帝国の姫と王国の王子『竜を屠ろう』
安ころもっち
よし!竜を屠ろう
『全知全能』と言う稀有なクラスを持って生まれた帝国第一皇女・エリーザ。
男なのに『聖女』と言うクラスを持って生まれた王国皇太子・ラインハルト。
そんな二人は思った。
「よし!竜を屠ろう」と…
◆◇◆◇◆
私はエリーザ・マルクレス。この帝国の第一皇女にして剣術を極め、聖騎士隊の隊長を務めている。
剣術に飽きた私は、すでに魔術も極めてしまい、今では魔法剣士を名乗っている。
そんな私の次のターゲットは錬金術だ。
私の『
そしてあらゆる秘薬を作る毎日。
だが
あらゆる病気やけがを治し、寿命すら伸ばすと言われる伝説の魔法薬、
足りないのは竜の血…
どこかに倒してもよさそうな竜はいないものか。
悶々とした日々を過ごす。
◆◇◆◇◆
私はラインハルト・レイドザード。この王国の第一王子だ。
男だというのに『聖女』を賜ったことに恨みはない。
国民にも概ね好評だ。
怪我や病気を癒し、『結界』で国を守ることができる。
良い王になると言ってくれている。
だがなぜ!可愛い妹、セリナの病気だけは治らない!
私はレベルが足りないのかと思い、毎日迷宮にこもりひたすら腕を磨いた。
今では最下層のボスすら『結界』で押し潰せるほどに鍛え上げ、治癒においても欠損も一瞬で直せるほどになった。
それでも寝たきりで起き上がることすらままならない妹を見て、何もできない自分を恥じた。
これは伝説の
その為には材料は足りない。
さらに言うと材料を揃えたとしても、作り方ははっきりと分かってはいない。だが何もせずこのまま時が過ぎるのを待ってはいられない。
竜の血…
たしかこの国の西側、帝国の国境付近の山にいるはず…
「よし行こう!」
私は決意して父に出発を告げる。
危険な戦いになることは分かっているので、一人で行くと言い切った。一人の方が自由に動ける。何より他の者がいては正直足手まといになるだろう。
1時間ほど走るとその山の麓まで到着した。
さらに30分ほど。
『結界』をゴツゴツした地面に使いながら軽々と登ってゆく。
あれが言い伝えの竜。
中腹を少し過ぎたところで遭遇したその竜の漂わせている魔力の波に震えが来る。
まだこちらに気づいてはいないようで、丸まって眠っているように見える。
私は国宝の聖剣をゆっくり抜くと、『結界』の刃を幾重にもかぶせ本気の一撃を放つ用意を終える。
「セリナのためにも、覚悟!」
私の一撃を放つ瞬間、目を開け態勢を整えた竜の翼の防壁により、その一撃は弾かれてしまった。
強い!
そして開いた口から放たれるブレス。
灼熱の炎が広範囲でばらまかれ周囲の温度が上がる。
それを広範囲の『結界』でしのぐ。
これは…倒せない…
それどころか街にまで被害が…
それからは必死であった。
とにかく背後に被害が出ないように『結界』を張り続ける。
何度も何度も吐き出されるブレス。
時折長い尾を振り回し『結界』を砕こうとしている。
どれほど経っただろう。
長い時間朦朧としながらも『結界』だけは絶やさぬよう歯を食いしばる。
そしてそろそろ限界が見えてきた頃…
竜は飛び立って行った…西の方へと…
◆◇◆◇◆
「何!王国から竜が攻めてきただと!」
日課の片手腕立ての鍛錬の最中、同じ聖騎士隊の団員から報告が上がってきた。
なんでも王国の国境付近に強固な『結界』が張られ、竜をこちら側に追いやろうとしている者がいたようで、追いやられた竜が既にこちらに向かってきているという。
「このままでは街にも被害が…」
これは、行くしかない!
私はこのチャンスを逃すまいと『
「あれが…」
目の前には紛れもない竜が呑気に翼をばたつかせている。
『
私の最大奥義を叩き込み、その首を一撃の元、切り落とす。
落ちてゆく竜を見ながら『
我ながら良い手際だ。
これで
好奇心が抑えられずにまず1本!と
これで私の知的好奇心は満たされた。
次は何を学ぼうか、そう思いながらも、後で可能な限り
そう思ったが次の瞬間、なんなら竜の素材を使って鍛冶職に挑戦!なんてのも良いかも?そう考えてしまった自分を「天才だ」と自画自賛し、笑みがこぼれる自分を抑えつつ自室へと戻った。
その数時間後、隣国である王国の皇太子が『謝罪に訪れたい』との書面が届いたと報告を受ける。
「いやいいよ別に。被害無かったし。むしろ感謝したいぐらいだし」
「それが、どうしてもと言って、すでに城まで訪問されており、今は貴賓室でお待ちいただいています」
その言葉を聞いて、面倒だと思ってしまうが仕方ない。
私はその皇太子と会うことを余儀なくされ、両親と共に玉座の間にて彼が来るのを待った。
◆◇◆◇◆
なんという強さだ。
あれが帝国の怪物、破壊神エリーザ姫…
私は西側に飛んで行ってしまった竜が、首を一撃で落とされるのを見ていた。
しかし経緯はどうであれ、帝国へ飛んでいった竜について、敵対している意図は無いと伝えねば、そう考えすぐに帝国へ向かう準備をする。
そして誠心誠意でお願いし、あわよくば竜の血を分けて頂けないかと…たとえこの頭を地面にこすりつけ、命を差し出そうとも…
決死の覚悟で城まで赴き、門番に直訴する。
本来はこんな無礼な訪問に応じてくれるはずはないと思っていたが、急を要する事態だと思ってのことだった。
幸い、エリーザ様とお目通りが叶うことになった。
城の王座の間で相まみえたエリーザ様は、とても竜を一撃で屠る破壊神には見えないほど美しく、そして凛とした瞳に目が奪われてしまう。
「ラインハルト・レイドザードと申します。レイドザード王国の第一王子として深く謝罪をさせて頂きにまいりました。この度は貴国には多大なご迷惑を…」
「いや大丈夫、一撃だったし」
私の言葉にそう即答するエリーザ様。
「そのようですね、しかし謝罪はさせて頂きます。…その上で厚かましいとは思います。竜の血を、少しだけでも良いので頂けないでしょうか?」
「竜の血?良いけど?でも何に使うの?」
あまりにあっさりとした返答。戸惑ってしまう。
「
「ああ、これ?」
エリーザ様は青く輝く小瓶をどこからか取り出し、そして振ってみせてくれる。
あれが
「それは…」
「
「ああ…」
私はエリーザ様の取り出した
これで妹を…セリナを助けることができると…
「ちょ、ちょっと…」
エリーザ様がさっきまでの冷静な顔をくずして私に駆け寄ってくる。
私は思わず縋り付いてしまった。
「何でも、何でも致します。それを…わが妹に…」
そんなことを言いながら、無様に何度も懇願するしか無かった。
◆◇◆◇◆
王国の皇太子がやってきた。
話を聞くと、謝罪と一緒に竜の血がほしいらしく、
でも作り方は分からない?
私は『
これを渡したら帰ってくれるかな?と思っての事だったが、予想に反してその彼は泣き出したので思わず下に降りると、縋り付かれてしまった。
「何でも、何でも致します。それを…わが妹に…」
そうか。妹君の為にあんな無茶を…そう思うと泣きじゃくる彼にちょっとキュンと来てしまう。これは私も顔が赤くなってるのでは?と焦る。
初めての経験に戸惑っていると、何も言わずに座っていた両親が何故か退場する。
おい!クソ親父!なんだそのニヤついた顔は!やめろー!
心の中で悪態をつくが、部屋に残ったのは私とこの泣きじゃくる彼だけだった。
「心配しなくてもこれは差し上げるよ。妹君に使うのだろ?」
「本当に、良いのですか?私ができることならなんでも致します!このご恩を一生かけて償います!」
そんな彼にまたもキュンとしつつも、私は思い出す。
「そう言えば、君は聖女であったな」
「はい。恥ずかしながら」
私から離れた彼は、赤くなった顔を上げそう答える。
「何を恥ずかしがる。レベルも高いようだ。ひとつだけお願いがあるのだが…」
「私にできることなら何でも」
丁度ついさっき両親がいなくなったのを良いことに、王座の裏から続く宝物庫へと彼を案内する。
「これなのだが」
「これは?」
「この国の宝、多分だが私が王となる際の儀式で使うであろう杖だ。少し実験をしていたらこうなった」
煙のような黒くおどろおどろしい何かが周りを渦巻いている。
「呪いのように見えます」
「『
そう感じてしまうのも『
その『
「やってみます」
そして彼が手をかざし、光が舞うとあっさり『
「おお!良かった!これでクソ親父の小言も、母上のご飯抜きもくらうことも無い!」
「その、姫様…」
私は思わず彼に抱き着いてしまった事に気づき、体を離す。
彼が赤くなっているのを見て、私もかなり恥ずかしさが込み上げ顔が熱い。
「その、この城のシェフが作る料理は逸品でな。母上は事あるごとに飯抜きを言い渡すのだ。外で食べるともう…残飯を食べている気になるほどなのだ…」
空気を変えたくてそんな話をする。
「それほど、美味しいのですか?」
「ああ。君も食べて行くと良い。きっと今後の食事が苦痛になるよ」
「それは…迷ってしまいますね。そんなに美味しいのなら、いっそこの城に住んでしまうのも一興でしょうか」
「この城に住む?」
面白い冗談を言う。と思ったが、私が口にした言葉に、皇太子の顔がまた赤くなる。
「いえ、その、深い意味は無く…冗談、と言いますか…」
小さくなってゆく声にその意味を理解して、私まで赤くなってしまう。
「あの、姫様。今度は私の国に来てくれませんか?妹に、元気になった妹にあってほしいのです」
「あ、ああ!そうだな、それがいい!すぐにでも行こう!善は急げだ!元気になってからではなく、早く
焦る私の口が勝手に動くので、変なことを口走っていないか心配になる。
宝物庫から出ると、まだ誰も戻ってきていないことにホッと胸を撫でおろす。
早く妹君へ
それは即座に了承され、母上の命により電光石火で馬車は用意されてしまった。
「では行ってくる」
「ああ。エリーザもゆっくりしてくるといいよ。フフフ」
ニヤつきながら私を送り出すクソ親父と、扇子で顔を隠しながら恐らくニヤついているであろう母上。
その様子にイラつきながらも、王国への馬車に乗り込む私とラインハルト。
こうして、私と、彼の、二人の愛?の物語が動き出してゆく。
帝国の姫と王国の王子『竜を屠ろう』 安ころもっち @an_koromochi
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