【比翼番外】彼らは『慈雲』を纏いたい

安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!

 退魔術を自在に操る退魔師といえども、森羅万象の全てを従えられるわけではない。


 つまり、運が悪ければ激しい夕立にも降られる。たまたま今日はそういう日だった。


「んもぉー! 何っで僕達が夕立になんて遭遇しなきゃいけないのさぁーっ!!」

「チッ、中までグッチョグチョじゃねぇか」

「……」


 しかし宮廷退魔組織・泉仙省せんせんしょうが誇る天才問題児達にとっては、そう割り切れるものではなかったらしい。


 慈雲じうんはピーピーと騒ぐ相方に、凶悪な顔で舌打ちを放つ同期、さらに無言でうっすら顔をしかめたもう一人の同期の三人を見やり、小さく溜め息をついた。


 ──案外こいつらにしてみたら、天気も自力でどうこうできちまうもんなのかもな。


 本日、自分達に任された現場は、都を囲う羅城の外にあった。任された現場を片付け、王城に帰還する途中で夕立に遭い、雨を避けるためにその場から一番近い場所にあった慈雲の家に四人で駆け込んだ、というのが今までの流れだ。


 ──まさかこいつらが転送陣と結界術を使えない状況下で、急な夕立に遭遇するハメになるとは。


 慈雲が上から監視を押し付けられている……もとい、何かと一緒に行動するようにと言われている三人は、三人ともが『泉仙省始まって以来の』と冠される天才退魔師だ。同期である永膳えいぜん涼麗りょうれいは転送陣を用いれば王城と現場を一足飛びに移動することができるし、慈雲の相方である貴陽きようは常ならば傘の代わりに結界術を展開して雨を避けることができる。


 だが運が悪いことに、転送陣を便利に使い倒していた永膳と涼麗は、先日長官から『どこへ行くにも転送陣を使用するのはいい加減にやめろ』と転送陣使用禁止令を喰らったばかりで、貴陽は現場で消耗しきってもはや基礎基本の結界さえ展開できない状況だった。


 一瞬『これって緊急事態と言える状況なのでは?』と言いつけを破って転送陣を使うことを四人とも考えたが、その場合、自分達の頭上には天然物の雷雨の代わりに長官による叱責の雷雨が降る。自分達にとっては、天然物の雷雨よりも、長官の雷撃のような叱責とひょうよりも硬い拳の方が何倍も怖い。


 結果、慈雲達は激しい夕立の中を大人しく駆け抜ける道を選んだ。


 つまり簡単に状況をまとめると。


 常ならば夕立に遭遇しても困ることなどまずない天才児達が、無力にも雨に打たれるがままにならざるを得ない状況だった。


 だから彼らはここまで声高に苛立ちを叫んでいる。


 ──『夕立に遭遇したらびしょ濡れになる』っていう一般的な感覚を持ち合わせてるのは、この四人の中で俺だけだったってことか。


 相変わらず不満をこぼしている二人と、無言のまま不快感を表す一人を横目に、慈雲はさっさと自身が纏っていた袍を脱いだ。


 泉部せんぶ七位前翼退魔師であることを示す青銅色の袍は、滴るほどに水を含んでズッシリと重い。おまけに捕物現場で暴れた時に被った砂埃を払えないまま雨に打たれたせいで、袍は全体的にうっすらと薄茶色を帯びていた。


 ──こりゃ絞って乾かしただけじゃ着れそうにないな。


 その惨状にさらに溜め息を重ねた慈雲は、表戸の敷居をまたいで軒先に出ると袍の水を絞る。力を込めて絞ると、袍からは勢いよく水が滴った。


「てか慈雲、いつまで俺達を門の下なんかで待たせるんだよ」


 そんな慈雲の背中に、永膳の尖った声が突き刺さる。振り返ると永膳は装束の裾や髪先から雫を滴らせたまま慈雲を睨みつけていた。


「お前んに使用人がいないことくらい分かってる。だから出迎えがないのはまぁ仕方がない。にしたって、いつまでも部屋に招き入れもしないのはどうなんだ」

「は?」


 その物言いに慈雲は眉間にシワを寄せる。対する永膳は慈雲の反応にさらに顔をしかめた。


 よく見れば貴陽と涼麗も、表情に険こそないものの似たりよったりな不満を抱いているらしい。慈雲を見上げる視線には『僕、寒いんですけど』『なぜ招き入れてくれない?』という不満がありありと載っている。


 その視線の圧に、慈雲は思わずたじろいだ。


「招き入れるも何も……もう家の中、なんだが」

「……は?」


 だがどれだけ圧を掛けられようが、慈雲には現状を素直に伝えるしかすべがない。そんな慈雲の返しに、今度は永膳達が怪訝けげんな表情を浮かべた。


 そんな三人に向かって、慈雲は部屋の奥……永膳が『門の下』と評した空間の突き当りを指し示す。


「ここの炊事場と」


 さらに指先は、クルリと回りながら慈雲の横と、天井を示した。


「そこの階段を上がった先にある部屋で、俺の家は全部なんだが?」


 慈雲の指の動きに合わせて首を巡らせていた三人は、しばらく天井を見つめた後、慈雲へ視線を戻した。沈黙がとばりを降ろしたせいで、激しく叩きつけられる雨の音がやたらと耳につく。


 だがその音は、呼吸数回分の後、三人の絶叫によってかき消された。


「はぁっ!? おまっ……門に住んでんのかっ!?」

「いや、立派な貸家なんだが……」

「ちょっとっ!! 狭い狭いとは聞いてたけど、さすがに狭すぎじゃないっ!?」

「いや、庶民の家としては普通……」

「今すぐかく家に越してこい」

「涼麗、お前が真顔で断言するほど狭いのか? ここ」


 途端にやいのやいのと騒ぎ出した三人を適当にあしらいながら、慈雲は我が家に視線を走らせる。


 表戸を潜って中は土間。入って五歩ほどの空間がある土間の突き当たりに炊事場があり、その隣に中庭に出る扉がある。表戸のすぐ横には二階へ上がる急な階段が伸びていて、上がりきった先には寝台が置かれた小部屋。これが慈雲の住む貸家の全容だ。


 ここと続きの棟が同じように貸家として使われていて、四辺を貸家に囲まれた中庭には井戸がある。井戸と中庭は貸家の住人達の共用物で、公休日に天気が良ければ中庭で洗濯物を片付けるのが慈雲の日課だった。


 ──そういやこいつら、みんな大豪邸で暮らしてるんだったな……


 永膳は呪術大家『四鳥しちょう』が一角である郭家の、貴陽は『医術の二極』の片割れを担うこう家の次期当主候補だ。そして涼麗の郭家における身分は永膳の小姓である。冷静に考えてみれば、庶民暮らしをしているのは四人の中で慈雲だけだ。


 生まれた頃から都の一等地に建つ大豪邸の母屋で暮らしてきた永膳と貴陽からしてみれば、確かにここは『屋敷の門』であり人が暮らす場所ではないのだろう。涼麗は涼麗で経歴が波乱万丈すぎて『普通』が分かっていない可能性が高い。


 ──まぁ、正直なところ、一般庶民の家にしても狭いってのは事実なんだが。


 元々何某なにがしかの屋敷だった建物を部屋ごとに分割し、庶民向けの貸家に改装した物件であるらしい。永膳の推測通り、元々この建物は屋敷の裏門に当たり、二階の小部屋は門番の詰所部屋だったという話だ。


 正直、物件の条件は、同じ棟の他の部屋と比べても良くはない。狭いし、築年数も古い上に、この部屋が一番日当たりが悪い。さらに言えば防犯面も心許なかったりする。


 ただその分、王城にほど近い下町街の中に立地していながら、家賃が破格のお安さだった。この貸家全体が良心的なお値段なのだが、何とこの部屋は悪条件から他の部屋の三分の二ほどの家賃がつけられている。


 出仕にかかる時間と家賃。その二点に絞った時、ここまでの好物件はそうそうない。大抵は双方を天秤に乗せて、どちらか譲れない方を取ることになる。


 ──泉仙省入省と同時に独り立ちしたかったから、家賃は安けりゃ安い方が助かったんだよなぁ……


 物心ついてから父はなく、育ててくれた母も慈雲が十を数える頃に病で逝ってしまった。


 その後慈雲を養育してくれたのは母方の叔母夫婦だったのだが、叔母達の生活もそこまで余裕があるわけではないのだと知っていた。叔母達は慈雲に良くしてくれたが、だからこそこれ以上の迷惑はかけたくなくて、『自分で稼げる目処めどが立ったら、すぐに叔母の家を出よう』と慈雲はかなり早い段階から決めていた。


 どうせ居を構えても寝に帰るだけだ。退魔師は夜間の任も多いから、出入りで周囲を騒がせない造りというのもいい。幸い慈雲は腕っぷしに覚えがある上に男であるし、留守の間は簡単な結界術で施錠もできる。家賃が浮くなら不利な条件も許容できる範囲内だった。


 ──っていう事情を知ったら、こいつらが何を言い出すか分かんねぇな……


 相変わらずピーピーギャイギャイ騒いでいる相方と同期が、不満を叫びながらもその実、慈雲の生活を心配してくれているのだということは分かっている。この三人に限って言えば、そんな反応を示される人間は非常に稀であるはずだ。


『何か懐かれたもんだなぁ』と他人事のように考えながら、慈雲は階段横に立てかけてあった洗濯用のたらいを手に取った。その中に水気を絞った己の袍を投げ入れながら口を開く。


「はいはい。お前らに心配されなくても、生活には困窮してねぇから」

「慈雲! 慈雲一人くらい、僕が養ってあげるから! 僕と一緒に煌家本邸に住もうよ!」

「俺の食客ってことにしとけば、郭家に部屋作れるぞ? 越してくるか?」

「どこでもいい。もっとマシな所へ引っ越せ、今すぐ」

「話聞けって」


 思わずまた溜め息がこぼれる。


 その瞬間、慈雲の溜め息に相槌を打つかのように雷鳴が轟いた。光と音が同時に炸裂するかのような近距離での落雷に、三人の肩がビクッと跳ねる。


「この分じゃ、今晩はやみそうにねぇな」


 表戸から外を見上げ、次いでようやく口をつぐんだ三人へ視線を流す。最後に涼麗に視線を止めると、言いたいことを察したのか涼麗は眉間のシワを深くした。


「……激しい天候の乱れは、地脈も乱す。こんな状況では、飛べない」

「陣を固定して、俺と涼麗が全力を出せば飛べるかもしんねぇけども。陣を敷こうにも、ここじゃ狭すぎて陣を描く空間もねぇよ」


 視線だけで『この状況なら本当に緊急事態じゃね?』と問いかけた慈雲に対し、『やりたくてもやれる状況ではない』と返してきた涼麗と永膳は、ようやく諦めがついたのか渋々袍を脱ぎ始めた。そんな二人の様子を見て、貴陽も髪の水気を絞り始める。


「絞るなら軒下でやってくれ。中で絞られるといつまでも土が乾かねぇから」

「なー慈雲、やっぱ郭家うちに引っ越し」

「しねぇって」

「慈雲〜、何か拭くもの貸して〜。で、ついでに煌家うちに引っ越そ〜」

「ついでに替えの服も探してくっけど、引っ越しはしねぇって」

「慈雲、風呂」

「あると思うか?」


『絞った服はここに入れろ』と盥を土間に置いた慈雲は、溜め息をつきながら二階へ上がる階段に足をかけた。


 そこでふと思い立った慈雲は、クルリと背後を振り返る。


「いいかお前ら、そこで待ってろよ? 俺が許可するまで上には上がんじゃねぇぞ?」

「は? 春本の隠し場所でも変えんのか?」

「違ぇわバカ! 濡れたまんま上に上がられると困るから、下で着替えろっつってんだよっ!」

「え? なになに? 慈雲も春本なんて持ってたの? 見せて見せて! 傾向を知りたい」

「持ってねぇつのっ!!」

「怪しい」

「……お前ら全員、この天気の中、外に放り出されてぇのか?」


 思わず慈雲が殺意とともに凄むと、『ごめんなさーい』という声が三人分揃った。そんな三人を一度じっとりと睨みつけてから、慈雲は二階の小部屋へ拭く物と替えの服を探しに上がる。


 ──あいつら、普段退魔術でバンバン雷落としてるくせに、自然に落ちてくる雷は怖いのな。


 ふと、先程の三人の様子が思い浮かんだ。普段何も怖いものなどなさそうな顔をしている三人が、あの瞬間だけは年相応の、ごくごく『普通』な反応をしていたような気がする。


 何だかそのことが面白くて、慈雲はククッと笑いを噛み殺しながら、棚に押し込めてあった行李こうりを引っ張り出して蓋を開けた。




  ※  ※  ※




 結局、夜半まで雷雨がやむことはなく、今晩は慈雲の家に三人が泊まることになった。


 明日は公休日だから、雨が上がったら四人がかりで雨に当たった装束を洗濯しようという話になっている。一宿の恩に三人が退魔術を存分に応用してくれるらしいので、普段の洗濯よりも格段に早く、楽に終わるはずだ。


『お腹すいた!』と騒ぐ三人に備蓄してあった食料を与えて黙らせ、『どこで休めってんだよ』とわめく三人を先に上の部屋に放り込んだ慈雲は、炊事場の片付けを終えると二階へ上がる階段に足をかけた。放り込んでしばらくはギャイギャイと騒ぐ声が聞こえていたが、今は雨が降り注ぐ音だけが響いている。


 ──てっきり『こんな狭い場所で寝れるか!』って文句が飛んでくるかと思ったんだが。


 案外、その文句は出なかった。ついでに、貸した衣への文句も聞かなかった。


 ──一番文句言われるとしたら、そこだと思ってたんだけどな。


 何せ相手のうち二名は、生まれた時から絹しか着てこなかったであろう生粋のお貴族様だ。絹以外の装束など、泉仙省泉部退魔師になるまで袖を通したことはなかったはずだ。


 そんな人間に、着古した、着丈も合っていない衣を押し付けたら、また盛大にギャオギャオ騒ぎそうだと思っていたのだが、案外三人は押し付けられた衣に素直に袖を通した。それどころか、どこか楽しそうにしていたのは、慈雲の気のせいだったのだろうか。


 ──ま、何であれ、大人しくしててくれるならいいか。


 指先に退魔術で灯りをともし、慈雲はなるべく静かに階段を上がっていく。古びた木の階段はどれだけ注意を払ってもギィ、ギィ、と軋みを上げるが、その音にも階上からの反応はない。


 階段を登りきり、そっと小部屋に上がりこむ。


 炊事場の排気の関係で土間の半分程度しか幅のない部屋は、寝台と棚を置くと一杯になってしまう。


 その寝台の上。慈雲の体格に合わせて大きめとはいえ一人用の寝台に、三人はぎゅむっと詰まるようにしてぐっすり眠っていた。


 ──いや、狭くね?


 てっきり誰かは寝台争奪戦に負けて床に寝ているものだとばかり思っていたのだが。


 思わず慈雲は首を伸ばして三人の様子を確認する。


 まず、ど真ん中に悠々と永膳が寝ていた。恐らく貴陽は永膳と寝台の所有権を巡って争ったのだろう。慈雲から見て永膳の左側に場所を確保した貴陽は、永膳を押しやるように腕を突っ張ったまま眠っている。一方涼麗は最初から漁夫の利狙いだったのか、永膳の足元、貴陽とは対角になる位置に猫のように丸まって眠っていた。


 三人の様子をしげしげと観察した慈雲は、三人が自分の衣を纏い、自分の寝台で無防備に寝こけているという現実に、改めて目をしばたたかせる。


 ──そういや、普段のこいつらとはかけ離れた色彩だな。


 人が纏う衣の色というものは、仕事着ならば役職や階級が、普段着ならば個人の好みが反映される。


 慈雲の場合、仕事着は七位前翼を示す青銅色で、中に合わせる衣や小物も青系統の色が多い。暖色が似合わない自覚があるから、普段着も暗色や寒色だ。


 対して永膳と涼麗の仕事着は最高位を示す白、貴陽の仕事着は七位後翼を示す赤銅色である。永膳の普段着は暗色に赤の挿し色が多く、涼麗に至っては永膳の趣味で普段着もほぼ白、多少薄青が入った程度で揃えられているらしい。貴陽の普段着は深い赤や紫といった暗めの暖色が多かったはずだ。


 そんな彼らが今、慈雲が普段纏う色を……彼らには縁のない色彩を纏っている。


 ──案外、似合ってんじゃねぇの?


 慈雲とさほど背丈が変わらない永膳は、仕事着の予備である青銅色の袍を。十八という歳の割に華奢な涼麗は、着丈が合わなくなって寝間着にしていた暗色の中衣を。まだまだ成長途上で慈雲よりも頭ひとつ分以上小さな貴陽は、そろそろ売りに出そうかと考えていた、ここに越してきたばかりの頃に着ていた濃緑の中衣を着ている。


 涼麗と貴陽に至っては背丈以上に体の厚みが違いすぎるせいか、体に対して布地が余ってかなり襟元が緩んでいた。『服に着られる』というのは、まさしくこんな状態のことを言うのだろう。この分だと朝になったら脱げている可能性も高い。


 ──まぁ、風邪を引くような時期でもないし、大丈夫だろうけども。


 それにしても、見れば見るほど、考えれば考えるほど、この三人が与えられたものに文句を言わなかったのが不思議でならない。


『泊めてもらう以上、文句を言ってはならない』などという考え方は、この天才問題児達に限っては微塵もないはずだ。そんな殊勝な性格をしていたならば、周囲がここまで三人の扱いに困ることなどないのだから。


「……まぁ、お前らには、お前らの事情がそれぞれあるんだろうけどさ」


 ド庶民用の狭小住宅。粗末とも言える衣に、一人で使っていても広いとは言えない寝床。


 決して快適とは言えない空間で、それでもいつになく無防備に熟睡している天才問題児達をもう一度眺めて、慈雲は密やかに苦笑を浮かべた。


「普段と違う『色』を纏うお前らを見たら、案外可愛げもあるんだって、みんな分かると思うんだがな」


 と言ったところで当人達は『別に分かられたくもない』と口を揃えて断言するのだろうけども。


 そんな反論まで読めてしまったことに笑みを深めながら、三人の体の下に敷かれてしまっていた掛布を引っ張り出し、三人ともの体にかかるようにフワリと掛け直す。


 さらに自分は冬用の外套を引っ張り出してくるまった慈雲は、階下へ続く階段に蓋をして簡単に結界術を施すと、ゴロリと床に転がった。


 外の雨は、いつの間にか小雨になったらしい。


 三人分の穏やかな寝息と優しい雨の音に耳を澄ませている間に、慈雲の意識はトロトロと眠りに落ちていった。




  ※  ※  ※




 翌朝、三人はギャイギャイ言いながら洗濯を片付けると、何だかんだと夕方までしっかり居座ってからそれぞれの家に帰っていった。


 のらりくらりと引っ越しの提案をかわし続ける慈雲の様子から『引っ越しの意思なし』と判断したのか、貴陽と永膳は『せめて僕に結界張らせて! じゃないと安心できない!』『一宿一飯の礼だ』と言い募って部屋や表戸、裏口にいくつか自立式の結界を残していった。


 煌貴陽と郭永膳、泉仙省きっての天才後翼退魔師達が捕物現場で展開するよりも余程本気を出して組んだ結界により、慈雲の部屋は防犯面においても住環境面においてもかなり快適になるのだが、慈雲がその効果に気付くのはかなり先のことである。

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