第8話 騎士道とは・・・
バーネット子爵の来訪より2週間が経ち、エストも多少は元気を取り戻していた
「エスト様があんなに落ち込むは、ゼスが怪我をして運ばれてきた時以来だよ」
側付きのミリアはエストの脱いだ服を抱えて洗濯する為に庭先を歩いていた
「申し訳御座いません・・・私が余計な事を言ったばかりに・・・・」
ゼスは木剣を腰にさしたまま、ミリアが洗濯で使う水桶を運んでいた
「まぁ今日は別の意味で落ち込んでいらしたけどね~」
ミリアは悪戯っぽく笑いゼスの前を歩く
「エスト様も・・・これで大人の仲間入りですか・・・」
そう答えるがミリアは返事をすることなくエストの着替えを微笑ましそうに眺め少し匂いを嗅ぐ
「まぁ女は初潮って分かりやすく体に変化があるけど、男の人の場合は寝てる間の事だしね・・あ、そこで良いわゼス貴方これから他の騎士と稽古が有るんでしょ遅れると又嫌味を言われるわよ」
ゼスは苦笑しながら水桶を降ろしミリアにお辞儀して足早に訓練場に向かって行った
〇ローファット邸、郊外訓練所
郊外の練習場には木人が数体と中央には対戦する為の石造りの闘技場がある、ゼスが到着した時には既に20名以上の騎士たちが身軽な軽装で仲間内で談笑していた
「遅れました」
ゼスは訓練場に入る前に深々と一礼してから中に入ると、他の騎士達からは白い目で睨まれる・・・
この状態も既に慣れたもので、ゼスはそんな目線など気にする事無く外周をランニングしながら準備を始める
遠目に見て他の騎士たちはお世辞にも真面目に訓練してるとは思えない、手にした木剣でふざけてみたりずっと椅子に腰かけ談笑していたり一向に訓練をする素ぶりもない
貴族のお抱え騎士は常に主の身を守る為に日々の研さんを積む、これは騎士でもない平民でも知ってる「騎士道」だ・・・
しかし実状は違う、外園の敵対国と隣接する領内では違うと思いたいが、そうでない内陸よりの領内の騎士は怠惰を極め訓練などする様な者は居ない、夜になれば町や村に出て平民の女を攫っては自分の欲求を満たす・・・
(これが騎士か・・・)
ゼスもエストと共に過ごしエストの考えに触れて無かったら彼らの有り方に疑問を持つ事は無かったかも知れない、しかし今ゼスには守りたい主人がおりその恩人たるお方の為にも自分の出来る事はしっかりと果たすと心に決めていた
ランニングを終え、汗を拭う間も無くウエイトトレーニングにスクワットをこなし、今は木人を相手に剣の打ち込みを始めている
そんな時背後から石が飛んでくる
「!?」
ゼスは気配で石を避けると、とんできた方に振り返る
「おお~流石、若様のお気に入りの豚だぁ良い反応をするじゃないか、ブヒブヒw」
「ハリーさんwあんまイジメると若様に睨まれますよぉ~」
石を投げたのは、ローファット家で歴代の騎士長を務めて来た家の息子だ年齢はゼスよりかなり上で既に家庭も持っている
「ハリー様・・・練習の邪魔は止めて下さい・・・」
このハリーは自分こそが次期伯爵であるエストの従者になるものだと思っていたし周りもそう思っていた、それなのにエストが従者に選んだのは騎士爵でもない平民の豚だという
ハリーとハリーの両親は激怒したが、騎士が主たる貴族に口答えする事は許されない・・・当然エストにもその怒りは向いていたが直接ぶつける訳にも行かないハリーは騎士の訓練に来たゼスをイビリ倒した
「なぁ豚よ~お前の方からエスト様に専属の従者のお役目を辞退する様に言えよ」
「そうだぞぉ!そのお役目はハリーさんのモノだったんだぁお前の様な豚が担えるお役目では無いんだぁ!!」
取り巻きと一緒になりゼスにお役目を降りろと詰め寄るこの光景もすでに見飽きたし聞き飽きた
「エスト様より職を辞する様に言われない限りは、主の命に従うのみです、その儀は何度、申されましてもお受けする事は出来ません・・ご容赦下さい」
そうハリーに頭を下げる
「ちっ!いけ好かない豚だ・・・すこし剣の才能があるかって調子に乗りやがって・・・」
そうゼスは既に今の時点でこの若手の騎士の中でも群を抜いて強くなっていた、それもそのはずだ彼らは幼少の頃に稽古しただけで今は怠惰に生活するだけ・・・体の筋量も落ちて剣線の鋭さも鈍る、なにより長時間の稽古に耐える体力も無い
ゼスは自分の力量を正確に把握しているので無益な争いはしなかった・・・例え自分が罵られようとも
(俺が耐えればいい・・・エスト様にいらぬ心配をかける事はない・・・)
しかし・・・・・
「エスト様もエスト様だよなぁ~こんな豚にご執心とは・・・・あれか?もしかしてソッチの気がぁ?ガハハハハ」
「!?」
「まぁそりゃエスト様は奥様に似て美形だしなぁ~あんな美形に言い寄られたら俺も道を踏み外すかもよぉ~」
ハリーは主が居ない事を良い事にエスト様を侮辱する様な発言をして、仲間達に腰を艶めかしく振りながら馬鹿にしてる・・・
「おい・・・その言・・・撤回しろ・・・」
ゼスがふざけてるハリーに対し木剣を構え凄む
「はぁ?てめぇ誰に口きいてんだぁ?豚のくせにぃぃ」
「エスト様に対する侮辱を取り消せと言っている・・・・」
ゼスの怒りはハリー達に届かない・・・ゼスの怒りの言葉は嘲笑で搔き消される
「ギャハハハハ、豚ぁぁてめぇ何勘違いしてんだぁ?俺がいつエスト様を侮辱したよぉ?」
「俺はただぁエスト様にお尻を差し出されたら断れないなぁ~って言っただけだろうがw」
ゼスは木剣を構えたまま突進してハリーの持つ木剣を思いっきり弾いた、木剣は空中高くに回転しながら舞い上がりハリーの背後の地面に突き刺さる
「てめぇ・・・これで言い訳できねぇぞぉぉ、闘技場に上がれぇぇ!」
ハリーは闘技場に上がり仲間から奪い取った木剣をゼスに向け突きだす
「豚がァァ調子乗ってんじゃねぇぇぇここでぶっ殺してやるよぉぉ」
ゼスは黙ってハリーの反対の階段から闘技場に上がる
「エスト様を侮辱したお前を絶対に許さない!」
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