第9話 決闘の末
〇ローファット邸 郊外練習場内 闘技場
「豚は所詮、豚だぁぁあ、前からお前がうっとおしいかったんだよ」
「「いけぇぇハリーさん!!」」
周りの騎士は皆、ハリーの味方ばかりだ・・・当然俺の味方など存在しない・・が
「この勝利を我が主、エスト様に捧げます」
そう胸の前に剣の束を掲げ木剣の刀身に向かって目を瞑り、主に勝利を約束する
「死ねぇぇえ!」
ハリーは剣を肩口に構えながら真っ直ぐ突進してくる・・・・が
「ガンッ」
剣の腹で滑らせて突進を軽くゼスにいなされる、「クッ!」悔しさを滲ませ体制を崩されながらもハリーは振り返りゼスを睨み付ける
「うぉぉぉぉ!!」
今度は下段に構え再び切りかかると今度はゼスの横への鋭い薙ぎ払いに、剣を立てて咄嗟に防御したが受けた剣ごと横に吹き飛ぶ
「なぁ!?剣がぁ・・・」
ハリーの持つ木剣はゼスの剣を受けた衝撃で真っ二つに折れてしまった、驚き戸惑うハリーの鼻先へゼスは剣先を向ける
「勝負ありですね・・・エスト様への侮辱的な言動・・今直ぐに取り消してください・・」
しかしハリーの怒りはまだ収まってない、後ろの仲間に手を差し出し
「おい!!俺の剣をもってこい!!」
すると直ぐにハリーの腰巾着がハリーの荷物から取り出した剣を渡すと「ツゥゥゥ」と鞘から刀身を抜くと躊躇わず横に振り抜き、ゼスの突きだした木剣の剣先を弾いた
ゼスは後方に飛び距離を取る・・・自分の木剣の剣先は鋭利な刃物で切り取られた様に欠けていた
「あっははは、ここからが本番だぁぁ、殺してやるから掛かってこい!このブタァァ」
ブンブンと真剣を振り回しながら徐々に距離を詰めるハリーの表情はすでに常識という枷を外れた狂人の様だった
「うりゃぁぁぁぁ」
ハリーが真剣の重さで加速した振り下ろしをゼスの頭部目掛けて打ち込む
ゼスは体を半身横にズラして木剣の腹でハリーの真剣の軌道を逸らすと、ガラ空きになったハリーの首筋目掛けて木剣を振り下ろす
「がはっ!!」
見事に延髄に木剣の一撃を喰らい前のめりに倒れて昏倒するハリー・・・その様子を見て居た他の貴族は黙ったまま口を開かない・・が
「ゼスぅぅ!!汚いぞぉハリーさんを後ろから騙し打ちとか!!」
「そ、そうだぁぁお前は騎士道をなんと心得る!!」
その場の全員が俺を騙し打ちした卑怯者と罵る
「全員でやっちまえぇぇ!!」
そう号令をかけると20名ちかい騎士たちが一斉に闘技場に上がってきてゼスに襲い掛かる、流石のゼスも受け身だけでは捌ききれず反撃で打ち返すと一人の額にゼスの木剣が命中しパックリと裂け血が滴る・・・
「いでぇぇいでぇぇパパぁぁママぁぁ」
額を押え自分の手に真っ赤な血糊がつき、涙を浮かべながら泣きわめく男をゼスは茫然とただ見つめていた・・・その時
【サンダ――アロー!】
闘技場に閃光が走ったと思った瞬間・・ゼスの身体は電撃で打ち抜かれた
「ガハッ!」
ゼスは突然の衝撃で呼吸が出来なくなりその場に膝から崩れる・・・
「何事だ・・・騒々しい・・・」
現れたのはローファット伯 ラウンドだった、数名のお抱え騎士を伴い闘技場に現れると、騎士達は全員膝を着き頭を下げ、剣先がラウンドの方を向かない様に木剣を右の地面に置く
「で?この状況はどういう事だ?」
ラウンドの目線の先は、自身が放った電撃で失神しうつ伏たままのゼスだった
「そこの貴様・・・我に説明せよ・・」
ラウンドに一番近い位置にいた騎士が指名され肩をビクつかせながら恐る恐る顔をあげると、ラウンドの獲物を射殺す様な冷たい目に冷や汗が滴る
「その・・ハリーさんとブ・・ゼスが言い争いになりまして・・闘技場で対戦したのですが・・ゼスが卑怯にも油断したハリーさんの背後から騙し討ちを・・・」
「なっ!なにぃぃ儂の息子に騙し討ちとは・・・わしが成敗してくれるぅぅ」
ラウンドの背後にて控えていた年配の騎士が立派な髭を蓄えた顔を真っ赤にして怒り狂う
「黙れ・・誰が勝手に喋って良いといった?でしゃばるなハンス」
ラウンドの言葉に真っ赤な顔は急に青くなりその場で膝を折り頭を下げる
「・・・・と、こやつらは申しているが・・・どうなのだ?エストよ」
ラウンドは訓練場の入り口と反対側の方へ目線を向けると、フェンス際にエストが立っていた、エストはラウンドの問いに遠くより頭を下げ訓練場を迂回してラウンドの元まで来ると目の前で膝を折る
「私はゼスがこの訓練場に現れた時から様子を見ておりました」
エストの言葉に先ほどラウンドに状況を説明していた騎士は顔面蒼白になり顔を上げる事が出来ない
「では聞こうお前の話しを」
エストはラウンドの許しを受け顔を上げ真っ直ぐに目を見ながら答える
「はい、まずゼスとハリーが言い争いになったのは事実です、ただそれはハリーが私を侮辱する発言をした事に腹を立てたゼスが詰め寄ったからです」
「なっ!息子がエスト様を!?そんな・・・何かの間違えでは!?」
「ハリス・・黙れ・・貴様はいつから貴族親子の会話に割って入れるほど偉くなったのだぁ?うーん?」
ラウンドの怒りの籠った言葉にハリスは頭を地面にこすりつけ謝罪した
「も、申し訳ございません!」
「続けろ・・エスト」
「はい、それでハリーから闘技場の上で決着をつける様にゼスを挑発しそれに乗る形で二人は決闘しました」
「ゼスはハリーの木剣を砕き、闘技場の隅まで追い込んで勝負ありかと思っていましたらハリーに、そこの騎士が(自覚してる騎士の肩が震える)真剣を手渡し、真剣を振り回し木剣のゼスに仕掛けました」
ラウンドは肩を震わした騎士を冷ややかな目で見つめるとそのままの視線でエストに話を続ける様に促す
「しかしゼスの受け流しで体制を崩したハリーの後頭部に一撃を与えハリーは昏倒・・・しかしそれを不意打ちだと周りが言い出しゼスに対しほぼ全員で襲い掛かりました、最初は受け身を取っていたゼスも流石に防御だけでは追い付かず振り下ろした木剣がそこの額から血を流してる騎士にあたり今に至ります」
ラウンドはエストの目を真っ直ぐに見ながら問う
「エストお前の言とこ奴等の言・・どっちが信頼に値するか・・・」
「父上、貴族である私の言と一介の騎士である彼らの言・・何方が真であるか・・明白だと存じます」
ラウンドはフンッと後方をハリスに視線を戻すと・・・
「ハリス・・・騎士長たる貴様に命ずこの件について誰に責があるか明確して処罰せよ・・もし儂が納得できない処罰を下そうものなら・・・判っておるな?」
ハリスはガタガタを肩を震わし頭を地面に擦りつけている
「エストよ・・いまのは中々貫禄があって良かったぞ・・・しかし・・・わしは豚の騎士など絶対に認めぬ・・今回はそなたの小賢しい知恵に免じ見逃してやろう」
それだけ言うとラウンドは屋敷の方へと戻っていった
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