第10話 隠し扉の中にいたレジェンドスライム

冒険者から奪った物を整理していた時、小さな小箱を見つけた。

結婚指輪でも入ってそうな、高そうな箱をカパッと開けてみてガックリ。



「コイツは一体なんの種だい?」

「「種?」」



そう言ってアタシが持ってる箱を見てアタシも【鑑定】を使うと、【運の良さ+1アップさせるスキルアップの種】と書いてあった。

へぇ。スキルアップの種なんてあるんだね。どこぞのRPGみたいだよ。

そう言えば孫の誰かが昔、最終的にイベントで死ぬと分っていたのにステータスアップをドンドン入れ込んで「きっとこれで死なない筈」とか言ってたけど、結局嬌声イベントの前では、スキルアップの種や強い武器防具は関係ないのだと思い知らされて泣いてたっけ。



「これは相当凄いものですよ!」

「そうなのかい!?」

「売ると高い!?」

「運が高い人がこれを使うと、その人が倒した時に敵のスキルを一つ下げる事が出来るんです。本当に極めて珍しい事です。このアイテムは冒険者の誰かの運を一つ下げた証ですね。ちなみに売る事は出来ません」

「使うしかないかい?」



そうアタシが問い掛けてみると、トッシュは暫く考え込んでから「これは極めてレアなアイテムとして、取っておきましょう」と真剣な表情で言ってきた。

鬼気迫る勢いにアタシはアイテムボックスに突っ込んだが、それほど珍しい事があるんだねぇ。


後のアイテムはまぁ似たり寄ったり。

レベルも上がった事だし明日からは中層にて冒険者を狩る事になったんだけどねぇ……。



「隠し部屋が中層入り口の近くにあるねぇ」

「そうですわねぇ」

「中層に挑む人がいない間を狙うしかないのではないかしら?」

「そうだね、早朝なら行けるだろうしいってみるかい?」



こうして今日は早めに休む事になり、翌朝早めに中層に向かう入り口付近へと向かう。

まだ冒険者たちは寝ているか、朝餉の準備に追われているポーターの姿があったが、中層入り口には誰も居ない。



「トラップはないね」

「本当にスルーされてきただですのね」

「皆中層に急ぎますから」

「この苔の間が怪しいんだが……硬いね」

「僕が押します」



そう言って歯を食いしばってグググッと窪みを押せばドアが開き、アタシ達は中へと入った。するとそこには一匹のベビースライム。



「ん? 財宝ってのは、ベビースライムかい?」

「ピイ?」



鑑定してみると【レジェンドスライム】と書いてあって、どうやら伝説のスライムらしい。

スライムはアタシ達の方にピョンピョンと近づいてくると、胸を張っているかのように「凄いだろう」とでも言いたげだ。

だが言葉が通じない、何せ相手はスライムだからねぇ……。



「そう言えばトッシュはテイムで来たね」

「はい」

「テイムできるかどうか試してごらん」

「え、でもレジェンドですよ?」

「ダメ元さ、アンタの運の良さに期待するよ」



そう言って親指を出すとトッシュは困惑しながら手を翳し「テイム」と口にする。

途端大きな魔法陣が現れゴオオオ!! と言う音と共に『我、トッシュタリスと契約する者成り!』と声が響いて魔法陣は消えて行った。

どうやらテイムは成功したらしい。



「我、トッシュタリスと契約する者成り」

「堅苦しい喋り方するスライムだねぇ。しかも声が渋い」

「もっと可愛らしい声と思ってましたわ。名前を付けて差し上げたら?」

「そうですね……スライムって性別あるんでしょうか?」

「性別はないんじゃないかねぇ?」



スライムに関しては謎が多いが弱いとされている。

テイムしている冒険者も少なく、基本的にスライムをテイムするなんて奴は早々居ない。



「僕はトッシュと呼ばれてますし、この子は【タリス】にします」

「我、タリス成り。契約者トッシュタリスよ、良くぞ我をテイムした」

「あ、はい、えっと」

「良い加減暇だったのだ。宝部屋だと思って開けたらスライムがいるだけ……と言うこの空間……。幾人の冒険者が溜息を吐いて武器を抜いた事か。その度に倒して奴等から色々な物を奪い取った。こちらに来るといい。我が主とその仲間たちに授けよう」



そう言うとタリスは隠し扉の先にある扉の中に入って行き、中を見ると確かにお宝の部屋と言うべきか、ガラクタの部屋と言うべきか。

ん? 何か異様にキラキラした装備があるし金もタンマリ入っているが、コイツは?



「これは?」

「勇者が訪れた際ボコボコにしたら手に入った。勇者はレベルこそ高いがデバフが酷すぎて倒すのも楽勝だった」

「デバフでやられた勇者に曽お爺様は不意打ちのような倒され方をしたのですね……」

「まともに戦っていたら勝てたかもしれないねぇ」



勇者にデバフがタンマリついているというのなら、倒すのも容易いかも知れないねぇ?

経験値も美味そうだし金も良さそうだ。

それに、勇者を倒した際に出て来たというこれらのレアアイテムらしき道具や金貨はかなり魅力的ではある……。

すると――。



「時に魔王よ。そなたに血族がいるだろう」

「ん?」

「魔王と同じ血を持つ者――。その者が勇者によって奴隷に落とされポーターとして働かされている」

「……行方不明の曾孫がいるが、黒髪に眼鏡をしていなかったかい?」

「していた」

「まぁ!! 魔王様の血族を奴隷に!? 許せませんわ!!」

「奴らの狙いは我が奪い取ったこれらを奪い返す事だろう。その為に向かっている」

「なら、此処にある財宝は全て貰って行くよ」



そう言うとこの部屋一杯にあったガラクタも含めアイテムボックスに投げ込んでいき、トッシュもピアも手伝って分担しながらアイテムボックスに投げ込んで綺麗にした。

後でするアイテム整理が大変そうだが致し方ない。

それに有益な事も聞けた。

行方不明になって一年もする曾孫――『奏』がこの世界にいるという事だ。

しかも勇者の奴隷? いいねぇ……勇者をぶっ殺したくなったよ。



「しかし勇者は何を取りに来ようとしたのかね」

「己の力を過信し、今まで勝てなかった魔物を倒そうという事だろう。だが、我を倒そうとやってくる勇者の前に、ダンジョンが消えていたら面白そうだとは思わんか?」

「……勇者が来た頃には、肝心のダンジョンがない……。いいねぇ!! やっちまおうか!!」

「よ、宜しいんですの!?」



慌てるピアにアタシは笑いながら「無論レベルを上げてからだよ!」と笑うと、タリスは更にここのダンジョンコアを守る魔物はレベル50台だと教えて貰い、それなら後もう少し上げてから倒すのもアリだと話し合った。



「それでタリス、アンタも無論戦うんだろうね」

「我、可愛いだけの生き物ではなし」

「そうかい、期待してるよ」



こうしてアタシ達はその足で上層を後にし、中層へと入って行った。

その頃冒険者の間では――。


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