色違いの発明
春成 源貴
ある晩に、珍しく古い友人と出かけた茂呂博士は、そこで天啓を得た。
友人は名前は伏せるが、その世界では有名な人物で、ナイトクラブをいくつか経営し、自分でもいくつものショーやライブを手がけている。その晩も、自身が経営するナイトクラブに茂呂博士を招き、旧交を温めた。
二人が知り合った経緯や関係については、ひどく長くなってしまうので端折る。ふたりはゆっくりと語らい、久しぶりに充実した時間を過ごしたのだが、茂呂博士はさらにもうひとつ手にしたものがあった。それが天啓である。
ほとんど初めて、ステージを観覧した茂呂博士は、その照明に心を奪われた。目まぐるしく変化する色彩と、明暗を使い分けるライトワークは茂呂博士を虜にした。
翌朝、茂呂博士は布団から這い出すと、興奮した様子で朝食を掻っ込み、そのまま研究室へ直行した。そして数日間籠もった茂呂博士は、ようやくいつものように発明品を手にして姿を現した。
茂呂博士は一度自宅に戻り、簡単な食事と身支度を終えると、再び研究室を訪れた。
その手には、大型の懐中電灯が握られていた。
研究室には唯一の博士の理解者とも言うべき、助手のヤマダが待ち受けている。茂呂博士は手にした懐中電灯のような機械、『物資変質ライト』を机の上に静かに置いた。
「博士、新しい発明ですか?」
ヤマダが訊ねると、茂呂博士は少し嬉しそうにしながらも、重々しく頷いた。
「……色を使った物質変換器、なんだが……まあ、見せた方が早いよな」
いつものとおりである。茂呂博士は、ポケットから大きな透明の石を引っ張り出すと、コトリと実験机の上に置いた。
「これは、ただの水晶だ」
そう言うと、茂呂博士は物質変換器と呼んだ懐中電灯を水晶の方へ向けスイッチを押した。
青い光が発射され、水晶を染めるようにして照らす。
「あっ!」
ヤマダが声を上げる。
水晶が、受けた青い光が染みこんだように、深く碧い石へと変貌していったのだ。
「これで、もうこれは水晶ではなくなった」
そう言った茂呂博士は、水晶だった物を備え付けの成分分析器に放り込んで、スイッチを押した。
音波と光を使った成分分析器は、すぐに振動を終えると結果をディスプレイに表示た。
「サファイア?」
「そう。炭素に置き換わったようだね」
「すごい発明ですね」
「まあな。これは偉大な発明だと思うが……」
そのまま博士が語る所に寄れば、実は原理はイマイチ解明は出来ていないという。こうしたいという思いと共に、ライトをこねくり回し、いろいろな理論を当てはめ、付加していった結果、某ネコ型ロボットの秘密の道具のようなライトが出来上がったのだった。
「今度は赤にしてみよう」
スイッチがオンになると同時に、赤い光が放たれ、石の色が再び変わる。先ほどと同じ手順で解析すると、石はルビーに変わっていた。
「つまり、色にちなんだ物質になるというわけだな。元になった物質の素材にも寄るらしい」
「なるほど。石の一種だから宝石になったんですね」
ヤマダが感心したように手を叩く。
「そうだな。さらにすごいのは色の組み合わせが出来る点だ。三原色を使っているから、ほとんどどんな色でも使えるぞ」
そう言って茂呂博士が照射したのは、緑の光だった。
「青と黄色だな」
出来上がったエメラルドを手に取って眺めつつ、茂呂博士は呟く。
「増やせないのは文字通り珠に傷だが、まあいいさ。水晶くらいどこにでもある」
「博士!三色同時も出来るんですか?」
「もちろんだ。ブラックダイヤモンドになるかもな?そうしたら、もう研究資金に困ることもない」
茂呂博士は愉快そうに笑うと、ダイヤルを捻ってスイッチを押そうとする。
そのとき、二人の間に変な空気が漂い、その原因が二人の閃きにあることが分かる。
『あ!』
美しく二人の声がハモる。
「博士?不味いのでは?」
ヤマダがとっさに声を上げるが間に合わない。
三色の光が発射される。
「しまった」
逸らそうとするが間に合わない。
色の三原色なら確かに黒になるが、これは光だ。光の三原色は……
「やっちまった!」
博士の悲しそうな声が木霊する。
光の三原色を混ぜた結果、ただの白い透明な光に当たった宝石は、透明になって消えてしまった。
色違いの発明 春成 源貴 @Yotarou2019
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます