浜松市襲撃事件~鰻の怒りを知れ~

今晩葉ミチル

プロローグ

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 日本全体が天罰の如き暴雨にさらされていた。近年稀にみる豪雨であった。

 バケツをひっくり返したような雨が静岡県にも降り注ぐ。

 静岡県の中でも、雨は浜松市に集中していた。浜松市とは、静岡県西部に位置する政令指定都市であるが、つい最近文化レベルに関して話題になった。鰻や餃子やミカンが美味しいと有名であるだけでなく、お祭りにも力を入れている。多くのコンクールやコンサートが開催され、音楽の街としても発展している。全国的に有名な車の大企業の本拠地もある。

 知る人ぞ知る文化都市である。

 そんな浜松市には逸話がある。

 静岡県西部の誇る浜名湖に関するものだ。

 近々浜名湖花博が開催される事で話題になっているが、今回の本題はそこではない。

 浜名湖では多くの海産物が育まれている。

 アサリ、フグ、牡蠣、クルマエビ、青ノリ、そして鰻……。

 近年は行われていないが、潮干狩りを楽しんだ人も多い。

 そんな浜名湖の奥底には大量の天然鰻が住み着いている。日頃は人知れず群れを成すだけなのだが、今宵は違っていた。

 群れの中でひときわ大きな鰻が、人語を介さない言葉を発する。

「我らの同胞は報われているか?」

 同胞。

 彼らにとって、それは海面で養殖されている鰻たちの事である。

 天然鰻たちは、沈黙していた。

 瞳を吊り上げて、地上――ちょうど浜松市の中心街がある方向――を睨んでいる。言葉なく怒りを示しているのだ。

 先ほど発言した鰻が言葉を続ける。

「浜松市は、古の盟約を果たしていない」

 天然鰻たちは尾やヒレをばたつかせて、激しい同意を示す。

「今こそ制裁の時!」

 天然鰻たちは雄たけびをあげて、猛然と海面へ突き進む。

 そして、豪雨に守られるように浜名湖周辺の街へと降り立つ。

 浜名湖周辺の街は、瞬く間に鰻に埋め尽くされた。

 彼らが目指すのは、浜松市の中心街であった。

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