あけぼの色の復讐

@mahamoho

第1話 復讐の始まり

 「私の人生は散々だった。」

 つねに私は周りの空気を読んで相手の機嫌を取るために思ってもいないことを伝えて媚びへつらってばかりだった。そのくせ最期は親友だと思っていた子に殺されてしまうというあまりにも無慈悲な結末だった。そんな私に訪れた奇跡、俗にいう異世界転生というやつは素晴らしかった。私は転生の際に最強の魔法使いになった。全てが私の意のままだった。この世界で私より強い奴なんて一人もいなかった。好きなように力をふるい破壊の限りを尽くして暴虐ぼうぎゃくの魔女と恐れられた。私の命令は絶対だった。人間、魔族、竜、誰もが私の思うままだった。この世界は前世で、くそみたいにつまらない人生を送らされた私に与えられた自由な遊び場なんだと思って好き勝手をしていた。そんな毎日の続いたある日だった。私のことをこの世界に連れてきた神様と突然再開した。私はこの素晴らしい力と世界を与えてくれたことに感謝した。けれども神の野郎は哀れそうな目で私を見て、私に呪いをかけて最強の魔力を奪った。その後は最悪だった。私に力がなくなったと気づいた人間が私に報復をしてきたのだ。ありえない。私は確かに好き勝手にやっていたが、お前らのために魔王も倒してやった勇者なのに。勇者ってのは崇められるものじゃないのか?そんな思いも儚く、私は様々な罰を受けさせられた。最初の処刑で死ねていれば楽だったのに神の野郎がかけた不死の呪いがそれを許してくれなかった。人間たちは私が死なないことに気づくと恐怖し、私への拷問はさらに厳しく苛烈なものとなった。運よく脱獄に成功したからよかったものの、あのまま一生を過ごしていたらどうなっていたのやらと考えると今でも震えが止まらない。脱獄してからは、それはもうひたすらに逃げ続けた。どこか誰も私を知らなくて私を傷つける人がいない場所に行きたかった。しかし私の悪名は世界中に広まっており国や村に入るたびに追い掛け回され、捕まり、拷問された。そんな私が数年さまよった末にたどり着いたのは、最南端の国〈リュウゲンベルク〉の辺境の村だった。この名前もないほど辺境に位置する村では私の悪名は広まっていなかった。おかげで私は普通の町娘として受け入れられた。しかし突然、町のコミュニティーに現れた得体のしれない少女というのは想像の何倍も肩身が狭く、うっかり国の兵士に突き出されようものならまた拷問の日々に逆戻りしてしまう危うい日々だった。私は力を奪った神の野郎を、私に拷問をした人間を恨んでいた。いつか絶対力を取り戻してこいつらに復讐をするそれだけが私の心の支えだった。そしてまたあの愉快な日々を取り戻す。そのためだったら醜い人間どもに頭を下げて暮らすこのくそみたいな日々にも耐えられた。しかし魔力を失った私に何かできるというわけでもなく、前世の時のように周りに合わせて媚びへつらって機嫌を損ねないように生活するほかなかった。このまま復讐を果たせずに一生が終わってしまうのかと頭を悩ませながら過ごしている日々のことだった。

 

 村に突然竜が現れた。

 

 いつもの日課でおじさんの家の花壇の花のお世話をしていた帰りだった。村の正門の間に人だかりができている。門に近づいてみると近所のおばさんがいたので話しかけてみた。

「すみません。おばさん、この人だかりはどうしたんですか?」

数少ない村人が全員集まっているのではないかというほどの人だかりだった。するとおばさんはおびえた様子で言った。

「あぁ?なんだよそ者の子か。気になるなら自分で見に行ったらどうだい。」

この村には魔物除けのための立派な壁があるのだが、外に魔物でも来ているというのか?

「すみません。ちょっと通してください。」

興味本位で見に行ってみた。人ごみをかき分けて門のそばまで行った私は絶句した。

そこにはおびえながら話している村長とバカでかい竜がいた。好き勝手やっていた時期に幾度となく竜は見たことがあったがこれほどでかい竜は初めて見た。いったいこんな化け物みたいな竜がこんな辺境の村に何の用があってきたのかと思って、話を聞いていると、話の内容がつかめてきた。どうやらこの竜はこの村の近くの山が気に入ったから住むことにしたらしい。その際にこの邪魔な村を滅ぼさないでやるから数日に一度、生贄として村びとを何人かよこせという話らしい。ふざけた話だ竜なんだから自分の食糧ぐらい自分で調達できるのにわざわざ私たちから生贄を出せというのか?当然、村長も抗議している。

「頼みます。動物の肉を山ほど用意しますのでどうか村人には手を出さないでください。」

しかし竜は無情にも言い放った。

「ならん!俺が持ってこいと言ったら12時間以内に人間の生贄を俺が住む山のふもとの洞窟に連れてこい!」

「そうだな。今日はとりあえず女を一人よこせ!そいつの質の良さでこれからのお前たちの待遇を決めよう!」

そう言って竜はのしのしと山の奥へと消えていった。すぐに村では生贄をどうするかの話になった。当然、どうせ生贄を差し出すなら竜の満足いく人にしてこれからの待遇を少しでもよくしようという話になった。私はひっそりと影を消していた。しかし現実は私には厳しい。一人の青年が私がいいのではないか?と言い出したのだ。

「そんな!私なんて汚い女を竜様に差し出したら竜様の逆鱗に触れていしまいます!」

必死に反論した。しかし青年に続くように周りの人が賛同し始めた。

「確かに泥まみれで汚いけど、泥を落として清潔な服を着せればそれなりになるんじゃない?」

「だいたいよそ者のこいつなら別にいなくなっても変わらないしこいつでいいだろ!」

「そうだな!意外と竜の趣味はこいつでぴったりで、いい待遇を受けれるかもしれないぞw」

もうおしまいだ。私には誰一人として味方がいない。もう痛いのは嫌なのに、、、

そのまま話し合いは平和に終了した。すぐさま私は体を清められ生贄となる準備をされた。抵抗はできなかった。気づくとあっという間に縄で縛られて、竜の言った洞窟に連れてこられていた。これからどうなってしまうのだろう?そんな問いについて考え、恐怖する時間すらもないままに竜は現れた。私の頭の中ではあの時の拷問の日々がフラッシュバックしていた。逃げなければ、そう思っても縄は私の体中にきつく巻き付けられており身動き一つできなかった。竜はその大きな巨体から私を見下ろしながらしゃべりだした。

「ほう。あの村長、生贄を出すことに渋ってたくせに思いのほかにいい女を差し出してきたじゃないか。」

「これからの待遇が何とやらと言ったのが功を奏したか。」

くそっ!このままじゃ食われる!何とかしなければ!しかし、言葉を発しようとしても恐怖で口が動かない。何も命乞いもできぬまま口をあわあわさせていると、あざけ笑うように竜が言った。

「おい!女!今俺はいい気分だ。お前で遊んでやるw」

「お前を縛り付けている縄を解いてやる。だから俺から逃げてみろw夜明けまで逃げ続けられたら特別に今回は許してやろう。」

「どうだ?いい条件だろw」「では!スタートだ!」

そう言い終わると竜は大きな爪を振り下ろして、器用にも私の体を気付つけることなくきれいに縄だけを切り落とした。私に感心してる暇などなかった。考えるよりも早く私は洞窟から駆け出して行っていた。無我夢中だった。竜の巨体と人間の私のかけっこだ。遊ばれていることは明白だった。それでも全身を恐怖が奮い立たせるので、全力で走り続けていた。

「どうしたwそんなスピードではすぐに追いついて食べてしまうぞ!」

竜の楽しそうな声が後ろからこだまする。

くそっ!その気になればその翼で飛んで追いつけるからって余裕こきやがって。夜明けはまだまだ先だ。きっと私の不死の呪いならば死ぬことはないだろうしかし、今度は竜の玩具になるなんて勘弁してくれ。

「ふざけるな!私はまじめに生きてきたのに!あの時だって!私よりこんな罰が似合うやつは他にもいるだろ!なんで私なんだよ!」

気づけば考えている言葉が口から叫び声として出てしまっていた。竜のあざけるような笑い声がどんどん近づいてくる。

「神のくそ野郎が!あんたが力を私から奪わなければこんな竜ごとき、、、」

今残されている魔力で使える唯一の攻撃魔法では全く歯が立たないだろう。くそっ!しかしそんな抵抗でもしないよりはましだ。やるしかない!そう自分を奮い立たせて後ろを振り返ろうとした時だった。体が地面に吸い込まれていった。違う!落ちてる?崖だったのか!気づいたころにはありえないほどの衝撃と痛みが私を襲っていた。


 気が付いたころには私は四肢がバラバラの、血だらけの状態で倒れていた。助かったのか?しかし、考える間もなく全身に張り裂けるような痛みが襲ってきた、、、

しかし神の野郎がかけた不死の呪いではこの痛みもバラバラの体はどうにもならない。あいつが与えた呪いはあくまで不死。死なないことであって無限の再生能力でもなければ、ダメージを受けない体でもない。私はこんな目に合うたびに残されたわずかな魔力で下手な回復の魔法を少しづつ使って回復しなければならなかった。ほっておくと激痛で頭がおかしくなってしまうからだ。いつもどうり体がズキズキと痛む回復魔法で体を少しづつ治した。今回はかなりボロボロだったからかなり時間がかかってしまった。日が昇ってきてあたりが明るくなってきた。私は目の前の景色にまたも恐怖を呼びこされた。

「なんで、、、」

目の前にはあのバカでかい竜がいた。急いで逃げようとした時にふと違和感に気づいた。なんで私が長々と回復してるときに襲ってこなかったのだ?振り返ってよく見てみると竜の体もボロボロで今にも死にそうだった。こいつも落ちてきたのか?私を追いかけるのに夢中で崖から一緒に落ちてきたのか?

「おい!」

「お前魔法を使って回復したな。それを俺にも使って回復しろ!さもなくば今度は再生できないようにもっとバラバラにしてやるぞ」

突然、竜が話しかけてきた。しかしその声には以前のような迫力はなく怖くはなかった。

「いやだよ。そんなことより、お前なんで飛ばなかったんだ?焦って間に合わなかったのか?」

気になったことを聞いた。すると苛立たしそうに答えてくれた。

「うるさい!俺は飛べない竜なんだ!」

そんなはずがない。地竜のような飛べない竜の種類もいるとは知っているがこいつの背中には立派な翼がついている。怪訝そうな目で竜を見つめていると竜は嘆きだした。

「そんな目で俺を見るな!ほんとはこんなことになるはずじゃなかったんだ!ほんとなら今頃、過去最速の飛竜として竜族の長になってたのに、、、」

すると竜は何かをあきらめたように語り始めた。

「おい!女!冥土に行くついでだ。俺の愚痴を聞いていけ!」

ほんとならこんな死にかけの竜を無視して私はこれからどうするか考えるべきなのだが、今の過去を嘆く竜の姿に自分を重ねてしまったからか話が気になって仕方なかった。

「俺は生まれた時から天才だった。誰よりも速く飛べた。竜族のみんなは俺こそが長にふさわしいと口をそろえて言っていた。」

「長となる儀式で俺に与えられていた課題は、竜の里の外周を歴代の最高記録より早く一周することだった。とても簡単なはずだった、、、」

「そして迎えた儀式の日に、俺は緊張のせいなのかいつものように飛べなかった。その結果、俺の長になる話は見送りになった。」

「その日から周りの目は変わってしまった。俺を絶賛していたみんなは俺を飛竜族の恥だと罵り、そしてすぐに儀式を成功させて長になるように言われた。」

「しかしなぜかその日から俺は飛ぼうとしても翼の動きが悪くてうまく飛べなくなっていった。」

「俺が飛ぶのが遅くなるにつれみんなからの見る目もどんどん厳しくなってきた。そんなある日ついに俺の翼が動かなくなった。」

「飛ぶことのできない飛竜などに我らと同じ飛竜の名をかたる権利があるわけないと。俺は里から追放された。」

「その後何とか飛べなくなった俺でも暮らしていける場所を求めてこんな辺境の村まで来たっていうのに、崖から落ちてこのざまだw」

「まったくなんとかわいそうな人生だ。本当なら歴代最強の竜になれていたのに。」

なるほどイップスみたいなやつか。要は気持ちの問題じゃないか。私と同じかと思ったことを後悔した。

「そんなことを言ったら私だって神の奴がいなかったら今も暴虐の魔女として君臨していたさ。私の方がかわいそうだ。」

こいつになら何を言ってもいいだろうと思って私も普段吐けない愚痴を吐いてみた。

「何!お前があの力と引き換えに不死になったと噂の魔女か?どうりで崖から落ちても死なないわけだ」

「あぁ。世間的にはそうなっているのか。実際は神に呪いをかけられたんだよ。」

「その不死の呪いに、ほぼ無限に等しかった私の魔力の大半が吸われ続けているせいで簡単な魔法しか使えなくなったんだ。ふざけた話だろw」

「おかげで私はこんな辺境の村でひっそり暮らすことしかできなくなったんだよ。」

自分で言っていて反吐が出そうだ愚痴も吐き終えたしとっととこいつとおさらばしようと思って後ろを振り返ると呼び止められた。

「なあお前。もし俺がお前のその神にかけられた呪いを解く方法を知っていると言ったらどうする。」

「どうすればいいんだ!早く教えろ!」

私はあまりに魅力的な話に心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

「まぁそんなに焦るなw交換条件だ。まず俺の体を治すことだ、そして魔力が戻ったらお前の魔法で俺を再び飛べるようにしろ。これが条件だ!」

私は笑みをこらえられなかった。あいつらにやっと復讐ができると考えるだけでも心が躍って仕方なかった。


「わかったよ竜。その話のってやる!」




 











  

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