第63話 キヌ魔王様、破壊された人間国の視察に行く。

その頃アタシは人間国の王都へと到着していた。

前もって『視察に行く』と一方的に連絡していたので、今頃大慌てだろう。

付き添いには前もって決まっていたトッシュタリスと、急遽やってきたドワーフ王だ。



『人間王国に行くだと!? 余りにも危険だ!! 俺も行く!! そう思って急いでやってきたのだ!!』



と血相を変えてやってきたドワーフ王には苦笑いしか出なかったが、ハイエーナのキャンピングカーを見て驚きつつ、更にトリスが運転して走るもんだから更に驚き、アタシ達は酒を、トッシュはジュースを飲みながら、酒のつまみとお菓子も出して移動していた訳だ。


そして到着した王国では街並みを徒歩で進み、住民たちが悲鳴を上げて家の中に消えていくのを見ながら城に到着。



「へぇ……中々趣のある城だね」

「でも僕たちが来て静まり返っちゃいましたね」

「スタンピードの後に魔族側が来たのだ。隠れもするだろう」



そう語っていると怯える城門を守る兵士に開けるよう指示をし、「通達は行っているだろう?」と言葉にすれば頷きつつドアを開けた。

すると一人の老人が待機しており、謁見の間へと通される。


アタシは顔をヴェールで隠し、黒のロングマントに、黒の上着。黒のピッチリパンツルック。無論ヒールの高い艶めく靴を履いている。

大粒の紫のアメジスト宝石の付いた服装で向かった。

杖は必要なかったが、見た目が大事と言う事でドワーフ王が作らせたという一級品の長杖を持っている。

疲労回復効果が付与されているらしく、アタシの常時若返りを助けてくれる為有難いねぇ。


謁見の間が開き、青白い顔で待っていたのは玉座に座る人間国の屑でなんでも後手に回した愚王と、その息子の王太子がこちらを睨んでいる。



「この忙しい時期に何用だ」

「おやおや、視察に来たというのにツレナイ言い草だねぇ?」

「敵側のお前たちが視察だぁ? 貴様たちがスタンピードを引き起こしたんだろう!!」



そう声を荒げる王太子にアタシは溜息を吐くと――。



「酷い言いがかりだねぇ? アタシはダンジョンしか作っちゃいないよ? そう、金を持つ奴らからしたらまさに理想郷のダンジョンしかねぇ?」

「そのダンジョンの所為で冒険者たちは、」

「連絡してたんだろう? 冒険者達に通達してたんだろう?」

「そ、そうだ!!」

「なら、批難すべきは冒険者達であって、アタシではないだろう?」

「なっ!!」



何も悪いことはしていない。

ただダンジョンに来た冒険者達が使い物にならないように仕向けただけ。

たったそれだけの事なのに、全責任がアタシにあるとは言って欲しくないもんだね。



「そもそも、国を挙げてダンジョンを破壊せよ……と言う命令を冒険者に出したのは何処のどいつさ」

「「!!」」

「可笑しいねぇ? アタシはそんな事一言も言ってやしないけど?」

「非はこちらにある……と言いたいのか?」

「そりゃそうだろう。アタシはダンジョンを作っていただけに過ぎないからね」



そう鼻で笑うと国王と王太子は怒りの形相でこちらを見てくるが知ったこっちゃない。アタシはダンジョンを作った。そこに人間国が冒険者に破壊措置命令を出した。

多くの冒険者はやってきたが、皆ダンジョンの虜になった。

ただそれだけだろう?


そう悪びる様子もなく淡々と事実を述べると、人間国の王は溜息を吐き……「我々の負けだ」と口にした。

それはまさに、人間国が白旗を上げたも同じこと。

しかし、アタシの【悪意察知】と【危険察知】が反応し、兵士が流れ込んでくると――どうやらタダで帰すつもりはないらしい。



「おやおや、降参しといて殺そうって魂胆かい?」

「そうだとも、全ての元凶である魔王さえ居なくなれば、また復興できる! 人間国をこのまま亡ぼされてたまるか!!」

「だから言ったのだ! 人間国等に来てタダで帰れるとは思うなと!」

「魔王様~。この人たち殺しちゃっていいんですかー?」

「何を呑気な事を!!」



慌てるドワーフ王も剣を抜いたが、アタシとトッシュはシュッと銃を手にし、さてさて……とトッシュとアタシの頭の上にいるタリスとトリスに命令する。



「数が多いねぇ。タリス、トリス、ちょっと数を減らしておくれ」



そう言った途端、二匹の【叩き潰し】がさく裂し、多くの兵士が一斉に押しつぶされて血だまりが出来た。

此れには悲鳴を上げる騎士にアタシとトッシュが銃を構えて数人を殺す。

それでも錯乱してやってきた騎士をドワーフ王が倒し、生き残った者たちは一斉にアタシとトッシュとで撃ち殺し、ドワーフ王はその手際の良さに呆然としながら「強さも一級品であったか!!」と興奮している。


たった5分で片が付き、ヒールを鳴らして人間国の王に一発発砲すると、王冠が吹き飛んでカラカラと音を立てて転がり、お漏らしをしながら悲鳴を上げている。



「熱烈な歓迎だったね。タダで帰さないってことは良く分かったよ」

「おのれ魔王!! どこまでも邪悪なる者よ!!」

「おやおや、そのどこまでも邪悪なる者のダンジョンにきて、キヌマートで食事を買い込んでいたのは、どこの国の馬鹿な国王たちだったかね?」

「「!!」」



そう鼻で笑ってやると、顔を真っ赤にさせている。羞恥心から来るものかねぇ? それとも怒りから来るものかねぇ? どっちにしても、碌な事じゃない。



「こ奴らはそんな事をコソコソしていたのか?」

「ああ、恥ずかしいったらないねぇ」

「コッソリと言うのがまたダサいです」

「う、煩い!! そうだ魔王よ! キヌマートを人間の国にも出せば今回のスタンピード許さなくもない!!」

「は? スタンピードが起きたのがまだアタシの所為って言いたいのかい? それこそ言い掛かりだね。キヌマートは人間の国には出さない。同盟国ならまだしもね」

「ど、同盟国だと!?」

「だが、アンタ達は天使族と同盟国だ。キヌマートは出せないねぇ?」



そうクスクスと笑いつつ口にすると、「それならば!!」と唾を飛ばしながら叫んだ。

それより着替えてきた方がいい気がしたが、まぁ話位は聞こうか。



「我が兵士がキヌマートにて買い物をするくらいは、」

「嫌なこった。いくら金を積まれてもアンタ達に売る気は無いよ」

「ど、どうすればキヌマートの商品を買わせて貰えるのだ!!」

「属国になれば考えてやってもいいけどねぇ?」

「属国だと!?」

「あはははは! 無理な話だろうけどねぇ!!」



そう笑い飛ばすと人間国の王は力なく玉座に座り、両手で顔を覆い絶望している様だ。

いい様だね。少しは留飲も下がるって奴だよ。



「とりあえず、変な言い掛かりは止めとくれ。人間国の王命を聞かなかったのは冒険者達であって、アタシはただダンジョン経営をしていただけ。文句があるなら命令を無視した冒険者に言っとくれ」

「く……」

「さて、視察も終わったし帰ろうかねぇ。これ以上ここにいても意味はない」

「襲われもしますしね」

「何故魔王と君はそこまで冷静でいられるんだ……」



そうドワーフ王に呆れられながらも、アタシ達は血の海だけが残った道を歩き、謁見の間を後にしようとしたが――。



「ああ、言い忘れてたよ。和平交渉には参加しないし和平交渉をするつもりはない。覚えておくことだね」

「な……」

「魔王を殺そうとする国と、前魔王を殺した国と和平交渉なんてする筈ないだろう? お前たち本当に馬鹿で屑だね」



そう言い捨てるとアタシ達は外に出てキャンピングカーを出し、そこから魔王城へと戻ることになった。

突然キャンピングカーも消えたもんで門番たちは慌てふためいているだろうが知った事じゃない。



「さて、人間国との和平交渉にはしないと伝えたんだ。これであちらさんとはバッサリと縁が切れた訳だが――」

「国力が戻れば兵士を連れてダンジョンに来るぞ」

「迎え撃ってやろうじゃないか! どの道このダンジョンは魔王城ポイントを上げないと魔王城にはこれないがねぇ! あはははははは!!」



そう笑い飛ばしているその頃、人間国では――。




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