青色に髪を染める理由

一帆

 青色に髪を染める理由

自分には片思いをしている人がいる。

告白をして気まずくなるのが嫌で、アプローチできない。でも、気づいてほしい。

だから、私は見えない部分で彼の色を纏う。





「なあ、委員長。鳥のオスが派手なのは、求愛行動の一つだって。知ってた?」とある日、髪を染めてきた碧くんは、私の前の席の椅子に横向きに座るとそう言った。 

 

 春のオリエンテーションで、「高校生の時に学級委員長をしてました」という私の言葉を覚えているのか、碧くんは、私のことを委員長と呼ぶ。嬉しい気持ちが半分、嬉しくない気持ちが半分。


「クジャクのあの大きな飾り羽がそうだっていうのは知ってるわ。……、モテたいの?」


 とくんと心臓がはねたのをごまかすように、私はわざと興味なさげに答えた。


「まーね。俺、現在、絶賛、彼女募集中だしぃ? ……、この色、よくね?」


 碧くんが、私の机に右ひじをおいて髪をいじっている。碧くんの髪から漂ういい匂いが私の鼻孔をくすぐった。私は慌てて、机の上においていた手をひいて、少し後ろにさがる。


 とくん、とくん。

 私の心臓の音が大きくなる。


「鳥といえば、鳥が見える色の世界って人間と違うんだってね。鳥屋さんにいうのもなんだけど……」


 碧くんは鳥が大好きな鳥屋さんだ。鳥愛に溢れていて、鳥のことを話し出すと止まらない。だから、髪の色の話から話題をそらしたくて、わざと鳥の話を持ち出す。


「そーそー。鳥には、人間にはない錐体細胞があって、その4つ目の錐体細胞がスペクトルの紫外線領域の感知を可能にしてんだ。だから、赤、青、緑以外に紫外線も見えるんだって。でね、見える視野の角度も違うし、焦点の合わせ方も違うんだ…」


 私の思惑通り、碧くんが目をキラキラさせて鳥のことを語り始める。私はそんな碧くんを見ているのが好きだ。他の人は碧の鳥うんちくと言って冷やかすけど、何かに夢中になれるってとても素敵なことだと思う。私は隠している耳元の髪を押えた。


「………、でね、委員長」

「はい?」

「俺の髪、何色だと思う?」


 碧くんが鳥の話から、髪の色の話に話題を戻してきた。


 (せっかく、話題がズレたと思ったのに)


「ブルーアッシュ?」

「せーかい。碧だから青。それにね……」


 碧くんがてへへっと照れた。

 少し顔が赤い。

 どくんと私の心臓が跳ね上がった。




 「………、この色を探すのはとても苦労したんだ。俺、カラーとかさっぱりわからないじゃん? イソヒヨドリの色とか言ってもお店の人には通じないし……、ねえ、この色、委員長が手で隠しているインナーカラーとおそろいにしたつもりだけど、答え合わせしてもいいかな?」



 碧くんの細長い手が、髪を必死で隠している私の手に触れた……。

                               おしまい

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青色に髪を染める理由 一帆 @kazuho21

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