第31話 領地の街作り

 翌日、カグヤの隣の部屋の転移門部屋からテレサ、キャロルとその従者三名を連れてマホ族のところへ転移する。


「これは一体。」


「ほんとに転移した。」


「ここがカズラ高原ですか。」


「ウム、まずはここにカントリーハウスを作ろうと思うが・・・。」


 転移陣のある祠から出ると、回りにはマホ族の簡易テントのような物が大量に建っていた。

 マホ族の族長シャチが慌てて走ってくる。


「お待ちしておりました。カグヤ様の側に居たい者が祠の回りに引っ越してまいりました。」


「うんそうか、屋敷の管理をする者もほしいからありがたい話しじゃが、いつまでも頭を下げ続けるのはやめてくれ、挨拶なら軽く頭を下げるだけでよいのじゃ。」


「は、では皆にはそのように伝えておきます。」


 カグヤはキャロルたちを紹介してから、精霊ゴブリン、精霊オーク、クモガタを呼び出し屋敷を作り始める。作ると言っても、土台や壁は土魔法で生成して窓枠なんかを作り足すだけだ。ストレージから加工した材木や木工道具を出していく。


「ゴブリンにオークだと・・・。」


「こやつらは森の魔物とは違い精霊種なので人に危害を加えることはないのじゃ。むしろ、人に興味が無いと言う方が早いかの。石ころ程度にしか思ってないじゃろうな。」


「そうですか。」


 シャチは不思議な物を見る顔をしている。


「うーん、まだいろいろ手を加えたいのう。フェイも手伝っておくれ。」


 妖精フェイを呼び出しと同時に異様な姿のスプリガンや大きな体を持つトロールも一緒に出現する。


「な、魔物。」


「いや、妖精フェイたちを呼ぶとなぜかスプリガンとトロールが一緒に現れるのじゃ。フェイは魔法が得意で、妖精スプリガンと妖精トロールはその補助をしてくれるのじゃ。」


「人に害を加える魔物と聞いております。」

 キャロルの従者の一人がカグヤを問い詰める。


「逆じゃな。妖精と妖精たちの土地を守るのがスプリガンとトロールなのじゃ。フェイの忠実な家臣と考えておけば問題なかろう。」


 カグヤは妖精フェイに得意の魔法で建築の手伝いをするよう伝える。



「畑作りの方はうまくいっておるかの?」


 カグヤの側に控えていた精霊ドライアドに問う。


「道具が足りないため順調というほど進んではいません。」


「なるほど、鍛冶が必要か。」


 カグヤはマホ族の族長シャチを呼び、鍛冶ができる者を呼びに行かせる。


「できるものがいるようじゃの。」


 シャチは5人の鍛冶師を連れてくる。


「設備と材料があれば加工は可能かの?」


「はい、やれるだけのことはやりたいと思います。」


 カグヤは5人を300mほど離れたところに連れて行き魔法で鍛冶場を立て始め炉も作る。隣に資材置き場を作り、鉄やニッケル、クロム、銅を大量に置き、スコップやクワ、鎌、鍬、鉈、ヤットコ、煉瓦、石灰等をストレージから出していく。


「お主たちはこれで農具や調理道具を作るのじゃ。他に必要な物があったら言ってくれ。大量に作れるようになったらワシに一定量を納めるのじゃ。」


「は、必ず成功させてみせます。」

5人は火をおこすための薪を集めにいく。


「さて、畑の方はどうじゃ。何か植えたかの。」


「はい、ドライアド様の指示でいろいろな種類を植えました。」


「ふむ、いずれは税も取られるからのう、収穫の2割は徴収することになる。ところで稲は知っておるか?」


「いえ、知りません。」


「そうか、自力でなんとかするかの。」


 カグヤはそう言うと羽のついた大きな扇子に乗ると空に飛び上がり、川沿いを飛びながら稲の作りやすい場所を探す。1kmほど西に湿地のような場所を見つけ飛んでいく。


「この辺をワシの田んぼにしようか。その前に着替えねばな。」


 野良着に着替えクモガタを5体と田をかき回す道具を出す。


「おぬし等、この湿地帯を田んぼにする。10haはあるかの。これでかき回すのじゃ。」


「ここに住んでる生き物は?」


「稲の肥料となるだけじゃ。さあ行くのじゃ。」


「ヘーイ、殺戮にいってきまーす。」


 小川から水を取り入れられるように魔法で用水路を作っていく。湿地の反対側に排水路も作ってなんとか川に繋げる。魔法で温室を作って稲の種を大量に暖かい水に漬けて終わり。


 種まき用の土を焼いて殺菌消毒しているとシャチやキャロルたちがやってくる。


「黙って行ってしまうなんて酷いです。」


 キャロルがやや拗ねたように言う。


「時は金成り、農業に街作りと忙しいのじゃ。シャチ、金は払うのでキャロルたちに馬をあてがってやってほしいのじゃ。」


「おとなしい馬でお願いします。」

 キャロルの従者は即座に追加の注文を出す。


「お金などいただけません。10頭ほどカグヤ様のお屋敷専用に見繕っておきましょう。」


「それは助かるのう。その言葉に甘えるとするかの。」


「もったいないことです・・・。ところでここでは何をしているのでしょう。」


「ウム、米じゃ、ここに水田を作る。この広さで取れる米で1万人が1年食えるのじゃ。」


「ほう」


 皆驚いたようにクモガタたちが走り回る湿地を見る。


「ま、実際は生育不良が出たり、さらに税とか他の物と交換したりで半分がいいとこじゃろうな。」


「それでも多いですね。この水を入れた壷に入ってるのが種ですか?」


「そうじゃ。1日弱で芽が出たら育苗箱に入れて1月待つのじゃ。明日は大忙しじゃ。」


「他の国には私たちが知らない食べ物があるのですね。」


「さて、おやつにするかの。」


ストレージからテーブルとイスを出してからアップルパイと紅茶を並べる。


「やわらかいパンの中にリンゴですか?」


「カスタード入りじゃ。甘くてうまいが食べ過ぎると太るので一人一個じゃ。」


「おいしぃー。」


「とても幸せな気分です。」


 食べ終わるとキャロルが言い辛そうに上目遣いでカグヤを見る。


「・・・あのう、カグヤ。」


「ん、なんじゃ。」


「その、私も精霊を扱いたいのですが、どうすればいいのかがわかりません? 武術大会の決勝でカグヤが相手にした精霊とその前の対戦でカグヤが出した精霊では本質的に何か違うような気がするのです。」


「フム、そこに気がついたとはたいしたものじゃ。ワシが使うのは自然に発生する精霊じゃ。ワシの魔力を基本にしておるが自然の魔素が多く、意志も持っておる。

 決勝で相手が出したのは魔石に魔力を籠めて魔法で作る擬似精霊じゃ。擬似精霊は術者の理解している事しかできん。普通の精霊はもっといろいろできるし自分で考えて工夫もできるのじゃ。」


「よく言われる契約精霊はどちらなのでしょう。」


「両方じゃが、大抵は擬似精霊じゃ。擬似精霊なら裏切ることはないが、そんな物がほしいのかの?」


 キャロルは首を振る。


「私はなんでもお話できるお友達がほしいのです。」


 何の疑問もなく王族として生きてきたキャロルの立場を考えればわからないこともない。


「一生まとわり付くだけのうるさい虫みたいな存在じゃぞ。」


「はい、ぜひ。」


・・・うーん、素直なのか、心底孤独なのか。


「私もほしいです。」

 テレサも便乗してくる。


「お主はムリじゃ、いろいろけがれておる。」


「んな、私はまだ・・・。」


 テレサの話しを遮るように大金貨を一枚出す。


「いま、一瞬でもほしいと思ったじゃろ。」


「ええまぁ、人なら誰でも。」


「それがけがれじゃ。欲にまみれおって。」


 ニヤリと笑いながら大金貨をしまう。


「クッ、私はなんて卑しいのだ・・・。」


「いやいや、それが普通だから気にすることはないぞ。むしろ欲望に素直で好感が持てるぐらいじゃ。」


「褒めてませんよね。」


「あー、そんなことより、」


「そんなこと・・・。」


「キャロル、手を出して魔力を籠めるのじゃ。」


 キャロルは目を瞑って魔力を手に籠める。カグヤはその手を握る。しばらくするとキャロルの前に光の靄が集まり、手のひらサイズの透明な羽の生えた人の形に成していく。


「もう良い、目を開けよ。」


「エッ、あなたは・・・エインセル。」


「なるほど、そうきたか。良いのではないか。」


「えっ、私は今なんて・・・。」


「この子の名じゃな、頭に浮かんできたのじゃろ。自分自身という意味じゃが、それは気にすることは無い。」


「そうなのですか・・・。」


「いまは妖精じゃが、キャロルの成長と共に精霊となる。どんな能力の精霊になるかは知らぬがキャロルの妖精じゃ。」


「キャロルです。これからお願いしますね。」


 エインセルはじっくり観察するようにキャロルの回りを飛び回ってから開口一番。


「フン、まぁいいわ。私の下僕としてはなかなかの上玉ね。お菓子は必ず奉納しなさいよ。」


「えっー、口が悪すぎませんか。」

 テレサがカグヤを見る。


「ワシは手伝っただけで関係ないのじゃ。」


「カグヤ! 私のアップルパイはどこよ。」


 カグヤはストレージからアップルパイを出す。


「基本的にこいつらにエサは必要無いからの。お菓子を食べるのは趣味のような物じゃ。慣れるまではキャロルの頭の上が巣となる。立場は持ちつ持たれつの対等じゃからの。」


 従者たちが慌てだす。

「巣って・・・。」


「住み着くということじゃ。ネグラとも言うのう。」


「そんなことわかってます。社交に出たときどうするんですか?」


「頭の上にいるか、回りを飛び回るかじゃろうな。」


「消せないんですか。」


「運がよければいつかそんな能力も手に入るじゃろ。」


「ちょっと、そこの下僕の従者うるさいわよ。黙りなさい。」


「は、はい。」


「ウフフ、そのときはそう説明すればいいのです。大丈夫ですよ。」


「はぁ・・・。」


 どうやらキャロルは受け入れたようだ。そもそもお互いの相性が悪ければ生まれるはずはない。キャロルが望んだのは信用できる友達なのだ。


「さて、続きをするかの。」


 カグヤはキャロルたちをほって置いて水田の作業に入る。


 排水を効率よくするためいくつかの区画に分け、田んぼにあぜ道も作り水路を通してから、建築中の屋敷に帰る。


 マホ族の簡易テントの回りには馬に牛や羊たちが草を食んでいた。カグヤはシャチを呼び家畜の様子を聞く。


「最近、馬に元気がありません。」


「そうじゃろうな、北方と違って、このあたりの草の栄養価は低いはずじゃ。燕麦やフスマ、大豆やトウモロコシなどの穀物も少し食べさせると良い。胃袋が小さいので与え過ぎるとすぐ死ぬのじゃ。いろいろ試してみよ。」


「そうなのですか、知らない名の穀物もありますが試してみます。」


 カグヤはストレージから穀物を出しながら説明する。一通り説明するとすぐ次の行動に移る。


「さて、温泉を掘り当てるのじゃー。」


 魔法を使って祠から少し離れた地面に穴を開けていく。しばらくするとジャバジャバと温泉が湧いて出てくる。一瞬喜んだが、設備も排水も準備していないことに気づいて慌てて穴を塞ぐ。


「地中からお湯が出るのですか?」


 精霊エインセルと一緒になんとなく見ていたキャロルが驚いて聞いてくる。


「地中の熱で温められたただの地下水よ。山の麓に湧く温泉には傷ついた獣や魔獣が争いをすることも無く一緒に入ってるわよ。ヒューマンも喜んで入るわね。」

 生まれたての妖精エインセルは語りだす。


「こやつは生まれたてとはいえ、自然の精霊の粒だった頃の記憶も交じっておるのじゃ。」

 カグヤはキャロルの頭の上にいるエインセルを指さす。


「平和の楽園のようなところですね。」


「中性なので川に流して農地に撒いても問題なさそうじゃな。大きめに作っておくかのう。」


 カグヤは魔法で浴槽を作りながら壁を作っていく。浴槽の大きさは男女とも50m×10mぐらいで作ってみた。


「王宮の浴槽より広いです。」


「ウム、真の贅沢とはこういうところでするものじゃ。」


 そういいながら排水溝を小川まで延ばしていく。作業の目処が付いたところでお湯を入れる。


「今日はこんなところかの。温泉はお主らが使ってよいぞ。冒険者や旅商人にも使わせてやると良い。我等はまた明日来るのじゃ。」


 カグヤはシャチにそう伝えるとテレサと、キャロルや従者を集め転移で王都に戻る。


「これ、ほんとに便利ですね。」


「魔力の消費が激しいのでワシしか使えんぞ。」


「魔石を使ってもダメですか?」


「言霊を使えんとムリじゃな。」


「言霊は神代の業だもんねー、私たち精霊でもムリだわ。」


「カグヤは神なのですか?」


「いや、断じて違う、間違って広めないでほしいのじゃ。」


 カグヤは語尾を強くして否定する。ほんとうのところはわからないが、神として認められると、社のようなところに封印されて身動き取れなくなる可能性が高いので否定して回っているのだ。

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