第11話 時透美結 ④



「美結はえっちな子だったんだね」


 そう耳元で囁かれた瞬間、私は頭がぐちゃぐちゃにになり訳が分からなくてなってしまった。

 声を聞かれてしまった時以上に血が上り目がぐるぐると回る。

 カッ!と登って来た羞恥の衝撃が私の脳をパンクさせ思考を破壊した。

 


 それは咄嗟の防衛反応だった。



 だから仕方なかった。



 お兄ちゃんの横顔を



 私の全力右ストレートパンチが———打ち抜く。




 




 スカッ!と私のパンチが空を切る。


 

 ———えっ?



 お兄ちゃんがのだ。



 えええぇぇぇぇぇええ!!!!嘘でしょっ!!?

 

 今顔横にあったよね!?確認せずにパンチしたけど絶対にいたよ!?瞬間移動!?いやいくらなんでもそれは出来ないでしょ!運動凄い出来るからってそれ出来ちゃったらもう悟◯だよ!!


 パニックになりながらも必死に頭の中で状況を整理していく。


 お兄ちゃんは私と同じソファーの横にいて向かい合ってた。

 恥ずかしくて俯いてしまった私へ更に近付いて、そう!耳元に顔を寄せたんだ、その時お兄ちゃんの顔はテーブル側にあったはず、でも次にパンチした時にはテーブル側に顔がなくて…………。

 

 じゃあどこに?と探すまでもなく、すぐ近く真横にいた。丁度手相を見てくれた時と同じ場所?少し離れてる様な気がする…そこで笑顔を浮かべるお兄ちゃんがいた。

 

 羞恥心なんてとっくに吹き飛んでいる、そんなことより今の摩訶不思議な現象の方が気になって気になって仕方がない。


 まさか本当に避けたの?私結構本気でパンチしたよ?当たらなくて本当に良かったけど……でも仮に避けたとしても動いた気配ぐらいは感じるはずだよね?私全然そんな気配感じな———


「うぉっほん!」

「っ!?」


 お兄ちゃんの咳払いで現実へ引き戻されてしまった、私は疑問より単純に今起きた不思議な現象が気になり聞いてみようと思った。


「お、今、消え——」

「た……ええええぇえぇぇぇ!!??」


 お兄ちゃんの告白を聞いた瞬間、今までのことが全て吹き飛ぶほどの衝撃がガツン!と脳を揺らす。


 どゆこと!?どゆこと!?どゆことおぉぉ!!??

 私今好きって言われた!?言われたよね!?

 ライク?ラブ?ううん、そんなことどうでもいい!聞き間違い!?いいえ聞き間違いじゃないですー!!しっかり聞きましたぁ!しっかりこの耳で聞きましたもんねぇー!?ぱーどぅん!?


 驚愕と歓喜で私が犯される、待ちに待ち焦がれに焦がれたその思いが今日やっと結ばれた。

 もうこの愛を我慢しなくていい、全部全部ぶつけていいんだ、だってお兄ちゃんも私のことが好きなんだから。

 最愛のお兄ちゃんの顔を見みると真剣な表情だった、でも凄く辛そうな表情でもあった、きっと沢山溢れる私への愛情を今まで我慢してきたから辛いんだよね。

 私も辛かったんだから分かる、こんなとこまで一緒なんてちょっと相思相愛、以心伝心過ぎて恥ずかしくなっちゃう。


 

 慶二の心境は残念ながら違う。


 この好きは言わば隠れ蓑なのだ、やばいバレると思った瞬間口に出てしまった咄嗟のである。

 しかし咄嗟のこの判断は成功でもあるが失敗とも言えるだろう。

 好きと言う言葉で美結の疑念は綺麗さっぱり消えた、これは慶二の目論見通り成功だろう。しかし美結がまさか表面とは裏腹にガチラブである事を知らないが故に言ってしまったこの告白は確実に後戻り出来ない状況を作り出す大失敗と言えるだろう。

 慶二は嘘で好きと言ったがそれは当然、拒否されると思うからこその一手だったのだ、それをまさかOKをもらえる状況になりかけているとは思いもしないだろう。


「美結俺はお前が好きなんだ」


 だから慶二は再度繰り返す、美結の思考回路が絶頂期を迎えているとは知らずに。

 美結の頭にあったのは勝利と欲望だけだった。


 はい勝ち!!美結ちゃん大勝利!!見たか!女狐共!これが同じ屋根に住む妹の強さなんですぅ!精々明日から枕を濡らして今まで通り寂しい夜を過ごしてくださいー!!

 美結ちゃんこれからお兄ちゃんと沢山ちゅーして抱き合ってそのままゴールインっ!!!

 それに明日は休みっ!!お兄ちゃんと心と体を溶かしあいながら一日中イチャイチャ出来るっ!!!

  

 「美結?」


 ———はっ!?


 そうだ返答しなきゃ!でもなんて言えばいいのかな!?ありがとう?…違う!よろしくお願いします?違うよなんか固い!!もっと良い言い方があるはずでしょ!!


 何かないかと考えるがこれが中々出てこない、出てくるのは何故か今までの失態や態度、発言だけだった。

 

 あっ!そうだ!今まで沢山酷いこといっぱい言っちゃったし沢山冷たくしちゃたし!まずはそれをだよね!!


 嬉しいのに申し訳なくなって来てしまう。

 そんな思いが段々と強くなり———私は判断を間違えてしまったのだ。



「お兄ちゃん!!ごめんねっ!!!」




 お兄ちゃんは家を飛び出した。







 





 

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