便利な奴らの超日常

よっこ

第1話 便利な部活と桃色のお殿様

なんとなく中学校生活を終え、なんとなく知り合いの少ない高校に入った。

入学式に行ってクラスメイトと顔を合わせてなんとなく長い話を聞き流した。

次の日もなんとなく先生の話を聞き流すために学校に行く、初日なので授業はなく書類等の配布が主な内容の日だろう、席に座り天井を見る。

「ねぇねぇ‼︎」

担任が挨拶をしたり。

「ねぇねぇ‼︎」

新しい教科書の話を聞いたり。

「ねぇねぇ‼︎」

「何?」

「俺高木健よろしくっ‼︎」

後ろの席の男子がしつこく話しかけてきた、入学早々この中学どころか小学校のテンションが抜けきらない輩には参ってしまう。

「うんよろしく、でもこの後の時間多分自己紹介だしあとで聞かせてくれる?」

得意ではないがこういう人柄は生徒にも教員にも好かれやすいので角が立たぬように返事をした。

「わかった‼︎」

その後は各種書類を配られたり学校のルールについての話が続いた。

「えー、この高校は何か特別な事情がない限り基本的に部活動に入ってもらいます、今から配るプリントは部活の一覧表と入部届です、今日から一週間は仮入部期間ですので放課後になったらいろんな部活を見てきてください」

「ねぇ何部入るの?」

「うーん部活ねぇ、高木くんは?」

「健でいいよ!」

呼び方の匙加減くらいこっちで決めさせてくれよ。

「うんありがと、で健くんは入りたい部活あるの?」

「うん俺はね中学からハンドボールやってるから高校でもそうしようかなって。」

ハンドボール部には入らないでおこう、元々運動部に入る気はないが。

「へぇいいね」

「君も入ろうよ!」

「考えとくわ」

「そう言えば名前なんだっけ?」

「はい皆さん今から自己紹介の時間にします」

「だってさ」

「おう」

「出席番号順に名前と出身中学と、うーんそうですね何か好きなまるまるみたいなのがあったら言ってください」

全く覚える気も覚えられる気もしないので聴いているふりだけして自分の番まで聞き流す、そして前の席のやつ以外の言葉はほとんど覚えていないまま自分の番が回る。

「えぇ、佐武享介です。北中からきました、えっとそうですねテレビを見るのは好きです、よろしくお願いします」

生気のない拍手がうるさく響く、そういえばここ一週間はテレビといえばニュースしか見ていないな、それもスマホを操作しながらだ。

「高木健です! 倉中からきました! ゲームすることと食べることが好きです!みんなよろしくぅ!」

真後ろの席でデケェ声出しやがってこいつ。

なんだかんだで一日が終わりホームルームだ。

「はいみなさん部活を決めるために校内やグラウンドを見て回ってください、帰る人は気をつけて、じゃあとりあえず出席番号一番の人挨拶して。」

「起立、礼」

「「さようならー」」

部活一覧表の紙を広げて見渡す。

「はぁ部活見て回って適当に帰るか。」

「よおっ! 一緒に回ろうぜ!」

後ろから高木健が飛びついてきた。

「健くんハンドじゃないの?」

「いやーそうなんだけどさ学校の構造とか早めに覚えときたいし学校のふいんき見ておきたいだろ?」

思った以上にまともな答えなので断ることができなかった、だが“ふんいき“である。

「そっか、じゃあ行くか。」

「おう、そうそうグラウンドの向こうに別棟あるだろ? あそこはほとんどの部屋が部室専用スペースらしいから行ってみようぜ!」

「あぁいいよ」

学校の構造を覚えたいんじゃなかったのかコイツ。

「こっちこっち‼︎ グラウンド通るからそん時屋外活動もチラチラみようぜ。」

「そうだね」

グラウンドを横目に隅の方を歩いて行く、大きな声が混ざって耳に入ると頭が痛い、中学の時は自分も運動部だったので声を出して迷惑をかけていたかと思うと申し訳ない、まぁ俺が運動部に入る気がない理由は別にあるが。

「二階建てで一階四部屋で計八部屋の棟で一番手前が生徒会室で他はなんかしらの部室らしいよ」

「へぇ、なんか気になる部活とかあるの?」

「うーん特に、俺部活決めてたしこっちの棟全部文化部じゃん? 気になるのはないかなー」

お前何しにきたんだよ。

「享介は気になるのある?」

呼び捨て。

「そーだなー、ぼちぼち決め始めてるけどねー」

「何々‼︎ 運動部⁉︎」

「うーん運動部は中学で入ったしいいかなー文化部の経験もしておきたいし学生のうちに色々しないとな」

「あーそれいいね‼︎ 俺も享介が入るとこ行こうかな‼︎」

やめてくれや。

「いやー一つの事ずっとやり通すのも素敵だけどねー」

「そおっ⁉︎ やっぱそうかなぁいやーハンドもやってて楽しいしなーそっちの方がいいよなーえへへぇ」

セーフ。

「あっ‼︎ そういえばハンド部の仲良い先輩から部員に俺のこと紹介してもらうって言ってたんだ‼︎ 忘れてた‼︎ ごめん俺行くわ明日また回ろーバイバーイ」

嵐みたいな奴だなあいつ。

「まぁ1人で見て回るか」

一階、生徒会室・演劇部・手芸部・茶道部

二階、写真部・囲碁将棋部・新聞部

どれもしっくり来ないまま最後の部屋まで来てしまった。

ガチャッ

「失礼しまーす」

部屋に入った瞬間に柔らかく冷たい不思議な空気に包まれる。

「あっ! いらっしゃーい、そこ座っててすぐお茶出すから、土岡くーんお茶出してー!」

妖艶な女性に声をかけられ言われるままに席につくと背の高い整った顔の男子生徒にお茶を出される、部室でなぜ客人に茶が出るのか疑問に思いつつ女性が向かいの席に座るのを待つ。

「はーい今日はどのようなごようけんですかー?」

「えっと、俺新入生で部活見学でいろんな部活回ってて」

「あらそうなのー、うち部員少ないから入ってくれると嬉しいなぁ」

「えっとこの活動場所確か紙には便利部って書いてあったんですけど、なんの部活なんですか?」

「えっとね便利部は学校の敷地内の清掃を中心として、生徒教師問わずにお願いされたことを引き受けて活動する何でも屋さんみたいなものね」

「えっと、どんなお願いが多いんですか?」

「そうねぇ、よく来るものと言うとグラウンドの砂を平にしたりポスターの掲示と回収、荷物運び、個人的なもので言うと落とし物探しとかかしら?」

「なるほど」

「依頼が来ないときはちゃっちゃと掃除してこの部屋で課題するもよし読書やゲームをするもよし寝てもいい感じの時間に起こしてあげるわ!」

「何それ入りたい」

「うんいい返事ね! まぁあなたも若いし、もしかしたらこれから三年続けるかもしれない訳だからゆっくり決めればいいわよ、そうだ自己紹介がまだだったわね公共、地理、歴史の先生でこの部活の顧問の宮下沙璃那ですよろしく」

「佐武享介です」

「享介くんね、二年の男の子と三年の女の子は活動中で今いないけどそこで本読んでるのは土岡くん、三年生で部長ね」

「あ、初めまして」

「うむ」

うむ⁉︎ なんだその返事は‼︎

直後土岡先輩が立ち上がる‼︎

「ところで君は桃色アスカを知っているかね?」

スマホをイジっている時に目にしたことがある気がする、確か動画配信者だったか、だが今それがなんなのだろうか。

次瞬間ソイツは勢いよくカーテンを開け両手を広げ天を仰ぎ目を閉じて語り始めた‼︎

「桃色アスカとは‼︎ ライブ配信を中心として幅広く活動を展開している娘でね‼︎現在ぴこぴこ動画のフォロワー数は二十三.二万人‼︎ ゲーム配信や雑談配信は勿論、作業配信歌枠配信などをしてるが私のイチオシはももいろクッキングでねぇ‼︎ ちなみに私はお殿様もののふだ‼︎」

なんなんだコイツ、俺は今何と相対しているんだ⁉︎ 人間か‼︎ 人間でいいのか⁉︎ 生物としての本能が人間であることを否定している‼︎ 何かもっとこう恐ろしい。

「もう土岡くんあんまり新入生にがっつかないの」

「申し訳ないMiss沙璃那、しかしこれは便利部部長として大事な質問なのだ、さぁ答えたまえ君は桃色アスカを知っているのかっ‼︎‼︎‼︎」

「少しだけ知ってます」

「少しだけ、だと?」

クソッ返答を間違えたか⁉︎

その男は俺を抱きしめ女性的な手つきで頭を撫で回した。

「そうかそうか、決めたぞMiss沙璃那この子は入部させよう」

勝手に決めるな。

「享介くんごめんねー慣れたら良い子なのよ本当に」

クソなんでこんなに良い匂いなんだコイツ‼︎

「っとりあえず離してください先輩‼︎」

「おっとすまん」

「ごめんね享介くん今日は帰ってゆっくり考えて良いわよまだ見てない部活もあるだろうし」

「そうします」

部室を出てどっと疲れを感じたのですぐに家に帰って寝た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る