前のエピソード――第41話　風鈴の贈り物

秋が深まり、温泉宿の周囲の森は鮮やかな紅葉に染まっていた。しかし、ある夕方、突如として強い嵐が宿を襲った。風が木々を激しく揺さぶり、雨は窓を叩き、雷が夜空を照らした。宿のゲストたちは、暖炉のそばに集まり、嵐の音を聞きながら心配そうに夜の到来を迎えていた。

この嵐の中、温泉宿の最古参のスタッフである古川さんが、ゲストたちを落ち着かせるために、宿の伝説を語り始めた。その話の中で、かつて同じような嵐の夜に、宿を守るためにある小さな光が現れたという話が語られた。

伝説によると、その光は温泉宿を訪れる精霊の光で、宿を悪いエネルギーから守る力があったと言われている。古川さんの話に夢中になって聞いていたゲストたちは、少しずつ不安を忘れ、物語に引き込まれていった。

その夜、嵐が最高潮に達したとき、ふと宿の庭に不思議な光が現れた。その光は小さく、穏やかに揺れながら、宿の周囲をゆっくりと巡っていた。ゲストたちとスタッフは窓からその光を見守り、不思議と心が落ち着いていくのを感じた。

この光が現れたことで、宿の中は驚くほど静かになり、嵐の音も遠く感じられるようになった。ゲストたちはこの光を精霊の守護だと信じ、宿に対する安心感を深めた。翌朝、嵐が去った後、宿の周囲は見事な虹で飾られ、その美しさが前夜の恐怖を一掃した。

この出来事は後に「嵐の夜の小さな光」として温泉宿の新たな伝説とされ、訪れるゲストによく語り継がれるようになった。それ以降、嵐が宿を襲うたびに、多くのゲストがその小さな光を見ることを願い、宿の庭を眺めるのが一つの儀式のようになった。この伝説は、温泉宿の神秘性をさらに深め、訪れる人々に安心と希望を与える物語として、長く語り継がれることになった。