本の生る木

 その村は、本をつくってお金を得て、村人たちは暮らしを立てていました。

 いちばん大事なのは、本が取れる秋かと思いきや、本の生る木に物語を吹き込む冬だそうです。この時季にたくさん物語を木に与えないと、次の年の秋に、よい本が取れないそうなのです。


 冬。温暖な地域にあるとはいえ、その村も十分に寒い季節。

 村人たちは、それぞれの物語を木に語ります。

 年少者は、自分がおとなから聞いた童話、新しく得た知識、森で体験した怖いことや川辺で拾っためずらしいものの話をしました。

 若者たちは、将来の夢や恋の話を主にしました。もちろん、読んで感銘を受けた本の話もします。

 子を持つ親の世代は、子を持つ楽しみと苦労、生活のあれこれなどを主に話しました。

 そして、老人は、自分の昔話を木に聞かせました。

 それらが木の養分となり、秋に立派な本を実らすのです。


 春から夏にかけて、若い木はすくすくと成長しますが、樹皮や葉っぱを目当てに、やぎやひつじが木に近づく季節でもあります。やぎとひつじは、本の木が大好物で、放っておくと、むしゃむしゃと食べてしまいます。そのとき、活躍するのが犬です。犬は木の周りを寝床にして、やぎやひつじが来るたびに、ワンワンと吠えて、彼らを追い払うのでした。そして、暇なとき、犬もまた、自らの物語を木に聞かせるのでした。それに対して、木は、育った枝葉のざわめきで答えるのでした。ちゃんと聞いているよと。

 この時季は受粉の季節でもあります。

 咲き乱れる、黒と白の混じった花に目がけて、人は冬の間に育てておいた、本の虫を放ちます。すると、蜜蜂に似たその羽虫は、本の木の間を飛び交い、受粉の手助けをするのです。花の蜜をご褒美に。


 やがて、秋になると、たくさんの本が、本の木に連なります。本の木の森に、栗色の本が生る様は、なかなかの見ものです。

 村人たちは本を一冊、一冊、大事にもぎ取って、表紙をきれいに拭きます。

 それから中身を確かめて、これは子供用、これは若者用、これは大人用と種類ごとに分けて、出荷します。ベテランになると、表紙を見ただけで、本の中身がわかるようになるそうですが、そうなるには、かなりの年季が必要だということです。


 読書の秋。出荷された本は、国のあちこちで売られ、人々を楽しませるのでした。

 村の若い者の中には、外国産の本の木の栽培に挑んでいる者もいます。うまくいくといいですね。


(色:ちゃいろ×干支:戌×星座:ひつじ)

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