unknown
大隅 スミヲ
第1話
奇妙なモノが見つかったから見てほしい。
そんな連絡があったのは、昼下がりのことだった。
喫茶店でハンバーガーとフライドポテト、コーラのセットを注文し、半分ほど食べたところでスマートフォンがメッセージの着信を知らせたのだ。
メッセージには写真も添付されていたがそれを見る気にはならず、私はメッセージだけを読んでアプリを閉じた。いまは、目の前にあるハンバーガーと対峙することを優先させた。
ビーフ100%。それが売りのハンバーガーであり、ひと噛みしただけで肉汁があふれ出す。その肉汁をさらに美味くさせるのが、ソースの存在だ。マヨネーズとケチャップを黄金比で組み合わせたオーロラソースとの相性が抜群に良かった。口の中で肉を咀嚼するたびに旨味が広がり、幸せな気分にさせてくれる。
そして、コーラ。この炭酸強めのコーラをストローで吸い上げ、口の中のバンズと肉を喉の奥へと流し込むと喉が、そして胃袋が喜んでいるのがわかる。
さらにはフライド・ポテト。ハンバーガーの添え物のような存在であるポテトであるが、侮ってはならない。揚げたてのポテトの噛んだ時の食感。これが癖になる。一度食べ始めると無くなるまで手を止めることはできない。ポテトには塩が振ってあるのだが、さらにケチャップをたっぷりと付けて食べるのが、この店での私の流儀だ。
バーガー、ポテト、どれを食べても、美味い。そして、一度食べたら病みつきになること間違い無しだった。
たっぷり時間をかけてハンバーガーとポテトをすべて平らげ、コーラを飲み干すと、そこでひと息つく。仕上げに、紙ナプキンを使って丁寧に口の周りについたケチャップと肉の油を拭き取ると、私は席から立ち上がった。
「ごちそうさまでした」
厨房にいた店のオーナーに声を掛けると、オーナーは被っていたキャップを少し浮かせ、私に笑顔で挨拶を返してきた。
レジにはアルバイトの女性店員がスタンバイしており、スマートフォンで料金を支払うと、WEB会員用のポイントを3ポイントくれた。あと2ポイントで、特別なバーガーを注文することが出来るゴールド会員へとランクアップできるとのことだった。
「ありがとうございました」
女性店員の声を背に受けながら私は店を出るとスマートフォンを使い、配車アプリを使ってタクシーを呼んだ。このハンバーガー屋は駅から歩くと20分もかかるところにあるため、車が無いと来るには不便だった。
タクシーが来るまでの間、私は先ほど来たメッセージをもう一度確認した。
奇妙なものが見つかったから見てほしい。そのメッセージには写真が添付されていた。
画面をスライドさせて、画像を表示させる。
私の目に飛び込んできたのは、真っ白な物体だった。人の形をした女性のマネキン。そう思ったが、すぐにそれがマネキンではないことに気づいた。本物の人間だった。しかも、死んでいる。画像に収められていたのは、人間の女の死体だった。肌は色が抜けてしまったかのように真っ白になっており、まるで色の無いモノクロ写真のようだった。女の身体にはところどころに水滴がついており、全裸だった。小ぶりな胸に、浮き出た肋骨。画像をスクロールさせ下半身もチェックしたが、どこにも外傷は見受けられなかった。
身元、不明。死因、不明。死亡推定時刻、不明。すべてに不明という文字が並んでいる。
奇妙なもの。それがこの死体だというのだろうか。
すべてが不明な死体。
『これから向かう』
私はメッセージに返信を打ち込んで、タクシーが来るのを待った。
タクシーがやって来たのは、それから五分後のことだった。
「××埠頭へ行ってくれ」
「え?」
私の言葉に運転手は驚いた顔をした。
その埠頭までは、ここから二時間ほど掛かる距離だった。
「××埠頭だ」
私はもう一度、運転手に告げる。
すると運転手はルームミラーでこちらを見つめながら、本当にいいのかといった表情をして見せた。大口の客だが、本当に信じていいのだろうかと、こちらを値踏みしているようにも見える。
仕方ない。私はため息をつくと、運転手を安心させるためにも身分証を提示してやった。
「これは失礼しました」
身分証を見た運転手は頭を軽く下げてから、メーターをスタートさせた。
「お仕事ですか」
私の身分証を見て安心したのか、運転手が話しかけてくる。
しかし、私はあまり話をしたくなかったので、適当に相づちを打つだけにしておいた。
「すいませんね、あまり話はできないですよね。失礼しました」
何を勘違いしたのか、運転手はそう言うとあまり話しかけて来なくなった。
私にとってそれは好都合であったため、黙って外の景色を眺めていた。
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