第33話 冒険者と言う名の金蔓たち

冒険者たちの多くはギルの町から来ていたのか、次から次にコンビニに吸い込まれては食事を摂ってから周辺のチェックに行っているが、中は食べ物屋と洋服店に巨大ゲーセンに巨大なあれな店だ。

カジノと言うにはこちらの世界では難しいかもしれないが、さっそくその魔力にやられている冒険者は数多い。

コインの枚数なだけ、玉の多さなだけ金が貰えるともなれば必死に金を貢ぐだろうが、一部にしかそれは発動しておらず、殆どは吸い上げ状態だ。

寧ろ支払ったところでプラスでしかない。

無論閉店時間も設けているので一日中と言う訳には行かないのだ。

こっちもね、魔人や魔族が仕事をしてくれているとはいえ、睡眠時間や休息は大事だからねぇ。



「おやおや、スロットとあそこは満員になりそうな勢いだね」

「ダンジョンを作り変えますか?」

「閉店してからでいいだろう。アタシ達はあくまで一般人に紛れ込んだ【不可思議な店・キヌマート】の店員だ」

「それもそうですね」

「キヌマートの羽織を羽織っていればアタシ達が歩いていても文句は出ない。だろう?」

「ええ」



そういってカナデの部屋で満足げに微笑んでいると、ピアとミツリが部屋に入ってきた。

二人も気になっているのだろう。

そういえばトッシュを見ないがトッシュはどこにいったんだろうね。



「おや、トッシュはどこに行ったんだい?」

「美味しい野菜やお肉が欲しいとかで、五層のスーパーマーケットにいってますわ。フォルさんに持っていくのだとかで」

「なるほど、同じ獣人としても美味しいものは食べて欲しいだろうからねぇ」

「フォルさんも話し相手が出来て嬉しいと思います」



確かにフォルもトッシュのような同じ同胞と話が出来るのは嬉しいだろう。

問題はトッシュが獣人王の隠し子と言う事だが。

獣人は王となる子が生まれた場合、正妃であろうと側妃がいようと子が出来ない。

トッシュはまさに、次なる王となる器があった。

もっとも、神格のある者との間に出来た子供の場合、有無を言わさず次の王となるのだが、トッシュの母親は神格のあるものだったのだろう。


神格持ちから生まれた子を殺せば国が傾く。

故に奴隷に落とされたか……ダンジョンで事故死んでくれればラッキーくらいだったんだろうね。

ヒヒヒ、そう人生上手くいかないものだよ。


そもそも、奴隷の首輪も持ち主が生き返るまでの5分の間は持ち主なしとなるのだ。

その間に外しちまえば問題はない。

外せるのは聖なる力を持つフォルのような存在か、アタシのような別の意味での人間かの違いさね。



「それよりアンタ達は何用でカナデの部屋に?」

「わたくしは次期魔王であるカナデ様に会いに来ただけですわ」

「わたしは……あの鏡で勇者の動向を見せて貰おうかと」

「ああ、それはありますね。調べてみましょう」



そういうと鞄から鏡を取り出すと勇者を映すように口にし、次第にぼんやりとし始めてから勇者たちが映し出された。

すると――。



『へ? 俺とミツリの婚姻が破棄されてる?』

『ど、どどど、どういう事?』



どうやら城にいるようだね。

神官らしき人物が立っていることから、ミツリとの婚姻が解消されたことを伝えられているようだ。



『勇者様、何故ここにミツリ殿がいらっしゃらないのです? まさか置き去りにしたんですか?』

『それは、待ち合わせになってもこねぇから仕方なく』

『探されたんですよね?』

『それは――……』

『神格の高い者によって婚姻が破棄されています。もう二度とミツリ様との婚姻はされませんよ』



思わぬ言葉だったのかね?

勇者は『まだ食ってもねぇのに!?』と言ってる当たり、ゾッとするね。



『勇者一行からも神力で消されています。ミツリ様はただのミツリになってこの世界で生活をしているのでしょう』

『あの糞アマ――!!』

『回復役がいなかったらどうやって冒険しろっていうのよ!!』

『黙れ!! 全ては貴様の巻いた種であろう!!』



そう一括したのはどうやら国王のようだね。

なるほど、胡散臭い野郎だ。嘘で塗り固めた人生っていうのがピッタリくる顔だね。



『それより、魔王領にダンジョンが突如として現れたと連絡が来ている。各所の冒険者たちは既に魔王領のダンジョン破壊に向かった後だ! お前たちも直ちに出立せよ!』

『待て待て、魔王は確かに殺しただろう!?』

『第二の魔王が生まれた可能性が高い。勇者とは魔王を倒してこそだろう。魔王を倒すまで帰ってくることは許さん!!』

『ッチ!!』

『回復役もいないのに……』

『それと行く先々でミツリを探してこい。異世界人と言うだけで価値があるからな』



その言葉にミツリが両手を強く握りしめて顔色を青くしている。

一体価値いうのは、どういう価値をいうのかねぇ……胸糞悪いったらないね。

勇者は俄然やる気を出しているが、あれは下半身的にやる気を出しているだけだろうし、魔法使いは呆れて『しょうがないかー』と言ってる当たり、ミツリに対して悪いとも一切思っていないらしい。

反省の色もないところを見ると、前もって勇者パーティはこのダンジョンには入れない設定にしておいて良かったね。



『しゃーない、しょうがない! ミツリ見つけつつ魔王領のダンジョンに乗り込むかー』

『でも目星くらいないと見つけようがないわよ』

『ミツリ様なら、どういう訳か魔王領にあるダンジョンにいらっしゃいます』

『はあああ!?』



何故そんな事がバレた? と思っているとミツリから「私の持ち物から調べたんだと思います」との事で納得。ストーキング魔法は禁止されている筈なんだがね……。

この国ではなんでもありのようだ。

だからこそ、前魔王も不意打ちなんてやり方で殺されたんだろうしね。



『なら行く場所はきまったな!!』

『ここから随分と遠いわよ……』

『歩くのダリィし、乗合馬車使っていこうぜ』

『それもそうね』



こうして勇者たちは乗合馬車を乗り継いで魔王領に来るらしい。

と言っても乗合馬車を使ったところで早くて半月強、普通で一か月だ。

そう焦らなくて良さそうだね。



「早くて半月は余裕がありますね」

「ヒヒヒ、その間はしっかりとこのダンジョンの神髄を見させて貰おうかね。まずは全員が寝静まってからカジノのスロットなんかも大きく二つ三つ分増やそうか」

「そうですね」



こうして鏡を消すとアタシ達は閉店の音楽が流れ始めた一階に向かいながら、多くの冒険者たちが第二層に移動する中、人がいなくなったのを確認してスロット台などをさらに増やし、楽しい金稼ぎの時間を過ごすことになる。


無論一日の売り上げは相当なもので、ドラゴン族が目をキラキラさせて金貨の山に生唾を飲み込んでたのは言う迄もないね!




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