第3話 慟哭の一撃
エダは仇の左手を貫いている剣を引き抜くと、もがく相手を右腕と左足を踏みつけ、その自由を奪うと手にしていた剣の切っ先を相手の鎧の胴と腰の隙間にあてがう。
鎧の隙間を覆う金属の鎖と切っ先が触れ合う。
「やめろ……やめてくれぇ……」
恐怖と怯えに満ちた声で必死に訴えるブル。しかしエダは表情一つ変えず……
「やめろぉぉぉぉぉ!」
剣に全体重をかけて突き立てる!
響き渡る絶叫。
柄を固く握りしめたエダの手に伝わる、刃が鎖を貫き、肉へと達した手ごたえ。それを感じた瞬間、彼は口に笑みを浮かべる。
やがて刃が相手の体を完全に貫き、土にめり込む。だが、それでもエダは態勢を緩めない。
一方、ブルは自分を貫いたエダの刃を引き抜こうと血まみれの左手を伸ばし、つかむ。だが、血で赤く染まったその手はむなしく刃の上をすべる。それでも引き抜こうとするブル。
もはや何をしても手遅れなのは明らか、にもかかわらず相手はもがく。それを見たエダは更に体重をかける。それはまるで彼がここまで抱き続けてきた恨みそのもので相手を押しつぶそうとしているかのようである。
だが、その動きは次第に緩慢になり、やがて、もがいていた手はずるりと刃の上を流れ、血まみれの腹へと落ちていく。
そんな……ついに物言わぬ屍となった仇を、エダは無言で見下す。
沈黙、静寂。だが、やがて……
「……やった、ついにやったぞ、父さん、母さん、ルアンナ、みんな……」
そう呟いたエダは、身を小さく振るわせ嗚咽を漏らす。
空は一層灰色の色を濃くし、やがてその灰色の雲からあふれるように雨が降り出す。
身を伝うその冷たいしずくに気付いたエダはようやく顔を上げる。
そこにあったのは仮面が外れ、死への恐怖と生への渇望で醜くゆがんだままこと切れたであろうブルの顔。
エダはその顔からそむけるように辺りを見渡す。だが、そこにあるのは無数の死体の山。
自らが生きるために自分の命を狙い、自分が生きるため……復讐を遂げるために斬り捨ててきた者たち。
エダは突き立てた剣はそのままに、緩慢な動きで立ち上がると、ふらふらと危うい足取りで死体の間を歩く。
と、ふとエダは村にいた頃を思い出す。
あのような惨劇が起こる事など、思いもしなかった穏やかだった日々。
それなのに自分はどうしてこんな所へ来てしまったのだろう。
……そして、これからどうすればいいのだろう?
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