第 2話 もとか気付く

人数を4人に増やしたこの状況に、姉妹の二人はかなり戸惑っていた。


 特に長女の美夏は故郷では交渉事が得意で、楓たちのサポートをしていた。


 もちろんその中には、強引に自分達の中に入ってくる人物はいたが、言葉と態度を巧みに使って美夏は下手な介入を防げていた。


(でも、この人は違う。私の防壁を簡単に抜いて干渉している)


 自分のかわいい弟に話しかけている栗原もとか、と名乗った女子生徒を見ながら心の中で警戒度を上げる。


(HSSは腕利きというのは本当のようね。…これ以上情報を取られる前に、カウンターをかけるか)


物騒な事を考えながらそう決める。


「もとかさん、でしたっけ」


「うん、そうだよ。あ、敬語は無し無し!私には気にしないのよー」


「もとかさんは、HSSのどんな立場なんです?」


「あら、ストレートに来たね。特に隠す事は無いけど私はHSS第二捜査隊の隊長よ」


「えっ!?」


そう、結珠羽が驚いた声を上げる。


「第二捜査室隊って・・・なんだっけ?」


くいっと小首をかしげて結珠羽が美夏を見る。


「戦闘組織のHSSの中で主に情報関連の役割をしている、それで間違いない?」


「そうね、それで間違いないわ」


(それで、聞き込みとかが得意なのかな)


 自分達に警戒をされずに、溶け込みつつある事に軽い戦慄が背中を走る。


「そんな事より、案内を続けるわね。ここはわかるように歩行者と自転車用の正門、すぐ近くに車両が入れる南西門があるから、まあどっちから入ってもOKね。この先には中庭を囲んで第1校舎から各種校舎、魔法実技棟があって、その先に大体育館があるわね」


 美夏の警戒を気が付いているのか不明だが、変わらない調子で話を続けるもとか。


「あの大きな屋根が見えるのが体育館ですか?」と楓。


「そうね、規模的には魔法実技棟の方が大きいけど、高さ的には大体育館が高いかな。あれ、あまり動揺してないわね」


 3人が大体育館の方を見ている表情を見て、もとかは軽く驚いた声を上げる。


「なんでです?」


「いやー。ウチに来た初めての人は、この広さに引く事が多いからね。そうならない人は珍しいなと思ってね」


「ああ、それなら故郷の方が色々と広いところがあったので、それに比べると普通ですね」


 リュックの紐のズレを少し直しながら楓が言う。


「そうなの…?」


「HSSの方なら個人情報ぐらいなら把握されているのでは?」


「うーん、そうなんだけどね。ウチみたいに1年で1000人くらい入ってくるところだと、記憶しきれてないかも」


 情報関連の組織がそれで大丈夫なのか、とふと思った楓だった。しかし、美夏がそれ以上突っ込まないので自分から特に掘り下げない事にする。


「魔法実技棟は、その名の通り魔法の実技を練習と座学を行う棟ね。規模が大きいのは対爆、対汚染、対魔法防御を施しているからよ」


「さすが、魔法界にも数多くの論文を発表している学園ですね。姉と妹が喜ぶと思います」


 既に4人はその魔法実技棟の脇を抜けている。


「絶対に結珠羽なら毎日籠りそうな場所になるわね」


「使い方とかはオリエンテーションで聞いてね、まあ厳重に施錠できる場所もあるので魔法を使っても出られなくなる場合があるので、閉じ込めとかには気を付けてね」


 さらっと怖い事をいうもとか。


 楓は中庭を見渡してみたが、居心地のよさそうな作りだなという感想を覚える。


「クラスはもう個人端末に送られているから、入学式が終わったら自力で行ってね」


「わかったわ」と美夏。


 そう話をしながら4人は大体育館の前に着く、床一面にシートが敷かれていて今日に限っては土足で入って大丈夫なようだ。


 汚れを落とす能力のある魔法が使えれば、その気になれば建物内へ土足は可能だが、日本の生活習慣的に土足は好かれていない。


「じゃ、私の案内はここまでね。入学式を楽しんでねー」


 入学式でHSSの業務がある、といったもとかは軽く挨拶をしてステージ裏へ向かって去っていく。


「ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」と楓がビシッとした礼をする。


「ありがとうね」


「あ、ありがとうございましたっ」


 落ち着いた礼を言う美夏に対して、嚙み気味の結珠羽はいつもの人見知りだろう。


「迷うと思ったけど、案内されて得だったね」


「それにしても、いきなり大物が出てくるなんて」


 少し美夏が考える様子を見せるが、すぐに思考を切り替える


「考えてもしょうがないか、自由席みたいだから席を探しましょ」


 そう3人は大体育館に入って行った。

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