KAC20247 色欲無双!あるいは妻の抱き枕

狐月 耀藍

KAC20247 色欲無双!あるいは妻の抱き枕

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2024.3.25

KAC20247特別企画!

ムラタのむねあげっ! 閑話㊱

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 俺は真剣に悩んでいた。

 愛する妻たちから贈られた、俺には絶対に返しきれない贈り物。


 そう、可愛い子供たち。


 マイセルが産んでくれたエイリオクトリスヴォーマシス……「シシィ」。

 フェルミが産んでくれたヒスイクエイルゥ……「ヒスイ」。

 そしてリトリィが産んでくれた双子、コリィスエイナの「コリィ」と、アイリィスエイナの「アイリィ」。


 みんな可愛らしい娘たちだ。

 そう、可愛らしい娘たちだ。


「だんなさま、今夜もいっぱいのおなさけ、ありがとうございます」


 ぺろりと頬を舐めてうれしそうにしているのは、金色のふわふわな毛皮に包まれた、ほぼ直立した犬型の獣人族ベスティリングであるリトリィ。

 毎晩のように愛し合い、俺から搾り取り続けて三年、ようやく恵まれた娘に、俺もホッとしたのだが、ひと月も経たぬうちに「二人目が欲しいです!」と子作りの再開を提案した性豪婦人だ。


 普通は男から提案するよな、などと苦笑しながら、それでも愛する妻のために奮闘するのだが、そうすると今度は黙っていないのが第二夫人以下。


「お姉さまが二人目を始めるなら、私も欲しいです!」

「んー、どっちでもいいんスけど、くれるものならご主人、ありがたくもらうっスよ?」

「ボクも早く欲しい! だんなさま、ボクもボクも!」


 最後のリノの言い分、これは分からなくもない。彼女はまだ小さいとはいえ、俺の三人の妻が出産をし、その苦痛も、そして子育てに忙しいながら幸せな姿も目にしているのだ。そう言いたくなるのも分からなくもない。


 だが、俺には分かるのだ。


「どっちでもいいとかいいながらフェルミ、おまえ絶対にリノを煽るために要求してるだろう!」

「ええ~? ご主人、愛しの可愛い妻を疑うんスか? 三人の妻に子供を産ませた色欲魔人ですのに?」


 ニターっと笑うフェルミ。


「だって、そうでしょう? 妻二人なら聞かなくもないスけど、なんせ四人っスからね? この街に限ったら、間違いなく色欲魔人で無双状態ッスよ?」

「色欲魔人ってお前……」

「それとも、やっぱり仔を産んだとはいっても所詮、私は四番目の妻ということっスか? ……悲しいっスねえ?」

「お前なあ!」


 へらへらと笑ってみせるフェルミ。

 彼女が軽薄な態度を取ってみせるときほど、本心は真逆なのだ。それを理解しているからこそ、おちょくるような言動に、俺は何も言えなくなる。


「……まったく、来い!」

「ふふ、だからご主人、……大好きですよ?」


 それまでのいたずらっぽい目から、本当にうれしそうな柔らかな目になるのが、またずるいのだ。そんな、純粋にうれしそうな表情をされてしまうと、俺はフェルミの甘えを、許さざるをえなくなる。彼女は軽薄な態度をとってみせているだけで、本当はとても繊細なのだから。


「だんなさま! ボクボク! ボクだって!」

「わかってるって。……おいで」

「えへへ! だんなさま、ボクのだんなさま!」


 リノが飛びついてくる。ストリートチルドレンとして、俺の家のものを盗み、売っぱらおうとしたところで俺に保護された女の子。未だ小さな彼女だけれど、それでも、俺との繋がりを求めて、ついに先日、結婚した少女。親の愛にも恵まれて来なかった彼女だけれど、俺のために縦横無尽に駆け回り、俺が、家族を救うための最大の力になってくれた。

 その彼女に報いるためにも、まずは一人目を、彼女に捧げなければなるまい。


 するとマイセルも、「私だって、ムラタさんの赤ちゃん、もう一人くらいは欲しいんですからね」と頬を膨らませる。


 リトリィという婚約者がいる──そう知って、ひどく悩んで、一度は身を引こうとした彼女だけれど、リトリィが認めたことで、二人目の妻となったマイセル。大工の知識、町娘としての経験を活かして、さまざまな困難に直面した俺を、いつも助けてくれた。

 いつもは夜の生活について比較的淡白だけれど、そう言われると、今夜は頑張るしかない!


「……ふふ、みなさんに愛されていますね」

「そのみなさんには、君ももちろん、含まれているよな?」

「はい。もちろんですとも、あなた」


 金色の毛並みが、透き通るような青紫の瞳が、誰よりも美しい、俺の、第一夫人、リトリィ。

 俺がこの世界に落ちてきて、最初に出会った女性で、そして、ずっと俺のことを見守ってきてくれた人。

 女性経験がなく、女性に対して奇妙な気後れとコンプレックスを持ち続けた俺は、何度、彼女を泣かせたことだろう。けれど、それでもずっと俺を愛し、支えてくれた。やっと子供にも恵まれた。ただ、彼女は俺によく似た男の子が欲しいらしい。だったら、それまで頑張るしかない。


「ご主人、また干からびさせてあげますからね?」

「えへへ、ボクもがんばるよ!」

「ムラタさん、今度は男の子がいいです」

「こうなりゃもう、みんなまとめてだ!」


 やけになってそう言った俺に、リトリィが頬をぺろりと舐めて、微笑んだ。


「あなた、愛しています。……二人目、がんばっちゃいますね」


 ……ああ、頑張るとも!

 



 ……で、もうすぐ夜明けだ。

 藍月の夜──獣人族ベスティリングの恋の夜にヒートアップする妻が、三人。

 俺、ほんとに腎虚で死ぬかもしれない。


「そんなこと、させませんよ」


 俺の左隣で横になっているリトリィが、微笑む。

「そのために、毎日、滋養たっぷりのお食事を召し上がっていただいているのですから」

 俺の左隣は、彼女の指定席だ。それだけは決して譲らないリトリィの、第一夫人としての意地が感じられる。それが本当に愛おしい。


 ……とはいうものの、四人の妻たちに囲まれて、腕だの何だの、半分奪い合いのように抱きつかれて、大変に寝苦し……いえ! おおむねふくよかで柔らかな感触に包まれて、大変に幸せであります!

 四人共用の抱き枕のごとくもみくちゃにされて、これ以上ない幸せですとも!


 ただ、ほんとに、四人いっぺんに抱く生活は、ほんとに改めないと……無双なんて喜んでる場合じゃない、これはほんとに。

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