色も色々

フジノハラ

第1話



目が見えないというだけで周りからからかわれたりする。


「なぁカズマ、クレヨンかして〜青色とってよ」


そう声をかけられても、目の見えない一馬にはどのクレヨンが青色かは分からないけれど、箱の中に収まっているクレヨンの順番は覚えている。3番目のクレヨンを取って渡すが、返ってきたのはありがとうではなく「ちがうよ〜」だった。戸惑いつつ。

「え?違った?…じゃあ、これ?」と、隣のクレヨンをとって渡してみる。

「ちがうちがう、青わかんないの〜?」

相手の子は言いながら周りの子とクスクスと笑い合う。すると「もうやめなよ〜」と、女の子の一人が言葉とは裏腹に笑いながら言う。

「ちぇ、カズマは青分かんないよな。かわりに俺がとってやるよ。コレな?青色」

そう言って一馬の手にクレヨンを握らせる。

どこの場所からとったのか確認するために、箱の中にあるクレヨンを指で撫でていくと、最初にとったクレヨンの場所のクレヨンが一馬の手にある事が分かった。

「え、やっぱりこのクレヨンであってたんじゃ…」

ため息をついてクレヨンを戻す。

(それとも、このクレヨンは青色じゃなかったのかな…帰ったらお母さんに聞いてみよう)

そう考え帰りの時間まで一人、静かにやり過ごして、迎えに来てくれた母に小走りで近づき、さっきあった出来事を伝えようと口を開きかけて、口を噤み下を向いたまま黙り込んでしまった。

母である美佳みかは一馬の様子に心配したが、暫く様子を見ることにして家路につく。

家についてか すぐに、鞄からクレヨンを出して、一馬は青色のクレヨンを握り美佳に向かって「お母さん、このクレヨン何色?」と、クレヨンを見えるように差し出す。

「んー?青色だよ」

「…やっぱり…」

「どうしたの?」

がっくりと肩を落とした一馬の背中に手を添え顔を覗き込む。泣きそうな目でぐっと堪えている。ギュッと引き結んだ唇を震わせながら口を開く。

「あ、あのね、今日僕、青色のクレヨン渡してって頼まれて、このクレヨンを渡そうとしたのに、ちがうっていうんだ…」

「うん、それで一馬はどう思った?」

「分かんない…分かんないけど、なんかイヤだった」

「そっか、イヤだったんだね。一馬はみんなと同じものがみえた方がよかった?」

「?…ん〜、みんなと同じのが見えてもあの子と同じことを僕もしちゃうのかな?それは、イヤだな…それに僕、見えなくてもちゃんと分かる事があるんだよ?」

「うん、そうだね。一馬は強い子だね」

一馬は最初ピント来ていなかったが、少し考えてから悲しそうに呟いて、美佳の方に顔を向けて自分にも分かることがあると言う。その言葉を聞いて美佳は自分の胸に暖かい想いが溢れ、一馬を抱きしめる。

「ホントだよ?僕ね分かるんだ。みんなが言う色とは違うかも知れないけど、お母さんのあったかい色が分かるんだ。さっき話した子達からは冷たい色を感じたよ?あとね雨がふったときのやさしいワクワクする色とか、お日様のヒカリがあったかくギュッてしてくれる色とかね?ちゃんと分かるんだっ」


自信満々にそう言い切る我が子がとても誇らしかった。色を知らないこの子は、誰にもない色を持っている。

この子がその色をなくしてしまわないようにいつまでも見守っていきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色も色々 フジノハラ @sakutarou46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ