化け物と白いリボン

ヨムカモ

第1話

 こんな噂がある。

 あるさびれた公園に化け物がんでおり、貢物みつぎものの代わりに一つ、願いを叶えてくれるという。



 十二月初旬。

 クリスマスに向けてオーナメントが街中を飾り、夜がきらびやかにいろどられる一か月間。年末の訪れも意識してか、世の中全体が浮足うきあし立って感じられる今日この頃。


 その化け物は――住処すみかにしている針葉樹の中に引きこもり、呼んでもなかなか姿を見せなかった。

 なぜならば。


「吸血鬼さん。いらっしゃるんでしょう? ――吸血鬼さん?」


 ――そう。化け物の正体は、「吸血鬼」だったからである。


「……ああもう、うるさいなあ……。僕は来年までここから出ないって決めたんだって」


 気だるげな声が木の上から降ってくる。しかも、ぬっと突き出てきた手が追い払うように上下に揺れて、それを見たさくは、さすがにムッとした。


 色のつややかな長い髪に、白い肌。中学生とは思えぬほど整った顔立ちの彼女は、裕福な家庭で育ったご令嬢である。

 数週間に一度、この公園に通っているが、それは吸血鬼のためだった。警察に捕まるのが怖くて人を襲えない彼のために、放課後、自らすすんで献血しに来ているのだ。


「相談があるんです。少しくらい聞いてくださってもいいじゃないですか」


 しかし、ただの奉仕ではない。対価として、相談に乗ってもらうのだ。人間嫌いの彼は植物に傾倒けいとうしており、植物が関わることであれば、たいてい力を貸してくれる。

 だが、今回はなぜか、何度頼んでも吸血鬼の返答はえなかった。


「いや、しばらくは無理。血もいらない。というわけで、はい、帰って帰って」

「――吸血鬼さん!」

「もう暗くなるよ~。じゃあね、よいお年を~」


 覇気はきのない声で追い返され、朔はふくれっ面をしながら、公園を後にした。


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