花言葉の杜 その三

菜月 夕

第1話 桃花

「起きなさいよ!社にお参りに行くんでしょ」

 この村に百年程前に越してきた鵲来さん。

 たしか、その頃に明治政府が神社の統合廃止をした時に元の神社を整理してきたがご神体だけはこの村に隠して持ってきたとか。

 そして村長の許可を得て購入した地の山にその社を作った。

 その頃周りの村で起こった災害もこの村では少なく、それ以来この村の守り神として私たち氏子が整備していた。

 この社の杜人の鵲来さんは街に出た弟を残して事故で亡くなってしまったが、弟の柾さんが年仕舞いと年明けの祭事を行ってくれている。

 柾さんの家へ二人で向かう。

 扉を開けると良い匂いととても綺麗な女性と歓談していた。

 お邪魔しちゃったかな。

「あなた方のぶんは後で持って行く予定だったんですがね」

 ちょっと苦笑が交じっているのはこの人とそういう関係なのかな。

 一緒に来た圭輔が長居しそうなのを追い立てて社の山への道を登る。

「一緒に居た女性、歌手の神崎美玲だったぞ。俺も話ししたかったのに」

 だからニブイって言われるのよ。

 雰囲気読みなさいよ。まぁ、こいつは農家の傍ら木の工芸にハマる彼女もいないかわりものだ。男女の機微なんてのはダメなんだろうなぁ。

 その後は黙々と社への道を登る。

 小さな社にはタチバナと餅が供えられて蝋燭が燃えた後が残っている。

 きっと柾さん達が供えていったのだろう。

 なぜか神妙になる圭輔。

 黙ったまま山を降りる。「大丈夫か、桃香」

 なんのことだろう。

「お前、鵲来さんの事が好きなんだろう」

 それ、いつの話よ。確かに中学頃まではお兄ちゃん大好き、だったけど。

 でも、私の事見てくれていたのよね。

 ちょっと顔が赤くなって胸がドキドキしてきた。

 私が圭輔のことしか見なくなってたなんてことを気づきもしないんだろうなあ。

 私の名前に桃が入ってるせいでもあるまいし、あなたのとりこになってることなんて。


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