第60話  悠長に構えていた結果の身から出た錆……ついにスタンピードが起きる①

カナデの持つ鏡で王国の連中を見ていたが、中々面白い事になっているねぇ?

精鋭部隊は魔王ダンジョンで陥落済み。

王国への忠誠心は綺麗に消え去ったみたいだね。

ヒヒヒ、いい様だよ。



「だが、悠長にアタシ達に構っていたツケがきたようだねぇ?」

「全くですね。他の町や街、村では魔物の被害が甚大です。兵士を送り込んでも被害を受けた後……そこからどう復興していくというのでしょうね」

「まだスタンピードが起きていないだけ救いだわ」

「でも、そのスタンピードが起きそうな地域がありますのよね?」

「ああ、中級クラスのダンジョンだが、そこがそろそろスタンピードが起きそうで冒険者ギルドが慌てているねぇ。国に書状を出しても返事がないと慌てていたのを見たよ」

「一つの街が魔物に呑まれるのも時間の問題か」

「全く、悠長に構えているからだよ。危機感が足りないんじゃないのかい?」



そう呆れた様子で口にすると、カナデはクスクスと笑いながら「あちらの世界でも曾婆様はテレビに向かって言ってましたね」と笑い、アタシはムスッとした顔をして「実際役に立たない野郎どもが多いだろうが」と反論した。



「上に立つ者は判断力、決断力、統制力が求められるんだよ。それができないなら責任取って辞めちまいな!!」

「金を沢山貰って責任取って辞めるクソの方があちらでは多かったと思いますが」

「あの世で地獄に堕ちればいいさ。こちらだと何に堕ちるのだろうねぇ」

「悪いことをした人間は魔物に堕ちると言われていますわ」

「それじゃあ、スタンピードも自分たち人間の所為じゃないか。ヒヒ! 元人間が人間の国を亡ぼすなんて最高だね!」



そういって扇をパチン! と閉じると、ドアが開きモーダンが入ってきた。

どうやら報告することがあるらしく「話を聞こう」と告げると、勇者と魔法使いが第三層に行きついたという報告だった。



「随分と時間は掛ったが、やっと第三層かい」

「お香に脳がやられるといいですわ」

「でも、勇者の力でそのお香が効かない……なんてことは無いでしょうか?」

「……可能性はあるねぇ」

「可笑しくなっているかどうかは、俺が確認してきましょう」

「頼んだよ」



そういうとカナデは一礼して第三層へと出掛けて行った。

その様子を見るべく鏡を使い女三人で様子を見ることになったのだが、第三層はお気に入りのサキュバスやインキュバスに彼是貢ごうとする連中で溢れていて、その中に勇者が呆然と立っているのを見つける事が出来た。

お香には――反応がないように見えるねぇ。流石勇者と言ったところかね。



『ここが待ちに待った三層……』

『カナデくんとキヌさんを見つけないとね!!』

『ミツリもいるなら探さねぇと……今更ミツリをどうこうしようという気はサラサラねぇが、キヌ様について知っていることがあれば聞きてぇからな!!』



ヤダねぇ。

こんなガキに好かれても嬉しくもなんともないよ。

だが、ステータスを見るに香が全く聞いていないという事はなさそうで、徐々に中毒性には掛かりつつあるようだ。

それでも他の冒険者と比べるとかなり遅い。

するとカナデがルルとハデリスを連れて歩いている所を見つけた勇者たちは一斉に走り出しカナデを捕まえたようだ。



『カナデ!! 俺達はついに三層についたぞ!! 二層と三層にはキヌ様が良く訪れると聞いた! 今どちらにおられる!!』

『キヌ様でしたら、魔王様に呼ばれて魔王城にいらっしゃいますよ』」

『くそ、今日も会えないのか……っ!』

『と、言うよりせっかく第三層に来たのに大好きな娼館にもいかないなんて……下半身死にましたか?』

『う、うるせぇ!! 今禊をしてるところなんだよ!!』

『え! そうだったの!?』

『俺は女絶ちをする!! 願掛けだ! キヌ様の傍に行くにはそれくらいしか思いつかねぇ!! 王国がどうとか知った事か!! 俺は愛に生きる!!』

『気持ち悪いですねぇ……』

『な、なんだとおお!!!!』



まぁ、カナデが気持ち悪がる気持ちはわかる。

アタシも若干引いた。

勝手に愛に生きて貰っても困るんだけどねぇ……サキュバス嬢は沢山いるんだから、そっちに行ってくれないかねぇ。



『いい事をお教えしましょう。キヌ様は未亡人ではあらせられますが、亡くなった旦那様をそれはとても愛しておられます。貴方が入る隙はありませんよ』



あの子、何を言ってるんだい。

アタシが爺様一筋……なのは義理を通すためだよ!!



『なっ! キヌ様は結婚しておられたのか……しかも未亡人……。どれほどお辛かっただろうか……』

『そ、そんな事より! カナデ君、私って必要じゃない? きっとミツリもカナデ君の近くにいるんでしょ? 私もカナデ君の近くにいたいなーって……ダメ?』

『やめてください気持ち悪い』

『気持ち悪い……?』

『あなたの様な腐った女性こっちから願い下げですよ。好きに生きて好きに死んでください』



そこまでハッキリ言われるとは思わなかったのだろう、ユキコとかいう名前の魔法使いは目を見開いて『え、え??』とショックを受けている様だ。

まぁ、確かに【ギャンブル中毒症】の嫁なんていらないよねぇ。



『それに、お二人ともギャンブル中毒症でしょう? キヌ様も俺もそのタイプは大嫌いなんですよ』

『なっ!!』

『何で知ってるの!?』

『真っ当に生きている人が好きなんですよ。俺もキヌ様も。染まってしまっている人はダメなんですよね』



思わぬ言葉だったのだろうか?

2人は呆然として立ち尽くしており、『マジかよ』と小さく呟いていた。

どう足掻いても自分たちではアタシの近く、カナデの近くには来れないと悟ったんだろうねぇ。

ご愁傷様って奴だね、ヒヒヒ。



『俺達じゃ、キヌマートの面々に近寄れねぇって言いたいのかよ……』

『そ、そうよ!! ここに来るのにどれだけ頑張ったと思ってるの!?』

『あなた方は人間国の国王に言われてダンジョンの破壊命令が出ている筈では?』

『人間の国何て知った事かよ!!』

『そうよ!! 邪魔者扱いしてすぐ追い出されたんだから!!』

『なら、何故日本に帰らなかったんです?』



真っ当な質問だね。

実際日本に帰っていれば済むだけの話なのに、何時までも居座ったのが悪い。

その結果がこの様だよ。

さてさて、なんて答える気かね?



『それは……』

『日本に帰っていれば、元の当たり前の生活に戻れていたのではないんですか?』

『それはそうなんだけど……』

『何か深い理由がおありで? 邪魔者扱いされても居たくなるような何かがあったのでしょうか?』



そう言われると二人は口を閉ざし、カナデは溜息を吐くと最後にこう締めくくった。



『悪いことは言いません。王国に戻って死にたくなければ、日本に帰りなさい。方法はあります。決心したらお声かけを』

『は? なんで王国に帰ったら死ぬんだよ』

『そうよ、私たちこれでも』

『殺されますよ。忠告はしましたからね』

『ど、どういう事だよ!!』

『カナデ君待って!!』



それだけ言うとカナデは踵を返して歩きだす。

勇者と魔法使いは追いかけようとしたけれど、ルル達が許す筈もなく――カナデは魔王城に瞬間移動してきた。



「全く、呑気なものですね」

「本当にねぇ……」

「勇者達って馬鹿なのかしら? 国庫を食いつぶした勇者なんて何の役に立つのよ」

「分からないからあの二人なのよ……。先の事まで考えてないの」

「さて、勇者討伐が始まったら事ですよ。どうなさいます曾婆様」

「暫く静観するさね。楽しみじゃないか」



そうクスクス笑うと「曾婆様も人が悪い」と呆れたように笑われたけれど、実際どうなるのかは今後次第。

さぁ、人間国が軋みを上げ始めた様だね。

崩壊する様をじっと見てみようかね……ヒヒヒヒ。




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