7話 双子ー6

「……うぅ」

監視のためか灯りはついたままの収容所に啜り泣く声

目を閉じこれからの算段を検討する

まずはできない事を整理しよう

・まず神の力を表に出してはいけない

・次に脱出する時に人種の仕業だと露呈してはいけない(反感を買い知らない所で殺されないように)

・俺が誰かを手にかける事は極力避ける

人種が絶滅しないために大事おおごとにしないようにと思ったがギルド長の裏切りがあったということは人種の中にも人種を他種に売る反対勢力がいる…めんどくさい

正直ここだけなら少し大事にしてもいいか…それに英雄候補には経験値積ませたいし

ガチャ

お?

「さぁ労働の時間だ!!!」

ヒョウ顔の獣人兵

嘘だろ…まだ2時間も経ってねぇぞ

起き上がる人々

ギィィィ

「そうか…こいつら3人持ち場に案内してやれ」

「はい!」

返事するさっきの老人

「えぇっと…B労働はわしと同じ所へ、A労働は……あの金髪大男について行ってくれ」

指差す先にムキムキ金髪

「こっち来い!」

………

「じゃあな2人とも」

悲しげなピットの背中

「ピット!」

ルイの言葉に足が止まる

「またな…だろ」

・・・

「そうだな」

「では行こうかお二人さん」

老人を先頭に地下へと潜る

「今から何やるんですか」

「そうじゃな…まぁ簡単にいうと壁を削る」

「それに尽きるな」

ガサ

「ここじゃ」

階段を降りると地下とは思えないほどの大広間

中央に大堀の穴とそれを囲むように通路が段階的に伸びている

「そこモタモタすんな!!」

バシ!!

「壁を等間隔で掘り進めていき鉱石を集めて中央に運ぶ、鉱石は重い上に動きを止めるとむちでしばかれる」

「これがB労働じゃ」

ゴクリ

目を見開くルイ

「これは……労働なのか」

ガシ

老人は壁にかかっていたピッケルを手にする

「そうじゃ」

「ここでは生きるためにこの身を死に捧げる事を労働と呼ぶんじゃ」

「耐え難い苦痛に耐える……これも労働だと割り切れ」

「じゃないと身体より先に心が壊れるぞ」

呆然と立ち尽くすルイ

「ユジィ……いやなら俺が代わりに」

ガシ

「早い所やろう、じゃ無いとむちでしばかれる」

「ルイは俺の隣を掘ってくれないか」

「は?」

「良いから…頼む」

ジャジャジャジャジャ

「おい…あの新人」

ジャジャ

「次の部屋行こうぜルイ」

「あ…あぁ」

ジャジャジャ

中央にそびえたつ看守塔

その上で見張る豚の獣人

「おいそこ!なにボーとしてんだ!!」

「え!!あの…あれ」

奴隷の1人がとある場所を指差す

ドスドス

「すぐに休もうとしやがって人種風情……が」

ゴシゴシ

目を擦る獣人

「あ…あれ、今日分の壁が…」

獣人の前には大量の鉱石が並べられていた、その向こうには壁にあいた無数の穴

ザザ

「今日分は終わったと思うので次の作業場をいただけますか!!」

獣人の前にはピッケルを担ぐ少年と青年

「あ……あれ、お前達がやったのか?」

「え…」「はい!やりました!」

戸惑う青年と元気な少年と戸惑う獣人

「おま……なぜだ」

「なぜとはなんでしょうか?」

「なぜこんなに前向きに作業するんだ…意味がわからん」

豚の額には汗

「なぜって…」

「生きてるだけでも感謝しないと…ですよね?」

「あ……そうだな」

・・・

「で、では私は上に指示を仰ぐ……それまで……待機!!」

ダダダ

やはり豚野郎は能無しの末端だった…

ドサドサドサ

次々と倒れる人間

「ありがとうな坊主!」

「助かったぜ!」

いいさ、このくらい

「お前さん…何者じゃ」

何者……か

「俺は…ただ会いたい人に会いに来ただけだよ」

「それ以外はないかな」

バタ

腰から崩れ落ちる老人

その倒れ方は腰を悪くするぞ

「お前さん…会いたい人に…家族に会いたいとは本当なのか?」

「まぁ…うん」

口を開ける老人、そんなに驚く事なのか?

「今までそれを口にした奴らはみな脱出のための口実じゃった」

「いくら家族に会いたいからとここに来るやつなんて…いないと…いるはずがないと」

「君はバカなのか」

な…失礼極まりない老人だな

「いいよ、なんとでも言えばいい」

「俺は絶対に会ってやる」

ガシ!

「そうだユジィ!」

「まだ諦めちゃいけない!」

肩を掴んでくるルイ

急に熱いなこいつ、良いから休んどきなさいよ

「その話、俺も乗っていいか」

後ろから来たデブ…誰だ君は

「最初見た時は軟弱なガキだと思ったが、根性ある奴は嫌いじゃない」

あっそ

「僕も乗っていいかな」

ピッケルを持った細身の細

「要はこの子が看守の目を盗んで行動できる時間を作りたい…」

「これで間違ってないか?」

え…今の会話でどうしてそうなった?ありがたいけど

「あぁ、間違ってない」

「うん」

「おう」

なんか意気投合している

「じゃあ小僧…お前の名前を聞かせてくれ」

「え…まずあなたの名前聞いても良いですか?」

「おっとそうだな」

パチン

大腹を叩く太

「俺はグライアン、よろしく」

カチャ

ボロメガネをあげる細

「僕はシュミテ、いつかあいつらに気付かれずに逆襲したいと思っていた」

「よろしく」

ふぉふぉ

「ワシはビタミ、お前さんの気概に答えたくなった」

「よろしくの」

「そうか」

「俺はユジィ、みんなの協力本当に助かるよ」

「ありがとう」

グシャ

下げた頭をさする手

「俺も忘れんなよユジィ」

「あぁ、助かるよルイ」

バァン!!

音の方には豚の獣人

「休憩は終わりだ人間ども」

「全員通路先の土石場の土や石を地下一階に上げろ」

「わかったか!!」

「はい!!」

通路奥へと消える人間達

「じゃワシらも行くか」

「はい」

「待て!」

豚の停止命令

「53と54はここに残れ」

53と54?

ボソ

老人ビタミは豚に聞こえないように細声で喋る

「お前さん達の事だ、腕に埋め込まれてる石が種別しておる」

石…あぁここに来る時に撃ち込まれたやつか、痒かったから取ろうとしたけどよかった取らなくて

「それは死ぬまで外せぬ、番号は覚えておいた方がいい」

え…うん

豚が近寄る

「お前ら2人には特別に、中央の大穴を一段下げる作業を与える」

「明日までに一段下げろ、できなければと死ぬと思え」

「なんじゃと!!」

バチン

「うがぁ!」

「ビタミ!!」

「誰が発言を許可した奴隷が」

うずくまるビタミ

「無理だ…あの大穴を下げるために何日必要だと思っているんじゃ」

「前回だって3週間で掘り下げたのに…」

ふっ

「2度は死刑だ…奴隷に発言の自由はない」

ザッ

「いいよビタミ」

「…ユジィくん」

ここでビタミを失うわけにはいかない

「やります、だからここは許していただきたい」

「お願いします」

ふっ

「はははは!!」

「そんなまじになんなよ、こんな老人生きてても死んでも変わんねぇよ」

「いいから作業に戻れ」

「はい」

ポロ

涙を浮かべるビタミ

「すまん…ユジィくん」

「いいよ全然」

「このくらいなんて事ないさ」

「じゃまた後でね3人共」

不安そうな3人は通路に姿を消す

「じゃあやるかルイ」

「おう、絶対に掘るぞ」

……

「大丈夫かユジィ」

「何が?」

「お前顔が…ひどい顔してるぞ」

・・・

「心配ないよ…ただ思ってたよりもイラつくだけだ」

この採石場で取れる鉱石のほとんどが魔法伝達率が低く亜人界の石ころと同じ濃度

加えてアスクリード地表から感じる魔法濃度は地下の数百倍…亜人が保有する魔法石と似ている

つまりここで掘っている鉱石はいくら掘っても無駄……怒りを越して呆れる

ここを取り締まってるやつは断罪すべきだろ


「あぁぁ……あん」

喘ぎ声にも似た声が部屋に響く

「ジェルミ様」

バサ

ベッドに倒れる女

「この部屋に入るときはノックしろと言ったろ」

白いローブを羽織る体長3mを超えるネズミの獣人

「すみません」

「ガリアス様が急ぎ話があるとのことです」

ちら

部屋奥には大きなベッドに横たわる数人の女

「ジェルミ様…また壊したのですか?」

「あ?」

・・・

「あぁ…暇つぶし?」

「本番前の肩慣らし程度だよ」

「はぁ…」

ベッドには赤い斑点

「行こうかジイ」

「ガリアスさんを待たせると俺が殺されちまう」

ギィィィ


バタン


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