異常者達の事件録

ヘイ

異常者達の集い

 

 昔から、僕は厄介な物を引きつける。

 そう言う体質“も”あったんだろう。

 

「あ、お前! 私のポッキー勝手に食ったでしょ!」

 

 厄介な人間、厄介な話、厄介な存在。

 そう言うのは求める求めないにも関わらず僕の近くにやって来る。僕が唯一尊敬してる名探偵先輩曰く「類は友を呼ぶってヤツだね」との事。

 それを聞いた僕は正直『ああ、この人も確かに同類だったな』と思った。尊敬こそしてるが厄介な人だとは思う。

 尊敬こそしてるが。

 

「おーい、喧嘩はするなよ」

 

 僕が適当に注意の言葉を吐くものの口論は熱を増していく。

 

「……折角、あの人に渡された事件の依頼持ってきたってのに」

 

 僕は持っていた封筒をテーブルに置こうとして、机が吹っ飛んだ。

 

「ってぇ……ポッキーくらいで大袈裟だろ!」

「うるせぇ……その言葉が出てきた時点で手前が犯人てのは確定したんだ。大人しく死ね。いつも死んでんだ、一回も二回も同じだろ」

「や、止めろ! アレは臨死だ! ガチで死んでんじゃねぇ!」

 

 傷害事件に発展しそうな、いや既に傷害事件は起きてる様な。

 

なぎさちゃーん、そこそこで済ませときなよ? 殺人事件なったら流石に困るからさ」

 

 僕の注意は届いてるのか、汀ちゃん──潮風しおかぜ汀──はジリジリと男、レオンとの距離を詰める。

 

「ちょ! 居たなら止めろ、渡会わたらい!」

 

 レオンの助けを求める声に「おーい、汀ちゃん。そこまでだ」と肩を抑えて止める。

 

「大体学習しなよ、レオン。お前は何回汀ちゃんのお菓子食って殺されかけてる」

 

 僕は左手に持っていたレジ袋からポッキーを取り出して汀ちゃんに渡す。

 

「そろそろお菓子の買い溜めなくなる頃だと思ってね。命拾いしたね、レオン」

 

 タイミングが良かった。

 顔を綻ばせた汀ちゃんは吹っ飛ばしたテーブルを元に戻してポッキーをポリポリと食べ始めていた。

 

「そうそう、それより仕事だよ二人とも」

 

 僕は封筒を漸くテーブルに上に置いて話し始める。

 

「────名探偵諸刃もろは柊一しゅういち大先輩からの直々の依頼だ」

 

 僕の言葉を聞いた瞬間にレオンは顔を顰めた。汀ちゃんもピクリと眉を動かす。

 

「あの人め……解決できるなら自分で解決しろ! どーせ、犯人は分かってて最後に『解決おめでとう』だけ言いに来るんだろ!」

「おお、レオン。お前も分かってるね」

 

 柊一さんは本気でそう言うことをする。僕たち相手には平然と。ただ、それもこれも犯人を当てれど柊一さんが犯人相手に対抗する術を持たないからだ。

 だから、異常を扱う僕たちを利用してる。

 

「でも、それは無理だ。レオンもわかるだろ? あの人は異常に推察力が高いけど一般人だよ」

 

 だから普通に死ぬ。

 いや、それは僕もレオンも汀ちゃんも変わらない。ちょっと変なところがあるだけでそれ以外は普通の人間だ。

 

「……えーと、じゃ今回の依頼なんだけど」

 

 僕は封筒の中身を開いて読み始める。

 

「『これを読んでる頃、わたしは死んでいると思う……なんて冗談、サ。まあ、ともかく。まだ室長の渡会わたらいくんにも話してない……というのもわたしがこの事件に噛んでるとバレると消される可能性が高いからね。ので、これは内密にお願いしたい』」

 

 僕は手紙に書かれたままの内容を読み上げる。何だかレオンがイライラしてるのか貧乏揺すりが止まらない。

 

「『ここ最近、暗器が出回ってる。呼称は恐らく、ガイスト。ヤクザ周りだけじゃなくて、一般人にも。その解決をしたかったんだけど……ちょっとわたしが入るのは怖いからね。君たちにお願いする事にした。この手紙は読み終わったら燃やしてくれ。シュレッダーよりもその方が確実だ。事件捜査は呉々も気をつけてくれ』……だって」

 

 僕は指示通りに手紙を燃やす。

 

「ははぁ、暗器ね。ならオレの出る幕はねぇなぁ。あー、残念だ、残念でならない」

 

 レオンは荒事には向かない。汀ちゃんも。というか、僕がギリギリだ。汀ちゃんの開発した防具と僕の異常性を利用して何とかだ。

 

「……楊華ヤン・ホァ呼ぶか」

 

 戦力は必要になるかもしれない。

 

「絶対止めろ! アイツだけはナシだ!」

 

 僕の提案が即座にレオンによって却下された。珍しく汀ちゃんもレオンに同意してるのか激しく頷いてる。

 

「……アレでもウチの戦力なんだぞ」

 

 僕としても滅多なことではヤンを呼ぶつもりはない。アレのお陰で、と言う事もあるけど、アレのせいでと言うのも少なくないから。

 

「そのまんまの意味すぎるんだよ! なんだ戦力って! アイツだけ本気の兵力なんだよ!」

「そう! それに私の発明品破壊しまくるから絶対に無理!」

 

 前科多すぎないかな、アイツ。

 

「ヤバそうだったら僕が何とかするよ。それに汀ちゃんの発明道具に電気流すのなかったっけ?」

 

 僕の言葉に汀ちゃんは何やら思い出したのか笑い出した。

 

「ふふ、ふふふ! ああ! あるさ、あるとも! 忘れてたね!」

 

 それもこれもヤンが暫く来ていなかったからだろう。あの緊急停止装置(ヤン暴走防止用)も役目がなかったわけだ。だから開発者の汀ちゃんも記憶の遠くにすっ飛ばしてた。

 覚えてたくなかったんだろう。

 

「ガハハ! 前のよりも威力を二十倍に引き上げたんだ! これならあのクソ野郎も天国逝きだわ!」

 

 聞くだけでとんでもないけど、多分ヤンは死なない。基本的に殺せないと思う。気絶してくれたら御の字だ。

 

「なら問題なさそうだね。じゃ、呼ぶよ」

「それとこれとは違うだろ!」

 

 レオンの声は無視する。

 正気じゃない汀ちゃんも了承したんだ。多数決の原理でヤンを呼ぶ事は決定した。

 

「────よォ、久しぶりだな。廃業したモンだとばかり思ってたぜ」

 

 中華服を着た鋭い目つきの男が入って来る。

 

「してねぇよ」

 

 レオンが彼の言葉を否定する。

 

「で、渡会先生。自分を呼んだのは」

 

 レオンに向けてた目を直ぐに外して、僕の方を真っ直ぐと。

 

「仕事だよ。早速で悪いんだけど、ヤン……これを身につけてくれないかな」

 

 汀ちゃんがヤンにギプスの様な物を手渡す。

 

「…………ああ、良いぜ」

 

 一瞬の間はあったが返答は快い物だった。

 

「何たって渡会先生のお願いだしな」

 

 なんだかんだ言ってヤンは僕の言葉を聞いてくれる。なぜかと聞いても一辺倒。さっきみたいに僕のお願いだから、との事だ。

 

「捜査は明日から。僕が何かを予見してからになる」

 

 それで良いよね、と確認を取れば異論はない。

 

「じゃ、いつもと同じって事だ」

 

 汀ちゃんの言う通りだ。

 いつもと同じ。

 

「今日はひとまず解散ね。ほら、解散解散」

 

 レオンと汀ちゃんは直ぐに部屋を出ていくが、ヤンは出ていく気配がない。

 

ヤン?」

「自分は仕事内容聞いてないんだけどな」

「あー……ま、簡単に」

 

 僕は柊一さんからの依頼の内容を話す。

 

「…………」

 

 ヤンは瞠目する。そして直ぐに目を細めニヤリと口元を歪めた。

 

「ガイスト、か。最近のはアレか」

 

 何かしらの覚えがあるのか。

 ヤンは立ち上がり、扉の方に向かう。

 

「……他に聞きたい事は?」

「いいや、特にはないぜ。ありがとな、渡会先生」

 

 そう言って帰っていってしまった。

 

「何を感謝されてんだ、僕は」

 

 まあ、別に気にする事はないか。

 僕も、彼も、他の彼らも。全員厄介極まりない異常者だ。よく分からないなんてのはよくある事。

 だから気にしなくて良い。

 一方的なのも、そう。

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