第10話 時透美結 ③

 『隣に座ってもいい?』


 お兄ちゃんから発せられたその言葉が一瞬理解できなかった。

 

 隣に座る?隣……座る……それって!!私の横じゃん!?

 どどどどうしちゃったのお兄ちゃん!?なんかおかしいよ!?昨日なんて私の胸触ってくれたのに次は寄り添って座りたいなんて!!今までそんなこと一度もしてくれなかったのに!どうしよどうしようっ!


 嬉しいがボロが出ないかと心配の方が大きいのだ、会話するくらいであればドキドキはするがいつも通りに出来る。


 だがここ数年ずっと接触がなかったばかりに免疫が極端にない、昨日の様に過度に接触されるとパニックになり頭がショートしてしまうのだ。

 

「美結?」

「ななななに?」

「なにって、隣座っていいかなって……やっぱり嫌だった?」

「す、すきに、すれば」


 もぉぉお!!また冷たくしちゃった……折角のお兄ちゃんとの時間なのに、これでもし『やっぱりいいや』なんて言われたら暫く立ち直れないよぉ!!



 ———どすんっ



「じゃあ

「ぇ」



 ———お、お兄ちゃんが隣に座ってくれたぁぁ!



 寄り添うほどの距離ではなかったが、十分近い、それだけで私は有頂天になれる。


「そうだ美結、貸してくれない?」

「へ?う、うん」


 手?どうして?


 疑問に思いつつも両手を差し出す、するとお兄ちゃんが私の両手の裏をそっと握るようにし手をひらを上に向ける。


 はわぁぁぁ!!握られちゃったよ!!これってお兄ちゃんもう私のこと好きだよね!?絶対好きだよね!?


 手は好きな人とだけ繋ぎ、握り合うもの、私の認識だ。

 だから男の人と付き合ったことなんてないし、学校にお兄ちゃん以外で気になる人なんていない。

 私の心と体は全部お兄ちゃんのもの、お兄ちゃんの心と体は全部私のもの。

 浮気しちゃ…ダメだからね、お兄ちゃん?


「美結の手相見たいなって、だから?」

「手相…って、そ、そんなの分かるの?」

「勉強したからね」

 

 お兄ちゃんが親指で私の手のひらをすりすりと優しくなぞり、ゾワゾワとしたむず痒さが背筋にくる。


 ひぃ!?ダメだよ変な声っ出ちゃうっ。


「美結は綺麗な手してるね」

「そ、そう?あ———」


 ありがとう、そう言おうとした瞬間私の胸の先端がくすぐられたように甘く痺れた刺激に襲われる。


「ん"っ!っっぁ」


 もうっ、また!?なんなのこれ!なんなのよ!!


 昨日と同じだった、前触れもなく突然起きた。

 触ってもないし触られてもない、それなのにまるで誰かに私の◯首が触られ虐められてしまったかの様な感覚。

 思わず変な声が出てしまったがお兄ちゃんが私の声に気付いた様子はない、ほっとする。

 手相を見てもらってるだけなのに感じちゃうなんて、こんなんじゃ変態だと思われてしまう。

 それだけはなんとしてでも避けなきゃいけない。


「これが生命線で、これが「んぁっ!?」…美結?」


 またも唐突に起きる。

 胸全体が甘いふわふわとした感覚に対し◯首には強い刺激が走る、その強弱が胸と頭を溶かしに来る。


 まずいまずいまずいまずいよぉ!!

 変な声聞かれちゃう!お兄ちゃんに変な子だって思われちゃうっ!


「なんでもっ、ない……くすぐったかっただけ」

「そう?じゃあ———続けるね?フフッ」

「勝手に、して」

 

 お兄ちゃんは私の様子に気が付き始めている、でもなんとか誤魔化せた。

 我慢出来なくて喘いでしまっても、くすぐったかったと言えばなんとかなりそう、そう思うと少しだけ安心できた……でもその少しの安心も直ぐに塗りつぶされてしまった。

 私に向けられた笑顔が脳に刺さり、ドキドキが止まらないのだ。

 胸が気持ちいいせいで少しずつ疼き出してきた性的欲求、そして好きな人からの接触と優しい言葉、頭が熱を帯びクラクラとし脳がドロリと溶けてしまったかのような多幸感に埋め尽くされ、もうなんでもいいと思えてしまう。


 

「うん、勝手にする」



———10分後



「美結は中心に十字架があるんだけど、これはね…大丈夫?」

「ふぅっ…ふぅっ…んくッブルブル…ふぅっ…ふぅっ」


 頭がクラクラするボウっとする、胸が疼いて◯首がジンジンする、全身がゾクゾクする、腰が重ったるくお腹が熱い。

 どれくらいの時間が経っているのだろう、頭が上手く働かないせいで時間感覚がつかめない。


「また、具合悪い?部屋に「ぁんっ!ぁ"、ビクッ」行きたい?」

 

 もう声は我慢出来ない、手相を理由に誤魔化すにもそろそろ限界だった。

 自分の胸を見ると服の上から大きくなっているのが分かる、恥ずかしい、隠したい、でも両手が塞がれてしまってる、このどうしようもない葛藤が更に私をおかしくする。

 お兄ちゃんにきっとバレてる、目線が胸にいってるのが分かる……でもその事実がどうしようもないほど私を興奮させてしまう。


「ふぅっ、ふぅっ、ンッ……いか、ない」

「そう?じゃあ手相はもうやめようか、くすぐったかったよね?ごめんな美結」


 急に手が自由になり解放される。


 良かったぁ…早く隠さなきゃっ。

 

 見られて興奮はする、でも流石に恥ずかしさが勝ってしまう。

 自由になった両手を———スッ、と胸へ無意識に持っていく。


「ん"ぁあ"んっ!!っっ!?」


 口をバッ!と塞ぐ、だが今更防いだところでもう遅かった。

 

 ———やってしまった。

 

 顔と耳がカッと急激に熱くなるのを自覚する。

 頭に血が上りすぎてるせいか、泣きたいわけじゃないのに目元から涙が滲んでくる。

 解放された、やっと隠せる、そんな安心感から生まれた心の隙。

 最後の最後でついにやらかしてしまった。

 手でおさえようと手のひらと服で敏感になっていた◯首を擦ってしまい、ビリリッ!!とした強烈な快感に襲われ我慢する間も無く声が出てしまった。


  

 もう終わった、ダメだ、言い逃れできない。 

 手相のせいにしてきたけどこれはできない。

 嫌われる、嫌われる、嫌われる。

 嫌われてしまう。

 今まで必死に守り続けた心の仮面がパリパリと剥がれ落ちていく。


「美結」


 お兄ちゃんが優しい声で私を呼ぶ。

 でも、顔が見れない、合わせる顔がない。

 顔を上げられない、そんな私にお兄ちゃんが近付く気配を感じる。



 ———顔の左、丁度耳元の辺りだった。



「美結はえっちな子だったんだね」

 

 

 そう耳元で囁かれた。

 


—————————

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