最強曲芸師は実家(サーカス団)に帰りたい

雪兎(ゆきうさぎ)

第1話 出発と初戦闘

ロイジーサーカスの人気者である曲芸師、ドローレスの最後の公演という事もあってサーカステントには沢山の人が押し寄せた。


何故最後の公演になるかというと、私は冒険者になろうと決めたのだ。団長にはちゃんと許可もらってるし、頑張れと背中を押されたから今日の公演が終わったら冒険者として活動する。


そして、サーカス団員の中にスキルを鑑定する事ができる子がいた。それは空中ブランコを担当する片割れの男の子、ブレント。


ブレント曰く私のスキルは5つもあるらしい。普通スキルというものは色々な経験をしてやっとの思いで手に入れられるもの。私はただの曲芸師だと思っていたからかなりというか死ぬ程驚いた。


1つ目は【曲芸】誰よりも身軽で絶対に崩れない圧倒的なバランス感覚と普通の人より丈夫な体を持っている。だから高いところから着地してもダメージを軽減することが出来る。

2つ目は【注目】モンスターの視線を自身に集中させる。これは人相手には使えない。モンスター限定らしい。

3つ目は【ジャグリング】複数のナイフ等の武器をジャグリングするかのように巧みに操ることが可能。私レベルだと最大10本まで操れるそうだ。

4つ目は【マジックポケット】どこからともなくまるでマジックのように武器や道具を取り出すことが出来る。その為には事前の準備が必要になってくるけれど何も無いところから武器や物を取り出すってかっこよくないかな。

5つ目は【能力上昇バフ付与】これは私自身にも付与できるし他人にも付与することが出来る。これが出来るのは白魔道士くらいなのだが私はどうやら特別だったらしい。


【曲芸】、【注目】、【ジャグリング】の3つは曲芸師をしていて自ずと身についたものだろうという話だったけれど、残り2つはどうやって習得したのか不明なスキル。だけど確実に役に立つと言われたし、ブレントに『きっとドローレスは特別なんだよ』と言われた。

驚いたけれど、なんだか特別っていいね。それだけでワクワクしてしまう。



「ドローレス! 出番だよ!」

「はーい!」



ステージに上がり、スポットライトが私を照らすとワッと歓声が上がる。



「Ladies and gentlemen! ようこそロイジーサーカスへ! 私がこのサーカス団の目玉、曲芸師のドローレスだよ!」

「ドローレスー!」

「今日も可愛いわよー!」

「わー! 皆ありがとう!! それじゃあ、行ってみよう!!」



私はそう高らかに宣言する。

ボールの上に乗りながらジャグリングをしたり、アクロバティックな動きで観客を湧かせてみせた。


私にかかれば泣いている子供もつまらなそうな顔の大人だって皆笑顔にする事が出来る。


これで最後って考えると少し寂しくなるけれど、ここで培ったものはきっと冒険者になってからも活かせるはずだから。


私の出番が終わると、猛獣使いのショーやクラウンのショー、空中ブランコ等様々な演目が披露され、観客席は大盛り上がり。


こうして私が出演する最後の公演は無事に幕を閉じたのだった―――



「お疲れ様、ドローレス!」

「お疲れ」

「ドラント! ブレント! ありがとー」



空中ブランコを担当している兄弟、ドラントとブレントが休憩中の私の元へやって来た。

ドラントとブレントは私にとって弟のような存在で、2人共私を慕ってくれているようでとても嬉しい。

でもこの2人とも今日でお別れかぁ……


そう考えると寂しくなるなぁ。



「ドローレスなら冒険者になってもやってけるって! 応援してるよ!」

「頑張って。応援してる」

「! ふふ、2人ともありがとね!」



そう言って笑うと、ドラントとブラントは顔を見合せた後ドラントはにっと笑い、ブラントは微笑みを浮かべた。

この2人に応援されたら頑張れるような気さえしてきた。



「ドローレス」

「あっ、シアン!」



猛獣使いのシアンが私に声をかけてきた。シアンは私の先輩でお姉ちゃんみたいな存在だ。



「貴女が旅立つなんて思わなかったわ。ロイジーサーカスの人気者としてずっとここにいると思ってたけど……旅立ってしまうのね」

「うん、でも曲芸師としてのドローレスは死なないよ! いつか噂になるから待ってて! 曲芸師みたいな冒険者がいるって噂させてみせるよ!」

「……ふふっ、楽しみにしているわ」



シアンはそう言うと私の頭を優しく撫でた。

しばらく3人と談笑していると、背後からギュッと誰かに抱き締められた。驚いて声を上げるとくすくすという笑い声が聞こえてきた。



「相変わらずいい反応だね、ドローレス」

「クラーク! 脅かさないでよ……」



クラウンのクラーク。メイクを落とすとめちゃくちゃイケメンだから最初の頃は驚いたっけ。でも少し悪戯好きなところがあるからクラウンという役は彼にピッタリだと思ったりした。



「ドローレスが居なくなると、寂しくなるね」

「からかう相手が居なくなるから?」

「それもそうだけど」

「ちょっと!?」



そこは否定して欲しかったかな!?

でもまぁ、クラークらしくて良いんだけど。



「それより、ドローレスはこのロイジーサーカス団のムードメーカーでもあったからさ。ムードメーカーが居なくなると寂しくなるよねって」

「そんな風に思ってくれてたんだねぇ、ありがとうクラーク!」

「まぁ、いつでも遊びに戻っておいでよ。団長にも許可もらってるからさ」



団長から許可貰ってるんだ……それなら気兼ねなく遊びに行けるね。

―――さて、そろそろリースグリード行きの馬車が出る頃だ。リースグリードはかなり大きな街。そこには冒険者ギルドもあるからそこで冒険者になるための試験を受ける事になる。


Fランク冒険者になるための試験だし、そんなに難しい事は要求されないはず。


荷物を持って時計を確認する。



「それじゃあ、行ってきます!!」



そう言って大きく手を振りサーカステントを後にした。そして近くに来ていた馬車に乗り、リースグリードへと向かった。





*





馬車に揺られて数時間。日が落ちてうとうととしていると急に馬車が止まった。どうかしたのかと身を乗り出すと前方に大きな影が。


それはヘルベアと呼ばれる巨大な熊のようなモンスターだった。ヘルベアのランクはDだったはず。冒険者になりたいと思い立ったその日からモンスターの情報も頭に叩き込んでいたから目の前にいるモンスターがなんなのか理解出来た。



「お客さん……迂回しまし―――お客さん!?」



私は馬車から降りてヘルベアに駆け寄る。

そして私は【マジックポケット】からナイフを5本程取り出し【能力上昇バフ付与】で殺傷能力と攻撃力を上昇させた。しっかりと自身には防御力上昇と回避率上昇効果を付ける事を忘れずに。


勢いよく飛び上がり殺傷能力と攻撃力を上げたナイフをヘルベアに向かって投げる。ナイフ投げは得意だ。サーカスで何度も経験しているから、ナイフは百発百中。


ヘルベアはというと―――



「あれっ?」



その場に倒れ、塵となって消えていった。そして足元に残ったのは4つの魔石。これを換金すればお金になるのだが……まさか冒険者になる前の私がヘルベアを倒してしまうなんて思わなかった。


馬車へと戻ると『お怪我はありませんか!?』と心配されたが、私が無傷なのを見てホッとしていた。



「それでは引き続き、リースグリードまでお願いします」

「り、了解いたしました」



こうして私の初戦闘は危なげなく終わった。

初戦闘がFランクモンスターであるスライムとかではなくDランクのヘルベアになるとは思わなかったなぁ。


今回の戦いは曲芸師をしていたから出来た動きもあったと思う。身軽さ、そしてナイフをモンスターに当てる正確さ。どれも曲芸師をしていて培ったものだ。


案外曲芸師って冒険者に向いてるのかもしれない。



「ふぁあ……」



サーカスの公演もして、初戦闘も経験して、どっと疲れが押し寄せてきた。私は馬車の中で丸くなり、眠りについた―――

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