(`艸´;)限界投稿者と超絶美少女読者チャン!
@nanactan
あああああアッチョンプリケ!ブヌッコ!
深夜2時。俺は最近薄くなってきた頭を掻きむしった。
小説投稿サイト「カクカク嫁」に投稿した小説がぜんぜん伸びないのだ。すでに10万文字を超えているのにUAはわずか800。お気に入りも10件ほどで、ランキングに乗るなど夢のまた夢。
タイトルを変えたり流行りのファンタジー要素を入れたり自分なりに工夫しているのに、なぜのびないのか。
もしかして俺には才能がないのか。俺の作品は面白くないのか。
ああもうなにもわからない、ランキング上位を見たって、なぜ高評価なのかもわらからない、あああああああああアッチョンプリケ!ブヌッコ!
と発狂しかけたとき、窓ガラスが砕け散った。うわなんだと驚く暇もなく、誰かが俺の部屋に飛び込んでくる。
見た感じでは未成年の――かなり可愛い女の子のようだが。
その子は俺を見るなり変なポーズをとって言った。
「TS超絶美少女読者さまちゃん登場ぅ★!!」
いや、窓どうすんだよ。そう言いたいのをこらえて、俺は聞き返した。
「読者さまちゃんって……もしかして? 投稿した小説を読んでくれている読者さまちゃん!?」
「――さんをつけろよデコ助野郎!!」
あああああああああsっだああああああああ。後頭部をつかまれてキーボードに押し付けられる俺。
「す、みません! 読者さまちゃんさん!」
読者さまちゃんはにこっと笑って、「それで、」と俺に聞いてきた。
「キミ、投稿者なんでしょ。読ませてよ、きみの魂の作品をさぁ!」
俺はかっと目を見開いた。そうだ、この子は貴重な読者さまなのだ。ぜひ俺の作品を見てもらわなければ……!
「こ、これです!」
「うーん、なになに。『蘇るタキオン――プロキシマケンタウリ級駆逐艦、
我が意を得たりと俺は力強くうなずいた。
「そうなんだよ! 宇宙のロマンや、熱い艦隊戦、かつて一世を風靡したSFのすばらしさ! それを俺は書きたいと思って投稿してるんだよ!」
「鼻息あらいって。まぁ読んであげるからまってなさい」
――そして2時間後。
読者さまちゃんは最新話のスクロールバーを下まで降ろした。――読了である。俺はごくっとのどを鳴らして聞いた。
「ど、どうだった……?」
読者さまちゃんはうん、と軽くうなずいた。
「面白いよ、これ。とっつきにくいけど、普通にストーリーもキャラもいい」
はぁあああ、と俺は安堵のため息を吐き出した。よかった。俺の作品は面白いんだ……!!!
そんな俺をちらりと見て、読者さまちゃんは割れた窓をまたぐ。
「じゃ、つぎの作品が待ってるから。私はこれで。アデュー★」
俺は慌てて引き留める。
「ま、まってくれ! まだ聞きたいことがあるんだ!」
「な、なによぅ……?」
俺はパソコンを操作して自分の作品のアクセス数を表示した。
「ぜんぜん評価されないんだ! 見てももらえないし、感想もつかない。これじゃモチベーションが保てないんだよ。どうしたらいいんだ、教えてくれ……!」
読者さまちゃんは心底嫌そうな顔をしたが、俺が古ぼけた畳に何度も頭を押し付けると、
「しょうがにゃいなぁ……」
と、つぶやいて、俺の椅子にすわった。
「そんなの簡単だよ。舞台をファンタジーにして、可愛い女の子をいっぱい出して、主人公も私みたいなTSキャラにするの。もちろんチートもつけて、とんとん拍子に話が進むようにする。読者にストレスを与えないように気をつけて、毎日投稿。ランキング上位を確認して、たとえば実況ものが流行ってたらそれを取り入れたらいいし、今まではやった『ざまぁ』『聖女』『悪女』『メスガキわからせ』とかの要素を取り込んでいったら盤石なんじゃないかなー。あとそれから――」
俺は我慢できなくて割り込んだ。
「ま、まってくれ、読者さまちゃん!」
「――さんをつけろっつってんだろデコ助野郎!!」
畳の上に散らばっていた「ブルーアイズホワイトドラグーン」(初版)のカードが俺の顔にささった。
「す、すみません! ……あの、それだと俺の書きたい小説じゃないんです! 俺はさっきも言ったように、SFが書きたいんです! 熱い男の友情を、星になった男たちの命を!」
読者さまちゃんはぎろっと俺をみて、半笑いで言った。
「じゃあ書けばいいじゃん」
「で、でも、それだとUAが……お気に入りが……」
「ついてるじゃん。お気にいりも9人がしてくれてる。その9人は、キミの作品を楽しみにしてくれてるわけでしょ。読者がいるんだよ?」
「そ、それはそうなんですけど、俺はもっとたくさんの読者に…」
読者さまちゃんは「いひっ」とわらって、自分の耳を引っ張った。先が尖ってちょうど「エルフ」のようになる。
「キミの作品、硬派なSFなのにエルフがでてたよね。美少女でロリなエルフ。なんで?」
どきりとする。俺が言葉をえらんでいると、読者さまちゃんは言った。
「そういうキャラをだしたら、UAが増えると思ったんでしょ?」
「は……はい。本当はしたくなかったんです。でも、感想とか、ほしいから……」
はぁん、と読者さまちゃんは馬鹿にしたように言った。
「もう魂を売っちゃってるじゃん。自分の書きたいものよりウケるかどうかを考えちゃってる」
読者さまちゃんはクスクスと笑いながら俺の耳元に口を寄せた。
「ねぇねぇ。キミさぁ、本当は小説を書きたいんじゃなくて、お気に入りや『おもしろかったです!』みたいな感想をいっぱいもらってさ、気持ちよくなりたいだけなんじゃない?」
俺は何かを言い返そうとした。俺は本当に小説を書くのが好きだ。好きなはずだ。じゃあ、なんで……。
読者さまちゃんは俺の言葉を代弁するように言う。
「本当に小説を書くのが好きなら、書けばいいんだよ。9人もキミのファンはいるんだ。こつこつ書いて、自分の納得のいくものを書けばいい。でもそれじゃダメだって、いうんだったら――」
やめろ、それ以上は言うな! 俺はそう叫びたかったけれど、どうしても言えなかった。だってそれは真実だからだ!
「キミはやっぱりちやほやされたいだけなんだよ。あわよくば書籍化もされて、小説家になって、アニメ化もされて、ゆくゆくは印税生活。そう考えているんでしょ」
「う……うう……」
「それなら小説じゃなくてもいいんじゃない? YouTubeに動画を投稿するとか、シブに絵を載せるとか、同人ゲーを作るとかさ。――あ、そっか。小説って、絵とかにゲームに比べたらすごい簡単そうだもんね! 俺にもできそうだって飛びついちゃったんだ!! あはは、ウケる」
俺はなにも……言い返せなかった。でも俺は本当に小説が好きなんだ。書きたかった。もちろん、そこに自己顕示欲がなかったとは言わない。面白いと言われるととてもうれしかった……。
なのに、いまは評価や感想がなけりゃ、大勢の人に読んでもらわなきゃ、ダメになってしまった……。
なんでだ……おれは……俺は! ただ小説を書きたかっただけなのに!! なんでそれが出来ないんだ!!
俺はパソコンをつかむと、勢いのままに窓から投げ捨てた。
――俺はもう書くのをやめる。俺には……無理だ。俺はただ自己顕示欲を満たしたいだけの無能だ……。
気がつけば空は白みはじめ、読者さまちゃんの姿もどこにもなかった。
――そして1年後。俺は出勤途中の電車の中で、学生たちが立ち話をしているのを聞いた。
「あれ読んだ? 新作のさ、腐った死体が魔王を倒すやつ!」
「読んだ読んだ、マジ面白いよな!」
ふん、と俺は鼻をならす。なんだそのありきたりなやつは。でもまぁ、一応、チェックしておくか。どれどれ。
スマホを出して投稿サイトを久しぶりにのぞく。お、あったあった、ランキング1位じゃないか。
――次は、聖櫃桜が丘…… 次は聖櫃桜が丘……
俺は慌てて顔をスマホから上げた。もう目的の駅は次だ。
……くそ! おもしれえじゃねぇか!! ――でも俺なら、あの展開はこうするよな。もうちょっと魔王をメンタル的に弱いキャラにして。ああそうだ、主人公の過去も少し変えて……
ふと、無性に小説が書きたくなった。俺はじっと手をみる。俺に書けるのだろうか。たとえまた評価されなくても、それでも――
「――好きなら書けばいいじゃん」
その声におれはハッとなる。ドアの窓をみる。流れていく駅のホーム。そこに確かに彼女がいた気がした。
(`艸´;)限界投稿者と超絶美少女読者チャン! @nanactan
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