体験談

名前を呼ばれる

 昔から周りには誰もいないのに、自分の名前を呼ばれるという経験を何度かした。

 私の実家は日本家屋で、小さい頃から和室や仏壇、遺影といった物が当たり前になっている。


 一つ目の話。これはまだ私が小学校へ上がる前か小学生の頃だったと思う。

午前中か昼頃、家の玄関付近にいたときに、


「もち」


 仏間の隣の和室あたりから、そう聞こえてきた。

ぼそぼそとした声。なんとなく女性の声のようにも思えた。

 私は、母が呼んだんだなと思い、「お母さん、今名前呼んだ?」と聞いた。

母から返ってきた言葉は「呼んでない」だった。私は怪訝に思った。じゃあ今のは何だったんやろ……?子供ながらに不思議だった。


 こういうことも度々あった。

 あるとき玄関の方から「もち」と母らしき声で名前を呼ばれるので行くと誰もいない。

少し種類が違うけれど、玄関を開ける音がしたので見に行くと、誰もいないこともあった。今でもたまにある。


 ちなみに私だけではなくて、逆に母から「あんた、今呼んだ?」と聞かれたこともあった。

当然私は呼んでないので、違うと答えた。


 その中で、今でも一番不可解で怖かった話。

何年も前のこと。ある夜、私は寝るためにいつも通りに2階への階段を上っていた。その途中、


「もち」


 全く知らない女性の声が、はっきりと、私のすぐ横でした。

その瞬間、自分の背中が熱くなり、ものすごく鳥肌が立った。私は声にならない声を上げ、そのまま階段を駆け上がった。

 翌日あたりに母にその話をすると、「あんたが聞いたことない声って言うと、もしかしたら亡くなったおばあちゃんかもな」と言われたこともあった。が、真偽は不明。ちなみに私から見て母方の祖母である。

 これ以外でも家の階段付近では度々怖い思いをしており、夜中に時おり白っぽいもやをみることがあった。それは天井付近に浮かんでいたり、壁からにゅっと出てきた(ように見えた)こともあった。

自分の気のせい、目の錯覚と言われると何とも言えないが。



 次に去年のこと。

私が風呂に入っているとき、母がやってきて浴室ドア越しに、


「風呂場からあんた呼んでたけど、何や?」


 そう言われて私はぞくりとした。何故なら、一言も声を出していなかったからだ。


「お母さん。私は呼んでないで……」


 家ではたまにこういうことがある。



 最後にもう一つ。去年の11月23日の晩のこと。

この日、私は京都の伏見稲荷大社へ行った。


 そもそも自分がここへ行き始めたのは、何年も前にネットで神社仏閣や心霊スポットの怖い話を読んだからだった。

その中でも、京都にある貴船神社や伏見稲荷大社をはじめとした、神社仏閣での怖い話や不思議体験を読んで、私はとても興味を惹かれた。怖いもの見たさと好奇心でここに行きたい!と思った。


 そうして、何年か前に貴船神社へ行った。もちろん明るいうちに。

境内の落ち着いた雰囲気、奥宮の空気がひんやりしていたのが心地よかった。思っていたよりも怖くはなかった。

その時御朱印をいただかなかったのが今でも心残りなので、年内にまた参拝するつもり。

 伏見稲荷の方も2017年に初めて行った。最初は奥の院あたりまで行って、そのまま山登るルートへ行ったつもりが、途中で道を間違えたのかいつの間にか本殿あたりまで戻っていた。

確かにここは山のあたりは怖くも感じるが、やはり境内の雰囲気が好きな感じだし景色も綺麗だったのでまた行きたいと思えた。なので、それから毎年11月に参ろう、登山ルートも歩こうと決めたのだった。


 話は戻って、この日も本殿を参り、おみくじを引き御朱印をいただいた。奥の院でお守りをいただき、ぐるりと山を1周した。

写真を撮るのも楽しみの一つ。スマホで景色や狛犬・狛狐などを撮った。眼力社周辺の紅葉がとても綺麗だった。

 その次は六道珍皇寺へと向かう。ここは初めて行くところだったのでどきどきした。

例の井戸もこの日特別公開されていたので、料金を払いそれぞれ見てきた。井戸周辺はひんやりするが、不思議と怖くはなかった。まだ夕方前だったし。

 最後は近所にある大谷本廟へ寄り、一人で家の仏壇を拝んだ。この数年参っておらず、久しぶりだった。



 そして晩。いつも通り布団に入り、レンジで温めたアイマスクを目の上に乗せながら、私はぼんやりとしていた。

いつの間にか、うつらうつらしていたらしい。ふいに、


「もちさん」


 部屋の中で、女性の声が、私の苗字を呼んだ。それは、すぐそばから聞こえた。けして、自分の聞き間違えではない。それくらいはっきりと聞こえた。

 その声色は、笑顔を作りにこやかに呼びかけるような印象だった。だが、ちょっと不自然に声が高かった感じもした。


 夢うつつだった私は、それで一気に覚醒した。仰向けになったまま固まっていた。突然のことでそれはもう、頭の中が混乱していた。


(えっ?何なん今の!?今、女の人の声で自分のこと呼んだよな?何で?何でや。意味わからん!怖い怖い!)


 鼓動が早くなる。しかし金縛りに遭い、身体が動かないわけでもなかった。

返事はせず、顔を少しだけ上げて見る。当然部屋には私一人だけ。

一応補足するが、私に姉妹は一人もいない。家にいる女性は、母と私だけだ。


 何事もなかったように、私は再び仰向けになり目をつぶる。しばらくすると、


「もちさん」


 またもや苗字を呼ばれた。先ほどと同じ、にこやかに呼びかけるような印象だった。

しかし1回目とは声が若干違うように感じた。おまけにさっきよりちょっと高い気もするし、別人のようにも思えた。


 翌日私は、玄関に置いていたリュックから御朱印帳と神社仏閣でいただいた書置きをそれぞれ出し、部屋の机に置いた。

その日の晩も、前日と同じようにまた名前を呼ばれたらどうしよう……などと考えていた。しかしそれはなかったので安堵した。

 

 数日後私はとある病院へ行って、はたと気付いた。何人かいる看護師のうちの一人の声を聞いたときだった。


(あのときの声と似ている……)


 正確には1回目の声が、そこの病院にいる看護師の一人と似ていた。

また、後でよく考えると、2回目の声は、職場の女性の一人に似ている気がした。

実際のところ、あれが何だったのか分からない。ああもはっきり私の名前を呼ぶ声が聞こえたのは、家の階段の件以来だった。


 そういうわけで、これ以降特に名前は呼ばれていない。今のところは……。

最後に、11月23日に伏見稲荷などへ参拝してから、私のノートパソコンの画面がよく乱れるようになった。

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