第5話 淡い想いとささやかな差し入れ

ラウンドの勘気から、2週間程が経過した


あれ以来、ラウンドはエストと口を一切聞かない、それどころか食事も同じ部屋同じテーブルで食べる事を禁じた


あれだけ熱心にエストの教育に力を入れていたのに、家庭教師や武術の習い事も全て取りやめエストには無為の時間が増える事になり、部屋に籠る事が多くなった


その間にもゼスの看病を続け、ゼスの身体も着実に回復に向かってる


「ゼス・・・早く元気になって僕の友達になっておくれ・・・この家は息が詰まる・・・」


そうゼスの頭に置いたタオルを取り換え水桶を交換しようと備え付けの椅子から立とうとした時


「う、うううぅぅん・・・ここは・・・」


ゼスは虚ろに目を開き、目線で周囲を伺った


「ゼス!?ようやく目を醒ましたんだねぇ!!」


悦ぶエストを見つめるゼスは状況が理解できておらずただ唖然としていた



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・


エストは村で起った事と、ゼスの今の状況をかいつまんで説明した


「いっっ・・・うぅぅ・・貴族であるエスト様にこのような・・・今すぐ・・寝床から出ますので・・」


話を聞いてる途中で、折角良くなりかけた顔色が再び青くなり自分が寝てる場所が貴族の寝るベッドだと気付いた際に恐れ多いとベッドから降りようと試みる


「だ、ダメだよゼス・・ほらもう少し横になって・・・まだ目が覚めたばかりで無理は出来ないよ」


エストの言葉を聞くまでも無く早くベッドから降りようと必死にもがいていると【グゥ~ゥ】とゼスのお腹が鳴った


「ふっふ・・何か食べる物を持ってくるよ・・」


そう言うと必死に断るゼスに「まぁまぁ任せて」と手を振り部屋を出て厨房へ向かった


父上と鉢合わせすると気まずいので、廊下をキョロキョロと確認しながら厨房へ到着した、入口から顔を覗かせ厨房の中をキョロキョロと伺うと料理を作っているメイドの一人がエストに気付き近寄り頭を下げる


「これはエスト様・・このような厨房にいらっしゃるとは、何か御用ですか?」


「え・・えっと・・何か消化に良い物が無いかな?と・・」


するとニコニコと笑顔だったメイドの表情は一気に冷たくなりエストに言う


「エスト様・・・ここは高貴な貴族様であるラウンド様とエスト様のお食事を作る厨房で御座います・・・家畜の餌はご用意出来ません・・どうかお引き取りを・・」


気持ちの籠らない謝罪であることはエストにも判っていたが


「その・・なんでも良いんだ・・・今朝のスープの残りとか・・・」


そうエストが言いかけると厨房の流しに居た別のメイドが鍋に残ったスープを捨てた・・・勿論ワザとである事は明らかだ


「大変申し訳ございません、スープは古くなっていたので今しがた処分致しました・・・これ以上ここに御用は無いようですので我々は失礼して次の食事の用意を致します」


そう冷たく言うとエストに頭を下げ厨房に戻っていった


(何とかゼスに食べ物を・・・・・)


困った様子で厨房からトボトボと立ち去るエストに廊下の曲がり角から手が見えていて手招きしていた・・・


後ろを振り向いても自分しかおらず、エストは首を傾げながらも手招きをしてる方へ向かう


エストが曲がり角から顔を見せたとたん、手を引かれ部屋に連れ込まれる


「!?」「しぃぃぃお静かにぃ」


エストは目の前の人物の顔をみて咄嗟に声を上げそうになった自分の口を両手で塞ぐ


「エスト様、人目を避ける為とはいえ失礼しました」


そう頭を下げるメイドは、エストが幼少の頃より尽くしてくれたミリアだった


「ミリア!僕の専属から外れて今は父さんの従者をしてるって聞いたけど?どうしてこんな所に?」


するとミリアは自分の口元に人差し指を宛て、静かにする様に促した


〇ミリア・フォーゼ:騎士爵の家に生まれた次女でエストより5歳年上、エストが10歳になるまで側仕えとして身の回りのお世話をしていたが、去年エストが10歳になると、13歳から入る事になっている首都の貴族院学校の寮へ入る為、自分で身の回りの世話をする練習もあり、側仕えを解任されラウンド付の従者に配属が変わっていた


ミリアは黒髪のショートカットが印象的で、家庭的というより体を動かす事が好きな行動派だったエストの幼少時はいつもエストの遊び相手として屋敷の庭を駆け回っていた


流石に15歳になると、結婚を視野に入れる年頃でもあり見た目も女性らしく薄く化粧をするようになって、美しい女性となっていた


そんなミリアの事をエストは幼いながらも憧れていて密かに初恋相手でもあった。


「先ほど旦那様にティータイムで一緒にお出ししたサンドイッチが手つかずで残っています」


そう言うと部屋の机の上のお皿のナプキンを取り自分のハンカチにサンドイッチを包みエストに手渡す


「余り物で申し訳ございませんが・・・これなら誰にも気付かれないので・・・お持ちください」


ミリアはエストに優しく微笑み、黙って頷いた


「ミリア・・・本当に有難う・・恩に着るよ・・」


エストもハニかんだ笑顔で答えると、ミリアは部屋のドアを少し開け廊下の様子を伺うと、エストを部屋の外に出し頭を下げ何事も無かったかの様に空になったお皿とティーカップをトレーに乗せ厨房へと入って行った


ミリアに貰ったハンカチにくるまれたサンドイッチを大事に抱え、人に出会わない様に気を付け足早に自分の部屋に戻って行った






「エスト様・・・このような施しを頂き・・恐れ多い・・・」


ゼスは畏まりながらも、身体の食への要求は抑えられないのか無心でサンドイッチを食べていた


「ふふ、ゼスここは誰も邪魔しないから落ち着いて食べて良いよ」


ゼスはそんなエストの言葉に急に食べるのを止めサンドイッチをハンカチの上に置くと


「エスト様・・エスト様は貴族であられる身・・・なぜ私の様な下賎な者にこの様に良くしてくれるのですか?」


エストはそっとゼスの手を取り、微笑むと


「ゼス・・僕はね・・貴族も平民も神官も・・皇帝陛下すら命は平等だとおもってるんだ」


「!?そ、その様な事を仰っては」


ゼスはエストの背後のドアを見て警戒する


「僕のこの考えはこの世界・・女神ゼレニス様のお作りになったこの世界では許されない異端だ・・・だけど僕はこの考えが間違えてると思えない」


「エスト様・・・・」


「寧ろ間違っているのは、特権階級の貴族とそれを取り仕切る教会・・いや皇帝陛下だと思ってる」


「ダメです!!それ以上は!」


ゼスがエストの手を強く握り返し、強い眼光でエストの目を見つめ返す、それはエストの身を案じての事だと直ぐに分かると


「いや・・すまないゼス・・今日の僕はどうかしてたみたいだ・・今のは忘れてくれ」


そんなエストの言葉に安心するゼスにエストは苦笑しながらベッド脇に立ち手を差し出す


「ゼス・・・僕と・・・このエストと友達になってくれ」






この日差し伸ばした手は、後にどの様な意味を持つのか・・・





後書き:書いてて気付いたんですが、1章から激鬱展開です虐待、暴力、性的な描写、もしかしたらレーティングに引っ掛かるかもしれませんがご了承下さい

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