第12章「エンディング」
今夜もまたロイド眼鏡の男が暗闇の中で煙草を吸いながら、ロッカーの前でたたずんでいます。
煙草を吸い終わると男は私には一瞥もせず前を通り過ぎ、宙を浮きながら窓際の鳥かごまで移動しました。
男は腰を屈めながら鳥かごに目線を合わせると、首を横に曲げてじっと小鳥を見つめています。
私は男を固唾をのんで見守っていました。
もし小鳥に男が手を出そうとしたら直ちにナースコールのスイッチを押すつもりです。
しかし男は小鳥に手を出すことなくじっと見つめていました。
窓から月明かりが入り男の顔がはっきりと見えました。
不気味な笑みを浮かべながら、ずれたロイド眼鏡を右手で直しじっと小鳥を見つめています。
二時間以上経過し窓の外が白くなると、やがて男はスーッと消えるようにいなくなりました。
私は松葉杖を脇に入れ小鳥の元に行きました。
朝日を浴びながら、ちゅんちゅんと元気よく鳴いています。
そして……
三日間、毎夜男は小鳥を不思議そうに見つめ朝になると消えていきました。
病院側の手違いにより相部屋には新しい入院患者が入り、私は同じ個室で退院の日まで過ごすことになりました。
しかしそれで良かったと思います。
怖い目に合うのは私だけで充分です。
ロイド眼鏡の男は毎夜飽きもせず小鳥たちを朝になるまでじっと見て、朝になると消えていきました。
私にとって小鳥の世話は毎日の癒しになり、家族と同様生きがいにもなりました。
そして三か月後、退院の日……
私は家族とともにロッカーに入れた服や荷物をかたずけました。そしてふっと気になり隣のロッカーを開けると……
そこにロイド眼鏡がありました。
あの男は間違いなくこの病院の入院患者でした。
私は一階の受付で婦長に礼を言うと、ロッカーにロイド眼鏡があることを伝えました。
婦長は耳元で私に言いました。
「実は以前、カンカン帽を被りロイド眼鏡をかけた男性が散歩中に道で倒れ、この病院に救急搬送されました。そして一週間後に亡くなりました」
「どの病室で亡くなったのですか?」
「あの個室です」
「……でしょうね」
婦長は何も悪くありません。病院の規定に従っただけです。
小鳥たちは私の命の恩人です。その後大切に飼い続けました。
あまりにも子だくさんなので知人に雛を分け与えるのに苦労しましたが……
あれから何十年も経ち病院も建て替えられすっかりきれいになりました。
今も私は病院の前をバスで通るたび、カンカン帽を被ったロイド眼鏡の男を思い出します。
YouTube「あなたを誘う恐怖世界Ⅰ・Ⅱ」より ©2024redrockentertainment
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