正体
世を捨てた侍が、一晩の宿を求めて、ある村へ立ち寄ったところ、村の様子がおかしかった。
聞いてみると、山にある社に住む神のもとへ、毎年、人身御供として若い女を差し出さねばならないとのことで、ちょうどその日が、その年の期日であった。
「若い女の命を求めるなど、それは神さまのなされることではない。きっとあやかしのたぐいであろう」
義憤に駆られた侍は、女を差し出す行列に加わった。
女を社の前に置くと、村人たちは帰って行ったが、侍は残り、遠くから社を見張った。
やがて夜が深まり、社のまわりは漆黒の闇に覆われた。
そのときである。社の中から、「今年のごちそうはおまえかい」と声がして、社の扉が開く音がした。
侍はこのときとばかりに、自慢の弓を構えて、社に向かって矢を放った。
すると、「キキー」という声とともに、何ものかの倒れる音がした。
侍がその正体を確かめてみると、老いた大猿であった。
侍は人身御供となるはずであった女と結婚し、やがて、その村の長となり、その地で死んだ。
(色:くろ×干支:申×星座:いて)
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