マッツの当日券購入

 コミコンとは海外の映画・コミックの祭典。目玉はなんといっても海外から来た有名な俳優とのサインと写真撮影だ。

 当初の予定では、ユアン・マクレガーの写真撮影とサインが終わった段階で私のコミコンは終了のはずだった。

 ところが最終日の朝、入場のために一般待機列に並んでいたときのことだ。

 Twitter(一生呼び続けてやる)にマッツ・ミケルセンの当日券を追加販売するという情報が流れてきた。会期中に突然、セレブの厚意で当日券が増えることはちょくちょくある。特に今回、マッツとベネディクト・カンバーバッチは「そ、そんなに大丈夫ですか?」ってくらいバンバン当日券を出していた。昨日は結構予定が詰まっていたので手を出そうとは思わなかったが、今日は午後が丸々フリーだ。

 実は私は前売りの段階で、マッツのチケットを買いそこねていた。買おうかどうしようか悩んでもたもたしているうちに完売してしまったのだ。

 コミコンが始まると、Twitterではマッツに殺されて喜ぶファンの写真が続々と流れてきた。背後に立ったマッツに腕で首をホールドされ、反対の手に持った見えないナイフで背中を刺されたり。両手で首を掴まれたり。かと思えば、定番のハートとか、シーと口の前に指を立てるポーズとか、じっと見つめ合う横顔の写真もあったりして。

 いいなぁ……。

 そんなファンたちの感動感涙阿鼻叫喚ツイートを、私は指をくわえて見ていたわけである。

 とはいえ追加された当日券も、あっという間に完売する。だから今回もあまり期待せずに販売ページを開いた。

 まだ買える!

 サインがふたつの時間帯。

 撮影がひとつの時間帯。

 迷った。

 安い買いものじゃない。そりゃあ、迷うさ。

 そのとき私の脳裏を、Twitterで見た金言がよぎった。

 買う理由が金額ならやめておけ。迷う理由が金額なら買え。

 そこからは速かった。夕方の撮影の購入ボタンを押し、スマホが記憶しているカード情報を勝手に入力してくれて、購入通知がメールで届く。

 買えた。

 買っちゃった。

 あはは、来月の自分、頑張れ~!

 なんてそのときは笑っていたけど、このときが私の決断力のピークだった。

 そのあと、ユアンのサインでやらかし、昨日ユアンの撮影でやらかしたダメージもちょっと残っている。そこへ2日間歩き通した疲労も加わるのだ。

 マッツの撮影が始まるころには、決断力も判断力も体力も、すべて出がらししか残っていなかった。

 そんな状態で、憧れの人に会うべきじゃない。少なくとも、レベル12には荷が重すぎる。

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