世界に否定され全て奪われた元貴族の令息が、悪霊達に身体を差出し悪霊の王となって世界に復讐する

nayaminotake

プロローグ 悪霊の王


〇プロローグ



グランディ帝国、西方にある小さな伯爵領の外れ


小さな村の酒場兼、宿屋にその男達は滞在していた


ブドウとリンゴを主力で栽培している、ディーブル伯爵領の辺境の地


宿場町とはお世辞にも言えないこの村に今、領主であるディーブル伯爵が現地視察に来ているとの事だった


まだ日が暮れて間もないと言うのに外を出歩く者は殆どおらず、聞こえてくるのは領主お抱えの騎士達が酒に酔って暴れてる声だけだ


そんな喧騒とは無縁の静かな酒場で、みすぼらしいローブを身に纒いテーブルに並んだ粗末な料理を食べる3人


「ロン様・・・この様な粗末なお食事・・申し訳ございません」


その内の一人が目の前の同席者に頭を下げる


「良いんだ、フィール、どこの村も同じ様なもんだ・・・他人に与える食料があるだけマシな方だ」


その横で固いパンを半分に千切ろうと苦戦してるもう一人の同席者が反論する


「お言葉ですが主様、我々のご主人でいらっしゃるオベ・ロンたるお方の口にされる食事とは思えません!」


そう話したもう一人に手を差し出し渡されたパンを受け取るロンと呼ばれる人物は、両手でパンを挟み何やら呟く


するとローブから見える右手が淡い赤色に輝き、左手が同じく淡く青色に輝いた


光は直ぐに消え、ロンと呼ばれた人物はパンを持ち主に返す


するとパンからは焼き立ての香ばしい香りが漂い、軽く千切った断面からはしっとりと湯気が立ち上る


その片方を一口で食べきりモゴモゴ言いながら何か喋ってる


「全く・・・フィーネは・・ロン様に対し失礼でしょ?・・・申し訳御座いませんロン様、ここは第一従者で姉の私より厳しく申しておきますので・・」


頭を下げながら謝罪するフィールと名乗る人物のローブ越しにロンは頭を優しく撫でる


「この様な・・夜にご奉仕させて頂けるだけでも身に余る幸運ですのに・・妹の不敬な態度でお叱りを受けるどころか・・こんな優しいご寵愛を賜り・・このフィール改めましてロン様に永遠の忠誠を誓います」


「はぁぁお姉さまは固いんだよ?ねぇ主様~フィーネも主様に永遠に身も心も捧げます・・・ですから・・今晩は・・お姉さまよりも多めに可愛がって頂きたいです」


そう言うとロンという人物の腕に抱き付いた


「ちょっとぉ!!今日は私が最初の日でしょ!?ってロン様から離れなさいぃぃフィーネぇぇ!」


そんな二人を見ながら小さく笑うロンを見てフィールとフィーネはお互いの顔を見合わせ恥ずかしそうに席に座り直す


「良いよ・・二人共俺の大事な人だよ」


「ロン様ぁ」「主様ぁ」


そんな時 『バンッ!』と入口のドアが乱暴に開けられ3名の剣を帯びたムサイ男に2名の若い女性が肩を抱かれ店に入って来た


一行は適当な席に座ると女を自分の足の上に座らせ、身体を触りだした


「お許し下さい・・・私には・・将来を誓った人が・・・」


「私は・・先日結婚したばかりの旦那が・・・」


女たちは必死に抵抗をしているが、男達はお構いなしで服の中に手を入れ嫌がる女の素ぶりすら楽しんでいる様だ


そんな中で一人女を侍らせてない男が不機嫌そうに大声を上げる


「おい!!店主!俺達がせっかく来てやったのに早く料理と酒を持って来ないかぁぁ!」


近くの椅子を蹴り上げイライラしてる様だ・・・その蹴り上げた椅子がロン達の席の近くにまで転がってきた


「ちっ!お前らうまい事手ごろなメス豚を見つけて来たなぁ・・・俺の入った家はにはババアのメスしか居ねぇし」


「げへへへ、俺が抱き飽きたらお前にくれてやるよ!」


女たちはその言葉に顔を青くする


「た、たすけてぇぇぇあなたぁぁ」「誰かぁぁ」


半分服を脱がされ、乳房に吸い付かれ下半身を弄られながら必死で逃げようともがいている


「お前等何いってんだぁ?騎士様に抱かれんだぞ?喜んで股を開いて奉仕しろよ」





「ゴミ共・・・・」


「はぁ?」


フィーネがボソッと呟いた言葉を騎士と名乗る連中は聞き逃さなかった・・・


「おい・・・何だと?もういっぺん言って見ろぉあああ!!」


そう怒鳴りながら強引にフィーネのローブを引っ張ると・・・・


「なぁっ・・・・てめぇ・・女・・・か・・・しかも・・・」


「「上玉だ・・・」」


掴みかかった男の後ろの席で女を弄んでいた男もフィーネの横顔を一目みて固まってしまう


フィーネは静かに席を立つと、身に纏っていた汚れたローブが脱げ落ちその中から金色の美しく輝く髪に神秘的な青い大きな瞳、その瞳を彩る長いまつ毛、ピンクの花びらの様な唇


そして銀色の胸当てを押し上げる豊満なバスト、くびれたウエスト・・ショートパンツより覗く染みひとつない真っ白な美しい足・・・


そんな美の化身の様な女性の耳は人のそれとは異なり長く先端は尖っていた


「我に汚い手で触れるな・・・ゴミが」


さっきまでの雰囲気と違い氷の刃の様な鋭さを持つ瞳で男を睨み付ける


「こ、これは・・上玉だぜぇぇ俺の今日の相手はこの亜人のメスに決まりだァァ」


フィーネが睨み付ける先の男は口元から涎を垂らし、今にもフィーネに襲い掛かりそうな雰囲気だ


「止めなさい!」


フィールも立ち上がり自分のフードを外す


「ヒュゥゥゥゥ~」


奥の席から感嘆の口笛が下品に鳴る


フードから顔を見せたフィールはフィーネと瓜二つ・・・違いはその長い髪が美しい銀色でありその美しい瞳は真紅であった


「下郎・・・我ら姉妹の身体は全て我が主オベ・ロン様のモノだ、髪の毛一つ触れる事は許さん」


するといつの間にか後方の席に居た2名の男も合流して、二人の美女を下卑た目で眺めている、解放された隙に女達は脱がされた服を抱え脱兎の如く酒場から逃げ出して行った


「あぁ~あぁ、折角みつけたメス豚を逃がしちゃったじゃねぇか・・・こりゃお前等が新たなメスになって俺らにご奉仕しなきゃダメだよなぁ」


そうしてフィーネの肩に触れようとした、その時


『ヒュン』と風の音がしたと思ったら男の腕は肩から先が無くなっていた


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!うでぇぇ俺のうでぇぇぇ」


飛び散る鮮血が降り注ぐもフィーネとフィールその間に居るロンには見えない壁があり血飛沫は届かない、一方で仲間の鮮血にまみれた残りの騎士達は突然の出来事に冷静さを欠いた


「てめぇぇぇ俺達が騎士だと知っての事かぁぁ」


そう剣を抜きフィーネに切りかかる為、頭上に大きく振り上げたが『ボッ』振り上げた剣の先に炎が灯りあっという間に刃先の部分が溶け真っ赤な液体となり男の頭上から降りそそぐと余りの熱さに悲鳴も上げれず悶絶する


テーブルの先に居るフィールがその男に翳した右手を下す


「なぁそこのゴミ・・何、俺の所有物に欲情してんだぁ?」


ロンと呼ばれる人物は立ち上がり、フィールとフィーネを両手を広げ抱き寄せると右手でフィールの胸を左手でフィーネの胸を乱暴に揉みながらフィールとフィーネの絹の様な頬を下品に舌で舐める


そんなロンの事を恍惚な表情で見つめると、二人でロンのローブのフードを優しく後方にズラす


「なぁぁ!?てめぇぇ何モンだぁ?」


ロンの顔を見て唯一立ってる男は驚く


「ふふ・・随分だな・・・これでも結構な男前だと自負してんだがなぁ」


ロンと呼ばれる男の髪は軽くウェーブの掛かった薄い緑色で綺麗に整えられている、左の青い瞳に対し右の黄金色の瞳は時折七色に怪しく輝く


確かに自分で言うだけあり、人目を惹く凛々しくも整った顔つきだ


「まずそこの汚いゴミを片付けよう」


ロンは左手をかざし、片腕を無くし痛みで口から泡を吹いて痙攣する男と頭部の火傷でのた打ち回る男に向ける


【雹】(ひょう)


そうロンが小さく呟くと男達の身体は一瞬で霜が付き凍り付いた様にピクリとも動かなくなった


「ひぃぃ貴様・・・いや貴方は・・・貴族・・様・・・魔法が使えるという事は・・・どこぞの貴族様ですか!?」


男はその場に土下座する


「この度は騎士の身で大変失礼な態度をぉ!どうかお許しください!!!」


ロンは男の目の前に屈むと、男は気配を感じ青くした顔を恐る恐る上げる・・・そこには不気味な笑みを見せるロンの美しい顔があった


「なぁゴミぃ・・俺はお前等の言うところのクソな魔法使いでもなければ貴族とか言うクズでもない・・・敢えて名乗るなら・・」


「悪霊の王(オベリスク)のロンとでも名乗っておこう」


「ま、まさか・・最近地方で魔法使いと騎士を惨殺して回ってる・・・マジック・キラーか!?」


「何とでも呼べば良いさ・・どの道お前ら全員地獄行きだぁククククッ」


「ま、まてっ俺を助けろ!!そ、そうだこの村に逗留してる伯爵の居場所を教える!」


「なんだぁ?自分の主を売る騎士とか笑えんなぁ・・・フフフフ」


「まぁ分かった、俺の質問に答えたら殺さないでおいてやる」


命が助かると判り男は安心したように笑顔でロンに何度も頭を下げる


「お前、ゼスと言う雷光の魔法を使う男を知らないか?」


「ゼス・・・ゼス・・・?」


「知らないなら生かしとく意味は無いな・・・」


「まって!まって・・・え・・・え――・・あ!?そう言えば、前に首都グランディに行った時に北東に位置するベニス法国との小競り合いで雷光の魔法使いが手柄を上げたとか聞いたこと有る!」


「そうか・・あとディーブル伯爵の居場所だが・・まぁ、それは良い・・だいたい解る」


ロンは立ち上がり、フィールに目線で合図するとフィールは腰の袋から取り出したお金をテーブルに置く、奥の厨房の方から此方を伺う様な目線を感じるので、店主は此方を伺って奥に隠れているんだろう


「一応貴重な情報を提供してくれたんで、約束通り殺さないでおいてやるよ、行くぞフィール、フィーネ、クソ貴族狩りだぁ」


ロンは二人の美女の肩に手を回しながら凍った連中を軽く蹴り、粉々に打ち砕いてからフィールが開けた酒場のドアから出る寸前にもう一度騎士の方を振り返ると、粉々になった仲間を見て腰を抜かして失禁していた


『自分の剣で喉を掻っ切れ』


そうロンが男に告げると、男の目が白目を剥き自分の剣を鞘から抜くと刃の部分を首筋にあて躊躇う事無く引き抜いた


男の首から鮮血が噴水の様に吹き出し店の中は血の海となる


「店主、この店の清掃代とゴミの処分費用も上乗せしておいたからなぁ~じゃ達者でな」


先ほどフィールがテーブルに置いたのは金貨5枚・・・普通の家族4人が2年は食っていける程の価値はある


店を出て周囲を見渡すと、民家は明かりが灯ってない・・・が一軒だけ小高い丘の上にある大きめの家だけが窓に明かりを灯してる


「さぁぁて、クズの貴族を狩ってからお前等とお楽しみと行くかぁ」


「ふふふ、それは楽しみですロン様ぁ」


「じゃとっとと終わらせなきゃね♪」




此れはこの世界の絶対的強者、特権階級である魔法使いとその守護者たる騎士が持たざる者から搾取する事を当たり前とする世界で


その理を打ちこわす為、悪霊と呼ばれる存在にその身を捧げ悪霊達の王となった男が世界に復讐する物語

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