第3話

 それでも、老人は車を街外れの荒れた地に停めた。


「やったー、きっとこの街でおいしいごはんがいっぱい食べられるわ」

「そうだ。うんと食べよう」


 老人は訝しんでいたが、少女には微笑んだ顔を向けていた。街の建物から一人の男が車に寄って来た。

「この街も駄目だ。帰った方がいい」

 そう忠告した男は旅のための荷物をすでに背中に背負っていた。

 その男の後ろには、大勢の街の人が旅支度をしていた。


「食べ物が全て汚染されてしまった。まったく育たないんだよ。ここから北に行ったところに小さな街がある。そこへみんなで行こうとしているんだ」


「北にはまだ行かない方がいい。何せ全ての汚染の名残がまだあるんだ」


 老人の親切な言葉も聞かずに、街の人は去って行った。


 北極に、宇宙から何かが降って来た。

 そう、人々が言いだしたのはいつのことだったか。


 それが最後の言葉で、始まりの言葉だった。

 

 大気が死んだ。

 

 そうとも言っていた言葉は、時とともに静かに消えていった。


 砂と汚染された水でできた雨が降る街で、お腹を空かせた少女と老人は、諦めずに畑を耕すことにした。

 広い畑を耕し、喉が乾いたら老人は躊躇わずに汚水を飲んだ。

 少女には水筒の綺麗な水しか飲ませなかった。


 だが、老人にとっては楽しい日々だった。


 精一杯。精一杯。畑を耕す。

 そんな日が続いた。

 

 食料は少女のスカートのポケットの中の大きめのビスケットだ。

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