ワールドイズマイン〜ヤバすぎる名前のスキルを得たので、無能のふりして生きる僕(実はチート)。魔族の生贄にされそうなので、本気出します

鈴木土日

スキル鑑定


 教会の前で、十人くらいの子供たちが列を作っていた。

 ぼくを含む全員が、今年、七歳を迎えたばかりの子らである。


 すぐそばでは、その親たちが期待と不安が入り交じった顔で我が子を見守っていた。

 ぼくの両親も例外ではない。


 概ね六歳前後で誰もが【スキル】に目覚める。


 どんなスキルを得たかは大抵、本人にもすぐには自覚できない場合が多い。

 かつては、自らのスキルをずっと知らないままという例も珍しくなかったらしい。

 今では、早い段階でスキルの【鑑定】を受けるのが一般的である。


 教会の扉から飛び出してきたマークが、彼の両親のもとへと駆け寄る。

 息子から耳元で何やら告げられた父親は、安堵の表情を浮かべた。

 こちらへ向けて、満面の笑みでピースしてみせるマーク。どうやら良いスキルが得られたらしい。

 いくら幼馴染でも、自らのスキルを安易に教えたりはしないけど。


「【料理】だったら、いいな」


 ぼくのひとつ手前に並ぶエリイが、ワクワクした様子で教会へ入って行く。金色の長い三つ編みが弾むように揺れている。


 教会は町のほぼ中心に位置する。その周りには、老若男女の野次馬たちも多く集まっていた。

 小さな田舎町では、【鑑定】はひとつのイベントなのである。


 程なくして外へ出てきたエリイは、どこかふてくされた表情をしていた。


(期待外れのスキルだったのかな?)


 ただ、エリイから耳打ちされた彼女の両親は、ともに喜びの反応を示していた。


 ぼくが【鑑定】を受ける番である。


 父さんと母さんを振り向くと、ぼくよりも緊張しているみたいだった。

 妹のルカは、ほわあーっとした顔でくまさんの人形をぎゅっと抱いていた。


 ぼくは深呼吸をひとつしてから、教会内へと足を踏み入れる。


 見上げる程高いアーチ型天井の礼拝堂に、ぼくのくつ音のみが鳴り響く。


 祭壇の前で鑑定士が待ち受けていた。


 てっきり年配の男性などを想像していたが、若い女性だった。

 銀色の長い髪を後ろで束ね、黒と白を基調とするぴったりとしたスーツで身を包んでいる。


「アリッサ・バラードです」


 そう名乗る彼女に、こちらも自らを名乗ろうとする。


「ぼくは……」


 アリッサさんは言葉を遮る様に、ぼくの顔の前へ右掌をかざす。そして、目を閉じた。


「ワイズ・ブルームーン、人族、男、七歳。レベルは……」


 彼女はぼくのステイタス値を淀みなく読み上げていく。詳細な値を知らされるのは初めてだ。

 腕力とHPは平均値より低めで、魔力とMPは高いらしい。


 ついにスキルが読み上げられる……。


 突然、アリッサさんが大きく眼を見張った。その額にうっすらと汗が浮かぶ。

 その反応に不安が隠せないぼくに、彼女は取り繕う様な笑みを向けた。


「つ、続きはいったん後回しだ」


 肝心のスキル名は教えてもらえないまま、ぼくは教会を後にせざるをえなかった。

 不安げな顔で待っていた両親へ歩み寄り、事の経緯をそのまま伝える。

 すぐ側にいたエリイが、パッと笑顔を咲かせた。


「特別なスキルなのよ、きっと」

「おにい、すごっ!」


 ルカもつられる様に、ぴょんぴょん飛び跳ねている。多分、訳もよくわかっていないだろうけど。


 ぼくは、不安の方が大きかった。

 鑑定直後に見せたアリッサさんの態度が、否応なくそうさせる。

 父さんと母さんも、ぼくと同様の心境らしい。ふたりの表情がそれを物語っていた。


 すべての子たちの【鑑定】が済んだ。

 再びアリッサさんのもとへ行くよう、ぼくは教会の人から促される。


「ご両親も、ぜひご同行を」


 ルカをエリーたちの一家に預けて、ぼくは父さんと母さんと共に教会内へ。

 三人でアリッサさんと対面する。


「ワイズはどんなスキルを授かったのですか?」


 父さんが不安を隠さずに問い掛ける。


「く、くちにするのも畏れ多いのですが……」


 アリッサさんはそう前置いてから、ぼくの得たスキルの名を告げた。


 【世界はぼくのものワールドイズマイン


 母さんは悲鳴に似た声を発した。


 確かにそれは、あまりにも畏れ多い名称のスキルといえた。

 国王陛下や領主様の権威を、真っ向から否定するような文言である。へたをすれば、不敬罪に問われかねない。


稀有レアスキルなのですか?」


 父さんが問うと、アリッサさんは神妙そうな顔で答える。


「恐らく、未知アンノウンです」

「そ、そんな……」


 父さんはゼッ句する。

 それが意味する危険性は、ぼくにも理解できた。


 未知アンノウンスキルの保有者が見つかった場合、速やかに魔族側へ通知しなければならない決まりだ。

 場合によっては、その身柄を魔族らへ引き渡す事も要求される。

 そうなれば、ぼくに待ち受けているのが悲劇的な運命であるのは想像に難くない。


「どうするおつもりか?」


 アリッサさんから問われた父さんたちは、しばらく黙り込んでいた。

 やがて意を決した様に、父さんはぼくを見る。初めて目にするくらい真剣な顔だった。


「いいか、ワイズ。よく聞くんだ」

「……うん」

「お前のスキルは、けして他人に教えてはいけない」

「だ、ダメなの?」

「ああ」


 父さんは、アリッサさんに向き直る。


「鑑定士様もお願いします」

「……し、承知した。私さえ黙っていれば、誰にも知られずに済むでしょう」


 父さんと母さんは、アリッサさんに対して深く頭を下げた。

 再び、父さんはぼくの方を向く。


「それと、お前はけしてそのスキルを用いてはならない」

「……え」

「いいなッ?」


 ぼくの態度に躊躇いを見たのだろう。

 父さんは、強い口調で言いこう聞かせる。


「お前は、無能者として生きるんだ」


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