主文・離婚

羽弦トリス

第1話高校の同級生

杉岡孝志は県立の進学校に在籍している、文系の生徒。3年生。

元々、理系を選択していたが警察官を目指し始めたので文転した。

彼は、バスで通学していた。

腕時計を見ると、午前7時20分。バス停に立つ。

英単語帳を自分で作成して、それをボソボソと呟く様に暗記するのが彼のスタイルだ。後ろから声を掛けられた。

「タカちゃん、おはよう」

振り向くと、小学生時代からの同級生寺田だった。

「あっ、寺田君、おはよう。今日も暑くなりそうだね。7時過ぎなのに、セミ鳴いてるし」

寺田は、マンガを手にしている。

そう、杉岡は大学進学を目指していたが、彼は実家の木材屋の後継ぎなので、高校を卒業したら、就職先は決定していた。


間もなく、バスが停車。

2人が乗り込むと、他の学校の連中も乗っているので、運転手の真横のスペースに立ち、学校を目指した。到着まで、杉岡は単語帳を、寺田はマンガを手にしていた。

学校に到着すると、杉岡は英語の小テストの復習をしていた。20点満点の些細な力試しだが、大学を目指す者はこの小テストにさえ、馬鹿に出来ない。


「あのぅ」

顔を上げると、同じクラスの女子だった。

彼女の名前は佐山みずほ。

「な、何?」

「杉岡君、今日、放課後話しがあるんだけど、図書館に行かない?」

みずほは、唐突に杉岡に告げる。

「図書館?いいよ。今日、この「梶原日記」を返しに行こうと思ってたから」

「じゃ、図書館で待ってるね」

「うん」


杉岡は、気にせず復習し始めたが、後ろからシャーペンの頭でツンツンされた。

振り向くと、悪友の米満だった。

「お前、今日、何すんだ?放課後。ナニすんだろ?」

「みっちゃん、変な事言うなよ。ただ、呼ばれただけ」

米満は、ニヤリと

「杉岡は、まだ、チェリーだからな。わかんないだろ?」

「何が?」

「多分、佐山はお前とエッチしたいんだよ!」

「馬鹿か、お前は!もう、人の邪魔すんな!」

福満は、クスクス笑いながら教科書を読んでいた。

杉岡は女子は無縁の3年間だった。今更、彼女が出来てもねぇ。と思った。その頃の受験のジンクスでは、「カップルの受験は、男が落ちる」と、言われていた。

でも、佐山のスタイルはクラスでも有名だった。頭も良い。

そんな女子が何の用があるのかと、期待と不安で、小テストは散々だった。


「杉岡〜〜っ!」

後ろから、聞き覚えのある声がした。振り向くと進学クラスのガン、和田だった。

「何だ、オレの名前を気安く呼ぶな!醜女!」

彼は苛立ちを隠せない。

「しこめ?……何それ?美味しいの?……そんな事より、私のみずほちゃんに手を出さないでよ!」

「出すか、そんなモン!」

「ついでに、これを図書館の返却棚に置いて」

和田は、「野球名鑑」を杉岡に手渡した。

悲しいかな、杉岡と和田はヤクルトのファンだったのだ。

土橋のファンでもあった。これで、年代がだいたい分かるだろう。

それと、バックのカフェオレを2本渡した。

「杉岡、みずほちゃんと飲んでね」

「……うん」


杉岡は弓道部のキャプテンだったが、6月の地区大会で引退した。

弓道は上半身が異常に鍛えられる。

彼の胸板は厚く、腹筋も割れていた。だが、それを女子に見せたことはない。夏のプールの時間はサボって世界史用語集を読んでいた。

最後の授業のチャイムが鳴る。ちょっと米満と喋った。

エッチな情報をホットに聞かされた。

米満はこれから、彼女の家で勉強してその後エッチをすると言った。

杉岡は、カフェオレを家庭科室の冷蔵庫から取り出し、図書館へ向かいながら色んな思考が錯誤する。

「雨は〜降る〜降る。人馬は濡れる。越すに〜越されぬ、田原坂〜」

そう、口ずさみながら、図書館の扉を開くと奥の机に、みずほは座っている。

そして、

「こっち、こっち」と、手を振る。

杉岡は黙って入室して、返却棚に和田の「野球名鑑」と「梶原日記」を戻してから、緊張しながら、みずほに近付く。

先ほどまでは、「田原坂」を吟じていたのに。

さて、どうなる?

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