特別な「  」


彼女はどこか浮世離れしていて

半分透けてるんじゃないか、なんて

思うくらい静かで気配が薄いのに、

そこに確かに居たと、

その影だけがずっと残っている。

そんな存在だった。


ぼくが物心ついた時には

いつの間にか、

でも当たり前にそこにいて

けれども外国のひとだったから

何を言っても伝わらなかったし、

彼女が何を思っているのかも

幼いぼくにはさっぱり分からなかった。


だけど居なくなってから

ふと思い出すたびに

彼女は本当の本当に

だったんじゃないかと、

そう思うのだ。


日光を羽衣のようにまとう

黄金の毛並み。

それがよく似合うのに、

でもその羽衣は彼女のものではないのだ。


どこでもない場所に

静かな視線を向ける彼女は

異星のひとか、それとも異界のひとか、


そういう妄想をする。

彼女が土の下に埋まった

ずっとあとに。


その時、脳裏に浮かぶ彼女は

レースのカーテン越しに見るように朧気で、

だけど光にあてられて

濃い影を残している。


そんな姿だけが、

ぼくの記憶に残っている。




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