糸
@ShobirDm
ひいて、ひかれて
朝6時を知らせる目覚ましを止めて
布団に潜り込む。
別に寒くもないけど潜り込みたくなって、
理由は明白で、朝が嫌いだから。
窓から差し込む光が眩しくて目があけられない。そんなことをぐだぐだ考えてると
気づけば6時20分になっていた。
そろそろまずいな、と布団からでてリビングへと歩く母の気配はない。
今は朝ご飯が食べれる気分じゃないが食べないと母からまたお小言をもらいそうだな、でも食べたくない。
あーあ。学校、行きたくない。
もし学校に行けば好きな人、先輩に会える。
でも会いたいし会いたくない。
先輩の言葉、行動で一喜一憂して勝手な妄想で
見ることも聞くこともしたくないと考えが募るようなぐるぐるした思考がずっと前から離れない。
先輩のことが好きなのに、会いたくないし
話したくない。
でも話してないと落ち着けないし不安になる。
面倒な思考を繰り返す自分に嫌悪感が止まらない、憎悪も増えていく。
なんで好きになっちゃったんだろう、
まず本当に「好き」なのかな、尊敬と敬愛を
間違えたらおしまいなのにもどかしい。
わからないから伝えられない、
でもこの想いを知ってほしい。そしてどうか、笑ってさようならと言われたい。
不安定な台の上に心がボールみたいに
ころころとバランスをとりながら動いてる気分
だからなのかな、言えたらどれほど楽なのかな、断られても私は普通の生活を送れるのかなとかずっと考えてしまう、
どうしようもなく頭から離れない。
好きな人、先輩のことが。
『6時35分になりました』
わ、まずい、早く支度しなきゃ。
食パンと野菜ジュースを口に入れて、
洗面所に向かった。
顔を洗って、制服に着替える。
今日も暑いかな、日焼け止め塗らないと。
そろそろ外に出よう、行かないと間に合わない。
「ねぇ、お前さ好きな人いるの」
とバイト先の先輩は言った。
「そうですね、好きな人はいます」
と言うと先輩から少し驚いた顔をされる。
「珍しいな、いないと思ったんだが」
「失礼ですね?私にも好きな人の1人や2人いますよ」
ムッとした自分がそう言うと、話を聞いていた友達2人もびっくりしていた。
「えー?!なになに好きな人いるの?!」
「いるんだ、驚き」
と好き勝手に言っている。
心外だなぁ、まったく。
「なんでそこまで言われる???」
「ごめんごめん。で、どんな人なの??」
「........学校の、先輩です」
「え!!凄いいいじゃん〜!青春〜」
きゃ〜!などと女子の友達が乙女な反応をして騒いでいる。でも先輩は微妙な顔、もう1人の友達は目を丸くしていた。
「お前、付き合ったらメンヘラなりそうだよな」
と先輩は言った。何だこの人。
「なんですかそれ。先輩本当に最悪。」
「なんで最悪なんだよ!このメンヘラが」
「うるさいですよメンヘラ製造機の癖に」
「先輩に対してそう言えるのお前だけだからね??」
まったく先輩は、デリカシーないな。
「私、そろそろ帰ります。お疲れ様です」
「うちもそろそろ帰ろっと、お疲れ様でーす!」
帰ろうと思い、私と女子の友達は席を立つ。
「おつかれー、頑張れよ」
と先輩が言う。
「頑張れってなんですか」
「しっかり気持ち伝えないとだめだぞ、若者」
先輩は少しニヤついて言う、腹立つなこの人。
「先輩に言われたくないですね」
「はぁぁ???うるさこいつまじでっ」
と騒ぐ先輩の隣にいる男子の友達は、
ニコリと笑って
「気をつけてな」
と一言くれた。
「うん、ありがとうまたね」
帰宅して、自部屋に籠る。
スマホでSNSを開く。
そういえば日中に先輩からLINEきてたな、
返せなくてこんな時間まで放置しちゃった。
流石に返信しないと失礼だよね。
でも書くことがない。
ないというより書けない。
一歩間違えたら気持ちを溢してしまいそうで、
手が動かせない。
辛いな、こわい
でも話さないと遠くに行ってしまいそうでもっとこわい。
今ここで伝えないとダメな気がする。
表を見るだけではわからない私のキモチを文面に綴る。
「今の私の心は
永遠に続く青空が広がるばかりです」
意味のわからない文を送ったなぁと後悔が押し寄せる。でもわからないぐらいが丁度いい。
すぐにはバレない私の今の心の色、
わかってもらえなくていい。
これが私だと、一方的だけどもあなたに知ってもらいたかったから。
こんな私に好かれてごめんなさい先輩。
でもね私後悔はしてないんです。
電子の向こうにいる先輩にはわからないからこそ、私は空想の世界でなんでもあなたに言えるし、行動できる。けれど現実の自分は
あなたに見惚れてる今はすごく幸せでも辛い。
何が辛いのかはわからないし、わかりたくもない。でも妄想は自分勝手な都合のいい甘い言葉も行動を夢見ても誰も知る術はないから、
迷惑がかからない。だけど寂しい感じはする。
埋まらない感情を伝えたいけど、伝えたくないなどと面倒な自分に嫌気が増加する。
「辛い、な」
勝手に涙が出てくる。
溢れ出して止まらない。
何に泣いているかもわからないけれど、
先輩の事は頭から離れない。
「好きだなぁ」
ぽつりとしたこの音を聞く人は誰もいない。
携帯にはいつの間にか先輩からの返事が返ってきていた、が今見る勇気は私にはない。
見たくない。少しの言葉でも心があやふやになる自分にはあまりにもこわい。
でも言わないと何も始まらない。
この感情の種を、花が咲かずに枯らすなんてことはしたくない。
見れそうな時にLINEを返そう、すぐに返せなくてごめんなさい先輩。
スマホの画面を閉じてベットに潜り込む。
好きという2文字がこわい。
でもあなたにこれを直接言えたらどれほど嬉しいんだろう、言うよりも先に会いたい。先輩に会いたい。
「好き、なんです」
また気持ちをぽつりと音にする。
誰にも届かない、音。自由な言葉、甘い音。
ねぇ、一方的に愛を語らせてよ、先輩。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます