【KAC20247】完璧生徒会長の心の色を私だけが知っている
無月兄
前編
3月といえば、卒業式。
そして、私、白石亜子の通う高校では、それと共に卒業生を送る会というのが行われる。
卒業を祝うためのパーティーみたいなこの行事。その大きな特徴として、先生でなく生徒会が主催して行われるというのがあった。
会場の設営や料理の注文、それらに伴う事務処理など、ほとんどのことを現行の生徒会役員共が行うことになっている。
なんでも、生徒に企画運営力を身につけさせるという学校の方針でこうなったらしい。
そんな、卒業生を送る会を間近に控えたこの日、その現場は修羅場と化していた。
「会場の飾りつけ、全然終わってないぞ!」
「必要な機材の搬入ってどうなってる?」
「これ、徹夜でやっても間に合わないんじゃないの?」
と、こんな有様。
生徒会役員である私も、もちろんこの企画には参加していたけど、あまりの大変さにフラフラだった。
「大変だって聞いてはいましたけど、ここまで凄いんですね」
「ああ。白石は一年生だから、送る会の準備は初めてだったな。けど、去年と比べると遥かにマシになってるぞ」
「これでですか!?」
二年の先輩相手に声をかけると、まさかの言葉が返ってきた。
去年はこれより大変だったなんて、いくらなんでも嘘ですよね!?
だけどよくよく見てみると、もうダメだって感じで弱音を吐いているのは、ほとんどが私と同じ一年生。
二年の先輩方は、疲れた表情になってはいるけれど、私たちみたいな絶望感があるようには見えなかった。
すると、私たちを見た別の先輩も会話に入ってくる。
「ねえ、何話してるの?」
「去年と比べると、今年はまだマシだって話」
「ああ。それ、私も思った。やっぱり、皇くんがトップにいるからかな」
皇。その名前が出てきて、元々話していた先輩も、納得したように頷く。
「そうだろうな。企画もできるしみんなへの指示もしっかりしていて、仕事は他のやつの倍は早い。ほんと、凄いなアイツは」
先輩二人が大いに持ち上げる皇というのは、二人と同じくらい二年生の先輩で、現生徒会長。
私たち生徒会役員のリーダーだ。
けど生徒会役員でなくても、皇先輩の凄さを知らない人は、この学校にはいない。
成績は学年トップで、スポーツ万能。さらには、温和かつ誰にでも優しく礼儀正しいという、完璧な王子様。
それが、この学校における彼の評価だった。
だけど私は、それを聞いてなんだか胸がザワザワする。
「あの。その皇先輩ですけど、今は一人で作業してるんですよね」
「ああ。事務処理と、卒業生に贈る小物作成と、当日話す内容の原稿作りだっけ」
皇先輩の仕事内容をサラッと並べるけど、どう考えても私達より遥かに大変そうだ。
「少し、様子を見に行っていいですか?」
「そうだな。ついでに、指示をもらいたいことがあるから、聞いてきてくれないか」
そうして私は、一度持ち場を離れ、皇先輩がいる生徒会室に向かう。
そうして扉を開くと、中にいたのは、生徒会長用の机で作業をする、端正な顔をした一人の男子。所謂、イケメンってやつ。
彼が、皇先輩だ。
この人が有名なのは、優秀ということだけでなく、この容姿によるところも大きいと思う。
「おや。白石さん、一人ですか?」
とんでもない量の仕事をこなしてる真っ最中だというのに、涼しい顔で尋ねてくる皇先輩。全然、疲れているようには見えない。
こんなだから、みんななんとなく、何があってもこの人なら大丈夫って思えるんだろうな。
だけど、私がそうですと言って頷いた、次の瞬間だった。
「そうですか。なら、取り繕う必要もありませんね」
そう言ったかと思うと、力が抜けたみたいに机の上にうつ伏せた。
「ちょっと。大丈夫ですか!?」
「あまり大丈夫じゃないですね。正直、もう限界です」
やっぱり。
常に完璧で、どんな無茶も華麗にこなす。それが、ほとんどの人が持っている、皇先輩のイメージ。
だけど、私は知っている。それが、実は全部意図的に作られたものだということを。
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