住宅の内見。~ 或る日の営業 ~
崔 梨遙(再)
1話完結:1500字。
20年くらい前、僕は名古屋の広告代理店で働いていた。或る日、某住宅メーカーの部長と商談をした。部長は、終始含み笑いをしていた。あまり感じは良くなかった。部長は、相手の腕試しをすると聞いたことがある。何を考えているのだろうか?
「崔さんなら、どんな広告を作ってくれるんですか?」
来た! 腕試しという名のチャンス! 別名挑発!
「ご期待を裏切らないつもりですが」
「見てみたいですね、試しに作ってもらえますか?」
「はい、お望みでしたら」
「私は広告作りに手を貸しませんが、それでも作れるんですか?」
「はい、お望みでしたら」
「では、次回はその広告を見ながら話しましょうか?」
「はい、それで構いません」
「広告が出来たら、連絡ください」
「わかりました」
その週の土曜日、僕は休日を返上してその住宅メーカーの展示場へ行った。スグに住宅メーカーの営業さんが相手をしてくれる。
「いらっしゃいませ」
「すみません、住宅の外観を写真に撮ってもいいですか?」
「はい、幾らでもどうぞ」
「ありがとうございます」
僕は外観写真を撮りまくった。
「次は内見させてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞお入りください」
「すみません、内観も写真に撮っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
僕は、部屋、ダイニング、リビング、風呂、トイレなど一通り写真を撮りまくった。担当の営業さんが驚くくらい撮った。
「僕、広告代理店の営業をやってるんですよ」
「そうですか」
「住宅の営業って、イメージが湧かないんですけど、どんな感じですか?」
「ノルマって、年間何件くらいですか?」
「そのノルマって、普通にクリア出来るんですか? キツくないですか?」
「住宅営業のやりがいってなんですか?」
「逆に、住宅営業でツライことってなんですか?」
「印象に残るエピソードってありますか?」
「他社には無い、御社の良さってどこですか?」
「担当さんの笑顔も写真に撮って良いですか?」
写真を撮りながら、営業担当を質問攻めにしたら、営業さんが笑い出した。
「今日は営業の一環として来てますよね?」
「はい、バレましたか? まあ、隠すつもりも無かったんですけど」
「広告の営業ですか?」
「はい、今回は求人広告なんです」
「今日は土曜日ですよ、休みじゃないんですか?」
「休みですけど、いいんです、休日に仕事をするのは慣れていますから」
「いやー! なかなか熱い営業をなさっていますねー!」
「そうですか? 自分ではこれが普通だと思っているんですけど」
「私も熱い営業は大好きなんですよ。協力します」
「ありがとうございます、是非お願いします!」
部長からは、“自分は協力しない”と言っていたが、他のスタッフに協力してもらったらダメとは言われていない。
「私は、何をすればいいですか?」
「インタビューさせてください。実際に働いている方の生の声が聞きたいんです」
「それじゃあ、座りましょうか。お茶でも飲みながら話しましょう」
「後で、笑顔の写真も撮らせてくださいね」
「構いませんよ」
「ありがとうございます!」
熱い営業マン同士、理解し合うことが出来たのだ。火と火が合わさり炎となった。きっと、僕達はものすごい化学反応を起こしただろう。
月曜、僕はクリエーターさんに広告のデザインを指示した。文章は全部僕が書いた。広告の原稿が出来たら、スグに部長に連絡した。そして、翌日のアポを取った。
即決!
僕は、申込み書をもらうことが出来た。結構、いい金額の商談になった。
「崔さんには負けましたよ」
そういう部長は、笑顔だった。
住宅の内見。~ 或る日の営業 ~ 崔 梨遙(再) @sairiyousai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます