お題作品「デスゲーム」
XX
戦わなければ生き残れない
『こんにちは。そして大半がさようならだ』
目隠しをされて、ワゴン車に乗せられて。
集められた先で言われたのがこの言葉だった。
そこはそこそこ広いコンクリート打ちっ放しの、眩い明かりのついた部屋で。
正面に、巨大テレビモニターがある。
そこには能面を被ったスーツの男が映っていて、喋ったのがさっきの台詞。
この部屋には数人の男女が集められていた。
「おい、ここに来れば本気の殺し合いが出来るって聞いていたのにこれはどういうことだ!?」
引き締まった身体の、凶暴な顔つきの中年男がテレビに向かってそう食って掛かる。
どいつもこいつも弱そうで話にならん! 俺は殺し合いがしたいのに、と。
「ここに来れば楽で最高に稼げるバイトが出来ると聞いていたのに、話が違う!」
貧相な身なりの、ガリガリの若い男が悲鳴を上げるようにそう言った。
「夢でも逢いたいような、私の王子様はどこー!?」
高齢の女性。
……なんだか
ここに集められた面々を見て、俺には気づくものがあった。
だけど、それを口にする前に
『……キミたちは、薬物もスタンガンも、暴力的な手段を一切使わなくてもここへの連行が達成できたクズ共だ』
モニタに映る、能面の男。
『そんな馬鹿は居ない方が世の中のため。全員処刑が望ましい』
その言葉に、俺は震える……
俺はお笑い芸人だった。
まだほとんど売れていない。
高校時代、webでギャグ小説を書いてウケまくったので、自分にはこの道の才能があるんじゃないかと思い。
大学受験を放り捨て飛び込んだのだけど。
ものの見事に、現実はただの思い込みだったんだ。
俺は他人が信用できないので、ピンでネタをやっていたんだけど。
誰も笑わない。
小説だったら皆ドッカンドッカンだったのに。
……今では、あれは俺への忖度だったんじゃないのかと思えてすらいる。
そんなことも見抜けないなんて……まるで子供だな。
そんなふうに自分への情けなさで悩んでいるときに、俺の前にハイエースと、それに乗った目出し帽の男たちが現れたんだ。
彼らはプラカードで「撮影中です」という表示をあげていた。
そこで俺は思った。
夢にまで見た、あの番組だ!
あの番組なら、俺の名を売るチャンスだ!
受けない手は無かった。
自分の手で、アイマスクとヘッドホンをして、俺は連れて行かれたんだ。
そしたら……こうなった。
「ふざけるな!」
凶暴な男が言う。
「け、警察!」
若い男。
「そんな! これは女性差別よ!」
高齢女性。
皆口々に、テレビの中の能面男に怒りをぶつけていた。
だけど
『……そういうわけで、そのための武器は与えた。報酬は弾むからクズ共の処刑を全員よろしく頼むぞ。優秀で親愛なる我らが同志よ』
能面男はそう言い残し。
そこでプツッと男の映像が途切れた。
同志……?
最初、意味が分からなかったが……
すぐに気づいた。
それは……ここに運営側のスパイが紛れていて、そいつが俺たちの皆殺しを狙っているということだった。
なんてこった……どうしよう……!
それじゃ、話し合いが信用できなくなるじゃないか!
だって相手はスパイなのかもしれないんだぞ!?
話し合いできないなんて……詰んでる!
俺は青くなった。
まだ死にたくない!
叫びだしてパニックになりそうになったが、俺は踏み止まり
(できることをして、精一杯生き残りに賭けよう)
……そういえば。
目隠しヘッドホン状態で、俺は鞄を1つ渡されていた。
黒色の革鞄を。
それを確認しよう。
何か、打開策になるものが入っているかも……。
早速鞄を開けて、俺は中身を確認した。
そこには……
(アーミーナイフ?)
見るからに軍用のナイフが1本入っていた。
飾り気がない、武骨な戦闘用ナイフ。
……これで戦えって言うのか。
俺は武器が近接武器だったことに軽く絶望しながら、それでも諦めずに突き進む覚悟を決める。
その瞬間だった。
視界が一瞬真っ白くなって、それから真っ赤になった。
吹っ飛ばされる衝撃。
そして激痛。
……口の中に生臭い鉄と塩の味。
歯が折れていた。
横っ面を殴り飛ばされたのだ。
……あの、ガタイのいい凶暴そうな男に。
俺は頭を振って向き直る。
殴り飛ばされたときに床に削られ、額からも出血していた。
目に入らないように、その血を手で拭う。
そんな俺をニヤニヤ笑いで見守りながら。
男は言った。
その手に嵌めたメリケンサックを撫で回しつつ。
「わりいな……俺が運営なんだわ。覚悟しろ」
え……?
スパイが名乗り出て来た。
不利になるはずなのに……!
それはつまり、正攻法で全員殺し尽くせる自信があるということ……!
戦慄する。
だけど次の瞬間
パンッ
軽い音がし
「ぎゃああああ!」
俺を殴り殺そうとした凶暴な男が、肩を押さえて床でのたうち回った。
……どうやら、銃で撃たれたらしい。
撃ったのは
「嘘ばっか。私こそが運営よ……! 殺し尽くしてやる! このゴミ男ども!」
残酷な笑みを浮かべて高齢女性が、両手で自動拳銃を構えて、その銃口から硝煙を立ち昇らせていた。
え……?
どういうことだ……?
混乱する。
そこにさらに
「ぎゃああああ!」
高齢女性が腕に手斧の一撃を受け、血を吹き出しながら床に倒れる。
やったのはガリガリに痩せた若い男で
「バァカ。俺こそが運営なんだよ! この嘘吐きの低能が!」
半笑いを浮かべた彼は、自分の一撃で自動拳銃を手放して苦しみ続けている高齢女性に何度も手斧の刃を叩き込み続けた。
……そこで、分かった。
理解した。
本当はスパイなんていないんだ、ってことに。
運営の狙いはこれなんだ……
たった1人だけエリートが紛れ込んでいると伝えることによって
「自分こそがそうだ」
……というマウントを取るための名乗り合い発生を促し、こうして最終的に殺し合いをさせるための……!
「終わってんなぁ……俺たち」
俺は震える唇で、そう呟いた。
お題作品「デスゲーム」 XX @yamakawauminosuke
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