それなのにキラーウルフと戦うなんて……!」

「すみません!! でも、逃げられるような相手じゃなかったし、何より後に来る私と同じ初心者冒険者の方が危険な目にあうかもしれないと考えたら体が動いてしまって……」



そう言うと、受付嬢は溜め息を吐いた。



「全く……本当に無事で良かったです。ですがよく無傷で倒せましたね……」

「あはは、私結構運だけはいいので」



そう言って笑うと、受付嬢はまた溜め息を吐く。

そんなに溜め息吐かれるとちょっと傷付くんですけども……まぁ、私の自業自得だし仕方ないんだけどね。



「これからはちゃんと見つかる前に逃げること。良いですね?」

「はーい」



受付嬢からの説教を終えて適当に空いていた席に座り、ぐったりとしていると頬にひんやりとした感覚。

驚いて飛び起きると、クスクスと笑う男の人。

なんだろう、どこかクラークに似ている気がする。



「お疲れ様です、色々と大変だったみたいですね」

「えっと……君は?」

「私はヴェレーノ。ロイジーサーカスに所属しているクラークの兄ですよ」

「…………ええ!?」



思わずガタリと立ち上がる。

でも待って、そういえばクラーク……冒険者の兄がいるって言っていたような気がする。確かランクは―――Aランク。


冒険者のランクはF、D、C、B、A、Sの6段階で構成されている。Aランク冒険者はかなりの手練という訳だ。


それにまさかこんな所でクラークのお兄さんと会えるとは思ってもみなかった。

驚いていると、ヴェレーノさんはくすくすと笑う。



「聞いていましたよ。キラーウルフを1人で討伐なさったとか」

「はい……まぁ、怒られちゃいましたけど」

「あぁ、私には敬語はいりませんよ。ヴェレーノと呼んでください」

「そう? じゃあ、ヴェレーノ!」

「はい」



ヴェレーノはそう言って笑う。

優しげな笑みがクラークそっくりだ。



「ヴェレーノ、私に何か用?」

「特には無いのですが……強いて言えば弟の話を聞きたくなったから、ですかね」



これでも心配してるんですよ。とヴェレーノは言う。

ヴェレーノはその手に持っていたぶどうジュースを私に手渡すと、向かいの席に座った。



「聞かせてくれますか?」

「ふふ、勿論!」



私はそう言ってクラークの話をし始めた。

ヴェレーノはそんな私の話を楽しそうに聞いている。クラークの素顔に驚いたこととか、クラークに遊ばれたこととか、クラークに励まされたりしたこととか色々話した。


そんな感じでペラペラと話しているうちに日はどんどん落ちていき、気付けば辺りは暗くなっていた。

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