ヒカリの巨人の異世界転生
タヌキング
さらば異世界、さらば第二の故郷の星よ
男勇者ヒカル、女僧侶ソフィア、男戦士バルガス、老男魔法使いゲジゲジの四人は、暗黒大陸の草原にて、とうとう魔王である黒龍王を追い詰めた。
「ふはは‼よもやこの私がここまで手傷を負わされるとはな‼」
「黒龍王‼貴様の野望もここまでだ‼」
「ふはは‼勇者ヒカル‼この黒龍王をただの魔王と思うなよ‼私はまだ一回変身を残している‼」
「なん・・・だと‼」
ヒカルは戦慄した。やっとの思いで追い詰めた黒龍王がまだパワーアップするなんて悪夢でしかなかった。
「見せてやろう‼ぶらぁああああああああああああああああ‼」
黒龍王が雄たけびを上げると、その体はどす黒い光に包まれ、ムクムクと巨大化していき、全長40メートルはある二足歩行の巨大な黒い龍の姿になった。
「ぶらぁああああああああああ‼こうなった私は先程の私より優しくはないぞぉおおおおおおおおお‼」
「そ、そんな・・・もう駄目だわ。」
あまりのことにソフィアは持っていた杖を地面に落とした。杖はカランと切ない音を立てて地面に転がる。
バルガス、ゲジゲジも、戦意喪失してその場に立ち尽くしていた。
しかし、勇者ヒカルだけは諦めていない。彼の辞書に諦めるという言葉は無かった。
「敵が巨大なら、コチラも巨大になるしかない。」
徐にサングラスの様な物を取り出すヒカル。
ソフィアはそれに見覚えがあった。それはいつかの夜、ヒカルが自分を抱いた後、悲し気に眺めていた物であった。
それは何ですか?と聞いたが、はぐらかされたのを彼女は鮮明に覚えていた。
「ヒカル様、それは?それは一体何なんですか?」
あの日の夜と同じ質問をするソフィア。今度は勇者ヒカルは、ちゃんと答えた。
「これはね。僕が元の姿になる時に必要な物なんだ。」
「元の姿?」
「僕は、僕はねソフィア。この異世界の住人でも無ければ、元の世界の星の人でも無いんだ。僕は第二次α星雲の星からやって来た宇宙人なんだ。」
「えっ⁉」
ソフィアは驚いた。ヒカルが異世界人であることは知っていたが、宇宙人ということは全く知らなかったからである。何となくピアノの曲が聞こえてきた気がする。
「僕の名前はブレイブエイト。太陽系のパトロール調査員なんだ。」
「そ、そんな・・・何て言えばいいか分かりません。」
自分の愛した人が宇宙人だと知って戸惑いを隠せないソフィア。だが時は待ってはくれなかった。
「ぶらああああああああああああああ‼メロドラマなんてやってんじゃねぇ‼」
黒龍王の怒号が響き渡る。それはヒカルがブレイブエイトとして最後の戦いのしないといけないということであった。
「ソフィア、僕は改造ライスドンという敵との戦いの後、この世界に飛ばされた。奴との戦いで僕の体はボドボド・・・いやボロボロ傷付いている。おそらくこれが最後の変身になるだろう。この戦いが終わったら僕は元の世界に帰って、故郷の星に帰らないといけない。だから君ともお別れだ。」
「そ、そんな。行かないで‼」
追いすがる様にヒカルの右手を掴むソフィア。しかし、ヒカルはその手を払いのけた。
「世界最強の相手が待ってる。だから行かなきゃな。それではサラバだ。異世界の友、そして愛しき人よ。ジュワ‼」
サングラス型の変身アイテム『ブレイブアイ』装着して、ぐんぐんアップで巨大化して行くヒカル。姿も銀色の巨人ブレイブエイトに変わり、これで黒龍王との体格差は無くなった。
一番驚いたのは黒龍王である。よもや自分と同じようにヒカルが変身するとは思ってもいかなった。
「き、貴様は何者なんだ‼」
「俺か?俺は貴様を倒す者だ。」
こうして激しい戦いは始まり、最初はブレイブエイトの方が優勢であったが、幾多の戦いを経てボロボロの体を押して戦っていたブレイブエイトだったので、徐々に黒龍王の方が盛り返してきた。
「死ねぇ‼」
黒龍王の振り回した尻尾がブレイブエイトに迫る。ブレイブエイトは両腕でそれを防御したが、それでも威力に耐えかねて吹っ飛ばされて地面に倒れ伏した。
「へア‼」
“ズズンッ‼”
「ふん‼これで終わりだぁああああああああああ‼」
トドメを刺す為に大きく息を吸い込む黒龍王。必殺のドラゴンブレスを吐き出すつもりである。
ブレイブエイトも両手をバツの字に組んで、ブレイブ光線を出そうとしたが、もはや光線を撃つエネルギーは残っていなかった。
万事休すと思われたその時、巨大な剣が彼の前に出現した。
それは自分が人間状態の時に装備していた、魔王を倒す力を持つ伝説の剣『天空剣』であった。
「ヒカルさまーーーーーー‼ゲジゲジさんの魔法で『天空剣』を巨大化させました‼それを使って下さーーーーーーーーーーーい‼」
下から聞こえるソフィアの声。愛した彼女の為にもブレイブエイトは負けるわけにはいかなかった。
最後の力を振り絞り、ブレイブマンはブレイブ念力で『天空剣』を宙に浮かせて、そのまま黒龍王の首めがけて飛ばした。
「何ぃいいいいいいいいい‼」
ブレスの態勢で動けなくなっている黒龍王は何もすることは出来なかった。
“スパンッ”
呆気なく落とされる黒龍王の首、そしてそのまま『天空剣』は黒龍王の体に突き刺さる。
“ズサッ‼”
その瞬間、黒龍王の体は爆発四散した。
“ドゴーーーーーーーーーーーーン‼”
理屈は分からんが、これが黒龍王の最後であった。
「やった‼・・・やったわ‼」
嬉しさで涙を流すソフィア。これでこの世界に平和が訪れたのである。
ブレイブエイトも自分の役目を終え、満足した気持ちで立ち上がる。そうしてソフィアの方を見下ろした。
「ヒカル様。」
ソフィアはこれがヒカルとの今生の別れになる事を理解した。だがしかし、彼女は期待を込めてこう言った。
「シーユーアゲイン。」
ブレイブエイトはそれを聞くと、深く二回頷いて「ジュワ‼」という掛け声と共に空に向かって飛び上がり、何処までも澄み切った青空にの中に消えて行った。
ソフィアは彼の消えた青空を見ながら微笑み。
そして自分のお腹を優しく擦った。
彼女はヒカルとの間に身ごもった子供に零(ゼロ)と名付け、彼もまた英雄として名を馳せるのだが、それはまた別の話である。
Fin
ヒカリの巨人の異世界転生 タヌキング @kibamusi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます